ITツール活用事例
クラウド型飲食店管理ツールで経営力向上、店舗焼失危機克服し売上2割増
来店客からのオーダーの受注や代金の収受、そして売上管理をも担う、飲食店にとって要となるPOS・会計システム。これを全く新しいシステムに置き換えたり、初めての店舗で導入したりするのには、さまざまな不安が伴うものです。自分の店舗で必要になる機能を網羅していて、それを過不足なく使えるか、初期費用とランニングコストに見合った成果を上げられるのか、といった点は、実際に導入してみないと判断できないところもあり、経営者の頭を悩ませます。
千葉県内に店舗を構える「季節料理 まさむね」は、2016年、経営効率化やコスト削減を目的に、POS・会計システムをクラウドサービスである「MAIDO SYSTEM」に一新しました。当時、近隣ではまだ導入例が少なかったこともあり、運用ノウハウなどを学びにくいなかでのほとんど「賭け」に近い状況。それでも、同店舗を経営する塩川さんは「なんとかなるのでは」という楽観的な気持ちでスタートさせ、見事に課題解決に役立ててきました。具体的にどんな風に活用しているのか、お話を伺いました。
株式会社まさむね 代表取締役
塩川達也さん
■「MAIDO SYSTEM」導入前の課題・デメリット
手書きによるオーダーミスの多発
コミュニケーションミスによるクレーム
代金収受・金銭管理上のリスク
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■「MAIDO SYSTEM」導入後の効果・メリット
売れ筋メニューや来店客の分析が可能に
業務の効率化による顧客満足度の向上
売上が前年度比20%増
月額わずか1980円で、飲食店に必要な機能を網羅
父の代から飲食店経営を受け継いだ塩川さんにとって、「季節料理 まさむね」は実質的には3店舗目。しかし、父が始めた最初の店舗は今はもうありません。2012年に工事業者による不手際で火災が発生し、焼失してしまったことから、現在の千葉中央駅至近の居抜き物件で再出発を図ることになったのです。近隣に構えるラーメン店も含めると、「燃えることがなければ、これが3店舗目だった」はずの同店舗。重要な拠点の1つを失った痛手から立ち直るためにも、「季節料理 まさむね」の経営を軌道に乗せ、売上や利益を大きく伸ばしていくことが必要でした。
地産地消をテーマに、千葉の農家から仕入れる野菜や房総半島で水揚げされる海の幸をメインにした料理は、地元民のみならず、近年増加している海外からの観光客にも人気が高く、売上は堅調に推移。しかしながら課題も少なくありませんでした。例えば、紙のオーダー表に手書きする当時のアナログなオペレーションではミスを防ぐのが難しかった、と言います。
忙しいなかでの手書きは判読が困難なものになりがちで、従業員間のコミュニケーションミスを誘発する原因となっていました。従業員に外国人を採用することもあり、ますます手書きのデメリットが目立つようになったほか、日本独特の素材や料理を扱うことが多いのも、外国人従業員にとっては客への説明が難しく、戸惑う要因にもなっていたようです。また、手書きでは客観的な注文の証拠が残らないため、会計時の代金収受や金銭管理の面でもリスクがありました。
こうした状況を改善するべく導入したのが、大阪のシステム開発会社まいどソリューションズが提供しているクラウドサービス「MAIDO SYSTEM」です。初期の導入費用こそ、タブレットを使用した専用レジ端末や、オーダーをとるためのハンディ端末、その他専用プリンターなどである程度まとまったコストを見込む必要があるものの、月々の基本料金が1店舗あたり1980円と安価なのが特徴。売上、損益、勤怠、レシピ、予約、集計といった各種管理機能が統合され、飲食店経営に必要とされる機能のほとんどをカバーしたサービスとなっています。
塩川さんは「オーダーシステムは他にもいろいろあるが、MAIDO SYSTEMは飲食店に特化している。機能が多い割にリーズナブルで、将来的な機能追加にも対応できる」ところに魅力を感じ、2015年末からテスト導入、2016年初頭から本格運用を開始しました。当時は近隣で利用している店舗がほとんどなく、現場で活用している人からアドバイスをもらえないという苦労もありましたが、千葉県内で中小企業のIT化に関して支援活動を行っている、NPO法人ちば経営応援隊のITコーディネータの協力もあって、安定運用にこぎつけることができました。
