世界最小の超小型モーターのトップメーカー
白木学(シコー技研) 第4回「地球人の心意気」
上海に次ぐ第2の海外工場計画
シコー技研が直面する経営課題の1つは、海外生産拠点の見直しだ。日本に研究開発拠点を置き、生産は海外という事業体制を敷く同社の海外拠点は中国・上海工場。だが、ここへきてその頼りの上海工場が大きな岐路に立たされている。
上海工場は国内の人手不足対策として、会津工場を閉鎖してまでやむなく進出した工場だ。白木は上海に工場移転を計画した当時の心境について、堺屋太一氏が日本経済新聞の朝刊に連載した小説「世界を創った男チンギス・ハン」に出てくる言葉を引用して、「〝人間に差別なし、地上に境なし〟という言葉が好きで、この言葉は私と同じ考え方です。私自身〝地球人〟の心づもりで仕事をしていますので、日本人だろうが中国人だろうが、そこに差別意識はありません。中国で現地の雇用増に協力できればと思いました」と語っている。実際、人材育成の一環として、全従業員に上海工場勤務を経験させるとともに、日本人従業員の半数は現場に常駐させていることでも、日中間の融合に腐心していることがうかがえる。
白木が熱い想いで進出したその上海工場が抱える問題とは、しばしばマスコミを通じて日本でも話題となっている上海の電力不足。工場の存続を左右するインフラ問題が同社の前に立ちはだかってきたのである。今年の8月、日本が各地で摂氏40度を超える猛暑に見舞われている折、上海工場では42度を記録していた。止むを得ず現地の従業員たちは「エアコンのスイッチを切って仕事をしている」(白木)有様なのだ。
白木がいくら対中協力に積極的であっても、電力不足というインフラ問題には対応のしようがない。現状のままでは操業の維持に支障をきたす恐れがあるばかりか、急増する需要に対応した設備投資も難しくなる。このため上海工場とは別に東南アジアのいずれかの国で第2の生産拠点を新設する準備を急いでいる。
連結売上高100億円目前、さらなる拡大へ
もう1つの経営課題とは、事業規模の拡大である。同社の2006年12月期の連結売上高は65億3,900万円。それが2007年6月中間期の連結売上高ではすでに前年同期比78.9%増の40億5,100万円と急増している。これに対し研究開発費を含む設備投資は売上高の10%強に当たる8億円前後も投入されてきた。しかもその費用は年々増加する一方。「新しい開発に投資し続けられること」(白木)を経営目標に掲げている同社にとっても、大きな負担となって重くのしかかっている。
「創業以来、資金調達に苦労したことはありません」(同)という同社だが、パソコンや携帯電話向け小型モーターの需要は極めて高く、その分、量産化に伴う資金需要ははかり知れない。つまり財務体質の強化がもう1つの課題として浮上しているのだ。2004年8月、東証マザーズに上場を果たした同社だが、白木は「新興市場では資金調達に限界を感じている。東証1部か2部に上場できればと思っています」と、新たな上場戦略を打ち明ける。
白木は会社の未来像について、「競争力を強化するだけではなく、企業規模を大きくして社会への貢献度を高めたい。今期(2007年12月期)の連結売上高は100億円を見込んでいますが、少なくともその10倍ぐらいには成長したいです」と語る。しかも事業規模の拡大に伴う人材の確保については、白木が大学時代に設立した「特許研究部」の人脈が今でも有力なネットワークとして機能しているという。国内外から脚光を浴びる同社の技術力を、事業規模が拡大するなかでどう継承させていくのか。〝発明家〟白木が経営手腕を発揮する場面がますます増えそうだ。(敬称略)
■ プロフィール
白木 学(しらき まなぶ)
1947年10月、静岡県生まれ。59歳。
1969年4月、東京理科大学を卒業後、伴 五紀教授の私設研究所に入り、小型モーターの研究に従事。
1976年7月、シコー技研を設立し、代表取締役社長に就任
■ 会社概要
社名 |
株式会社シコー技研 |
設立 |
1976年7月16日 |
代表者 |
白木 学 |
事業内容 |
超小型モーターの製造・販売 |
資本金 |
14億5,000万円(2005年12月末現在) |
連結売上高 |
65億3,900万円(2006年12月期) |
従業員数 |
約100名(2007年7月末現在) |
本社 |
神奈川県大和市下鶴間3854-1 |
掲載日:2007年9月25日