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ミドル層を動かし、2030年以降も持続可能な企業へ【株式会社横田アソシエイツ代表取締役/ 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授・横田浩一氏】<連載第4回>(全4回)

2020年 3月24日

SDGsは2030年までを計画年度とする国際目標です。余すところ約10年。その後、企業を取り巻く環境に変化はあるのでしょうか? 連載最終回は、専門家の横田浩一氏にポストSDGsの予測や、企業が今SDGsに取り組むべき理由を改めて伺うとともに、中小企業経営者へのアドバイスを伺いました。

◆SDGsとは?
SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のなかに記載されている、2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するため、「貧困」「飢餓」「気候変動」「エネルギー」「教育」など17分野の目標=「ゴール」と、17の各分野での詳細な目標を定めた169のターゲットから構成されており、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択された。2017年7月の国連総会では、各ターゲットの進捗を測定するため232の指標も採択された。

SDGsの17の目標(国連広報センターウェブサイトより)
SDGsの17の目標(国連広報センターウェブサイトより)

2030年以降もSDGsの考え方は変わらない

SDGs発行前の01年〜15年は、先進国による途上国支援の目標としてMDGs(ミレニアム開発目標)が掲げられていました。このMDGsが抱えていた矛盾や課題を解消し、全世界の全員参加で地球の持続可能性を追求していくために策定されたのがSDGsです。

「そのSDGsも、30年までに達成できない部分はたくさんあるでしょう。その反省を基に、次の国際目標が策定されていくはずです。ただ、その目標の下でも、連載第1回でお話した『バックキャスティング』や、第3回で触れた『異なる社会のつながりから生まれるイノベーション』といった軸が変わることはないと思います。第1回で触れたとおり、すでに2050年のビジョンを掲げている大企業もあるわけですから、SDGsの考え方をベースとする流れが大きく変わることは考えにくいです」

つまり、今からSDGsへの取り組みを進めても、それが無駄になる可能性は極めて低いということです。むしろ、計画期間が残り10年足らずだからといって、SDGsへの取り組みを進めないことは非常に危険。その先のポストSDGsの時代の流れにも乗り遅れてしまうかも知れません。

意識の高い人材が増えていく

企業のSDGs対応が進まない要因として、横田氏は各企業の屋台骨を担っているミドル層の存在を挙げます。

「ビジネスのトレンドを読むトップと、まだ業務サポートレベルの若手は、新しいものへの理解や対応が早く、温度差こそあれ意欲もあります。そこに、日々の業務をこなし、プロジェクトの責任も背負うミドル層をどう取り込むかが一つの課題となるでしょう」

SDGsは教育の場でも盛んに取り上げられ、若者の間では着実に浸透しているようです。

「昨今、SDGsは中学校や高校における問題解決型学習『PBL』(Project Based Learning)の一環として取り入れられており、私自身、学校に赴いてSDGsの授業をすることが増えました。現場での実感としても、社会課題の解決に意欲的な若者は多いですね。また、2020年度からの新学習指導要領では、持続可能な開発のための教育『ESD』(Education for Sustainable Development)も導入されます」

こうした教育を受けた世代が一斉に社会に出てくる未来はすぐそこまで迫っています。この世代は、消費者としても環境や社会についてより感度を高めて行動することでしょう。例えばバックキャスティングで考えた時、理解の進まないミドル層をそのままにしておくことはありか、真剣に検討してみる必要はあるかもしれません。

SDGsは経営そのもの

こうして時代が変わり、それに応じて人や社会も変わっていくなかで、企業にもその変化に対応していくことが求められています。インタビューの最後を、横田氏はこのような中小企業へのエールで締めくくりました。

「もはやSDGsは『余力のある会社が取り組むもの』や『利益に反するもの』といった考え方が誤っているのは明らかです。無視していたら自社の未来はない──というくらい切実な気持ちを持ったほうがいい。ただ逆に考えると、自社の持続可能性を追求する上では、なかなか動き出さない層への働きかけに最適なチャンスが訪れたとも言えます。たとえ今日・明日の収益に追われていても、会社をより長く続けることは、その企業で働くすべての従業員にとって大切なはず。SDGsをツールとするという発想に立ち、まず経営者ご自身で考え、行動に移すことが第一でしょう」

連載「ミドル層を動かし、2030年以降も持続可能な企業へ」

横田浩一(よこた・こういち)
株式会社横田アソシエイツ 代表取締役/慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授

1988年日本経済新聞社に入社。2011年同社を退職後、株式会社横田アソシエイツを設立。15年より慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授を務める。多くの企業のブランディング、マーケティング、CSR、CSV、HRM、イノベーション分野や働き方などの改革に携わると共に、さまざまな地域で地方創生に関わる。また、日本ユネスコ国内委員会や中小企業基盤整備機構、大手企業研修などでSDGsをテーマにした講演も多数行う。

◇主な編著書
・『デジタル・ワークシフトマーケティングを変えるキーワード30』(共著/産学社)2018年刊
・『明日は、ビジョンで拓かれる』(共著/碩学舎)2015年刊
・『ソーシャル・インパクト~価値共創(CSV)が企業・ビジネス・働き方を変える』(共著/産学社)2014年刊
・『愛される会社のつくり方』(共著/碩学舎)2014年刊

取材日:2020年1月9日