スタッフの無駄な動きがなくなり、客を手厚くケアできるように
多数の機能をもつ「MAIDO SYSTEM」ですが、同店舗では用途を絞り、スマートフォンからいつでも参照できる売上・損益管理機能、従業員の勤怠管理機能、売上推移などをグラフ表示できる集計機能、レシピ管理機能などを活用しています。ハンディ端末で客からのオーダーを入力すると、そのオーダーがキッチンに置いてある専用のプリンターに出力され、過不足なく伝達。会計レジではオーダーデータを元に代金を収受するため、計算漏れもありません。なにより、手書きせずに済むようになったことで、オーダーを誤ることがなくなりました。
店舗内のキッチンは、ドリンク、揚げ物系料理、刺身系料理と3つに分かれており、プリンターをキッチンごとに1台ずつ配置して、オーダー出力を自動で適切なキッチンに振り分ける設定にしたのも効果的でした。ホールスタッフがキッチンにオーダー表を届けるために店内を行き来する必要がなくなり、調理担当スタッフが迅速に対応できるようになったことで、「スタッフの動きが変わった」と目に見える変化を実感。ミスが減り、個々のオペレーションが効率化された結果、これまでオーダーに関わる作業で余計に費やしていた時間を「お客様を丁寧にケアするための時間に回せるようになった」と言います。
「レシピ管理機能によって売れ筋が読めるようになったのも成果の1つ」と塩川さん。同機能によって常時提供しているグランドメニューでどの料理が売れているかを「ABC分析」で確認できることから、メニューを入れ替えるかどうかの判断を素早く行えるようになりました。さらに、例えば、一般的なサラリーマンの給料日前後の消費傾向を、一定期間内のレシピごとの注文数などを分析して把握することで、「給料日前は一品ごとのボリュームを少なくしてその分値段を抑えたり、給料日後は小銭を多めに用意したり、というような対応ができるようになった」とも話します。
こうした取り組みにより、クレームが減り、顧客満足度が高まったことで、客単価が向上。来店客が増加するという好循環が生まれ、売上拡大につながりました。MAIDO SYSTEM導入直後にランチ営業を始めた影響もありそう、と断りつつも、「導入翌年度となる2016年度は、前年度比20%も売上がアップした」と、手応えを感じています。
従業員に対しては、「交通系ICカードをかざすだけで使えるタイムカード機能で、出退勤手続きのわずらわしさを軽減できたのも利点」と塩川さん。ただし、メリットばかりではなく、デジタル化ならではの混乱もありました。全て手書きだったところからハンディ端末に移行したことにより、その変化に対応できない従業員がわずかにいたと打ち明けます。とはいえ「特に若い人は覚えるのが早い。そうでない人でも、2時間もあればすぐに慣れてしまう」とのことで、デメリットとは捉えていません。
物販に進出し、新店舗も展開へ
「季節料理 まさむね」では今後、MAIDO SYSTEMが備える機能の1つであるセルフオーダーも実現していきたいと意気込みます。専用のタブレット端末を客自身が使って、画面上で気軽に注文できるようにするものです。ただ、こだわりの素材を使った料理を提供しているだけに、「本当はお客様と直接コミュニケーションをとって、おすすめメニューをきちんと紹介したい」という葛藤も見せる塩川さん。しかし、大人数のグループ客に対しては、料理を提供するスピードも重要であることから、セルフオーダーのニーズは高いだろうと考えています。
最近ではオリジナル商品の監修や販売も手がけ始め、さらには焼失してしまった最初の店舗跡地に新店舗を出店する計画も練っているとのこと。それらにMAIDO SYSTEMを導入するかどうかは決めていないとしながらも、少なくとも「季節料理 まさむね」で高い成果を上げたシステムの運用ノウハウが、これからの同社の新しい事業にも大きな役割を果たしていくことは間違いありません。
企業データ
- 企業名
- 株式会社まさむね
2010年6月設立。父親が切り盛りしていた1968年創業の割烹料理店の跡を継ぐも、2012年に火災により店舗が焼失する不運に見舞われ、場所を移して再出発。現在は京成電鉄・千葉中央駅近隣で「季節料理 まさむね」と「らーめん 鷹の羽」の2店舗を展開する。地産地消をテーマに千葉の名産をふんだんに取り入れているほか、ハラール対応の料理も用意し、地元民はもちろん海外旅行客からも人気を集める。