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企業のBCP策定に役立てたい、リスク対策の三つの手段【慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科教授・大林厚臣氏】<連載第2回>(全4回)
2021年 2月 9日
企業を取り巻くリスクが多様化する今、企業の規模を問わず欠かせないものとなっているBCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)。中小企業の場合、まずは緊急度の高いリスクに対してできる範囲の対策を検討し、その後対応できるリスクの幅を広げていくという方法もあります。慶應義塾大学大学院の大林厚臣教授にリスク対策について伺う連載の第2回では、リスク対策の種類などについて掘り下げていきます。
「予防」「代替」「事後対応」という3種のリスク対策
「リスク対策の手段には、大きく分けて『予防』『代替』『事後対応』の三つがあります。各リスクへの対処法は、この三つを上手に組み合わせて考えていくことが大切でしょう」
リスク対策の基本について、大林氏はまずそう説明します。「予防」は文字通りリスクを未然に防ぐこと。成功すれば高い効果を期待できますが、想定外のものには対応しにくいのが弱点です。「代替」は社内リソースに被害が出た時のために代わりの手段を用意しておくことで、被害の広がりを抑えるストッパーの役割を果たしてくれます。
「生産ラインが止まったときのために、代わりの生産手段を準備しておくのが『代替』。一方、復旧の手順やラインの再開基準などを定め、止まったラインを素早く再稼働できるようにするのが『事後対応』です」
有事に役立つ「代替」で危機対応力を強化
日本企業は「予防」に意識が向きがちです。もちろんそれも大切ですが、「予防」が効かず、リスクが表面化してしまった時に役立つのは「代替」だと大林氏は強調します。
「自社の事業を続けていくために欠かせないリソースは何なのか。まずはそれを考えて、仕入れ先の複線化や代替先の検討、財務や情報システム関係のバックアップ、会社以外でも勤務できる制度の準備、予備分を含めた原料や在庫の確保といった対策を進めておくと、有事に強い会社に変えていけます」
企業連携による代替生産も、リソースが不足しがちな中小企業にとって有効な手段です。例えば神奈川県に拠点を置くあるものづくり企業は、遠方にあるため同じ災害で被災する可能性が低く、自社と同じような生産設備を持つ新潟県のメーカーと有事の際の生産協定を結んでいるそうです。すでに連携先の試作品の品質に問題がないかの確認まで済ませているといいます。
多種多様なリスクをどうカバーするか
BCPは特定のリスクではなく、“あらゆるリスク”への対策を目的としたものです。近年は企業が対策すべきリスクが多様化する一方、「“100年に一度レベル”の超大型台風」といった言葉を聞く機会も増えました。
「リスクが100通り存在すれば、“100年に一度レベル”の災害が毎年のように起こり得ます。ですからやはり幅広いリスクへ対応できる体制をつくることが大切。そこで役立つのが、リスクを『リスク群』として捉えてみることです。似た性質のリスクなら同じ対策が利きやすい。今回のコロナ禍で、比較的上手く対応できている国がアジア地域に多いのも、SARSの経験を活かせている点が大きいと思います」
データ漏洩や死亡事故のように、「代替」や「事後対応」では取り返しのつかないリスクについては「予防」に注力するなど、三つの手段のうちどれが有効かといった視点でグループ化するのも一つの方法です。では、「予防」が難しい想定外のリスクにはどう対応すべきでしょうか。次回はそんな想定外のリスクへの対処法や、そうしたリスクの一つであるコロナ禍の対応などについて考えていきます。
連載「BCP策定の一歩を踏み出し、中小企業の基盤強化につなげてほしい」
- 第一回 コロナ禍で注目の「BCP」は、中小企業のリスク対策にどう役立つのか?
- 第二回 企業のBCP策定に役立てたい、リスク対策の三つの手段
- 第三回 コロナ禍のような「想定外のリスク」への対処法とは?
- 第四回 BCP策定の一歩を踏み出し、中小企業の基盤強化につなげてほしい
大林 厚臣(おおばやし・あつおみ)
慶應義塾大学 大学院 経営管理研究科 教授
1983年、京都大学法学部卒業。日本郵船株式会社を経て、1996年にシカゴ大学行政学博士号(Ph.D.)を取得。慶應義塾大学大学院経営管理研究科の専任講師、助教授を経て2006年より現職。2018年からは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)課題「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」評価委員長も務める。経済学、産業組織論、リスクマネジメントなどを専門とし、企業等の事業継続・防災評価検討委員会座長など多数の政府委員も歴任。
取材日:2020年12月10日