中小企業応援士に聞く
社員のバックグラウンドを尊重して活躍の場を提供【ジャスティン株式会社(愛媛県四国中央市)社長・種田宗司(おいだ・しゅうじ)氏】
中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。
2023年 9月 14日
1.事業内容をおしえてください
パッキン・ガスケット(配管や機械の部品の間に挟んで液体や気体の漏れを防ぐシール材)の製造・販売を手掛けている。“日本一の紙のまち”である愛媛県四国中央市には大手メーカーの本社工場が所在し、製紙・パルプ業が盛ん。当社の製品は、それら地元の工場はもちろん、造船や電力など四国一円の工場で使用されている。
パッキン・ガスケットの破損による漏れは、人体にたとえれば血管が切れて出血している状態。すぐに修理しないと工場の製造ラインが止まってしまうことになる。そのため当社は“工場の救急隊”として、最短15分で必要なパッキン・ガスケットを製作し、17時までの御注文ならば即日発送している。
設立は1960年。初代の村上英雄社長が当時の川之江市(現在の四国中央市)に村上工業株式会社を設立。1974年に現在の所在地に移転した。社名は2代目・鈴木昇社長時代の2005年に変更した。鈴木社長は創業者の女婿で、代表者の名前と社名とが異なり違和感があるなどとして社名変更を決めた。その際、社名に経営理念を盛り込むことにした。当社の製品は配管にピッタリと入らないと意味がない。その点をまじえ、「お客様のご要望にまさにピッタリとフィットする商品や技術、サービスを提供する」という決意を表す造語「Just in Just(ジャスト・イン・ジャスト)」を経営理念としており、そこから「ジャスティン」という社名となった。
なお、私(種田氏)も女婿で、2代目の長女である妻(種田万葉企画室室長)と結婚して2011年に証券会社から当社に入社。2013年に代表取締役社長に就任した。
2.強みは何でしょう
まずは社員全員が製品に精通していること。最短15分で製作といったスピーディーな対応を可能にするには、顧客から注文を受けた際に「担当部署が違うのでわからない」では通用しない。当社では総務や経理など社員全員がCADを使って図面を作成できるなど、顧客のトラブルを迅速に解決できる体制が整っており、顧客に対して「こんなに早く解決できた」という感動と安心感を与えている。こうした対応システムは愛媛県の「えひめが誇るスゴ技」に選ばれている。
製品の知識だけではない。人としての深みを持つための“人間教育”にも取り組んでいる。日本一の富士山のように、より高いところを目指すにはすそ野を広げなければならない。一見、仕事とは関係ないと思える分野でも知識を持つようにする。そのために、たとえば、その日の新聞記事を読んで時事問題についてどう思ったかをレポートに書いてもらう。旅行や観劇など非日常的なことを体験する際には、行く前に思っていたことと実際に体験してみて感じたこととでどんなギャップがあったかをまとめてもらう。そうした積み重ねによって人間を大きく成長させる土台が作られていく。
採用の際には「ウチは入社してからいろいろと勉強することになる」と話している。社員ひとりひとりが業務についてはもちろん、それ以外の様々な知識を身につけ、人間力を高めていくことで筋肉質の企業体質を作り上げていきたい。
3.課題はありますか
四国島外で事業を広げていくことはなかなか難しい。そこでM&Aを行った。2009年に工業用ゴム製品を手掛ける大阪市内の企業を買収したのに続き、2016年に東京都八王子市内の企業、翌年に岡山市内の企業、そして2022年には大阪府豊中市内の企業を買収した。いずれも当社のグループ会社となり、経営も安定している。社員数はグループ全体で180人となり、M&Aを始める前の2008年時点に比べて倍以上になった。グループとして顧客数が増えること、協力会社が増えること、社員が増えることは幸せを提供すべきステークホルダーの数が増えるということ。後で述べるが、企業の価値を上げていくためには、このステークホルダーの数を増やすということは非常に重要だと考えている。
買収した企業は後継者不在で廃業を考えていた。それぞれの地域には社員をはじめ多くのステークホルダーが存在し、各社とも優れた技術を有している。当社としては、それら引き継いだものを今後とも維持していくことが大事だ。グループ化した後も、現地採用を進め、現地の社員を登用していくなど地域に根差した企業として活動を続け、それぞれの地域の産業にコミットしていきたい。
4.将来をどう展望しますか
企業として提供できる“幸せの総量”を増やしていきたい。企業の価値は、すべてのステークホルダーに対し、どれだけの幸せを提供できるかで決まると思う。顧客のハッピーを追求する過程で、同じくステークホルダーである協力会社がアンハッピーとなるようなことをしてはならない。また幸せを創出すべき主体である社員が疲弊しては幸せの総量は増えない。当社の社員だけではなく、顧客や協力会社なども含め、みんなが幸せになるような企業活動が求められる。総量を売上のように「数量×単価」と分解して考えたとき、数量にあたるステークホルダーの数を増やすことも大事。そのためには企業として拡大していき、関わりを持つ人たちの数を増やしていくことが必要だ。
また製造業の一員として、地域の人材教育や人材確保の面でお手伝いできればと思う。(四国中央市と隣接する)香川県観音寺市内の工場に研修・教育施設を整備した。ここでは顧客の社員らを対象にトラブル発生時の応急処置を学んでもらうことができる。プラントのトラブルの多くはパッキン・ガスケットの選定ミスが原因。当社がプロとして正しい提案をするだけでなく、顧客と知識や経験を共有することで現場のトラブルを少なくとどめることができる。とくに若い人たちには、ものづくりへの興味を高めてもらい、地元の製造業での定着率を高めていければと考えている。
5.経営者として大切にしていることは何ですか
“幸せの総量”で触れたが、社員が幸せを感じることが重要。社員が幸せでなければ顧客などステークホルダーの幸せを考える余裕がなくなる。そうならないよう、社長としては社員が仕事をしやすい環境を整えねばならない。会社組織のトップは社長といわれるが、私の考えは真逆。社長が一番下にいて、まずは幹部社員の活躍できる舞台を作り、次に幹部社員は製造や営業など現場の社員が活躍できる舞台を作る。主人公である社員ひとりひとりがスポットライトを浴びて活躍できるよう縁の下の力持ちとして支えていきたい。
活躍の場を提供するには、社員ひとりひとりのバックグラウンドを把握する必要がある。各自の目標や夢、さらには育児や介護、子どもの教育といった家庭の事情、健康上の問題などプライベートな点も含まれる。家庭の順調さと仕事での順調さは両軸だと考える。こうしたバックグラウンドを尊重したうえで、それぞれの活躍の場を考えていかねばならない。昨年グループ企業となった大阪府豊中市内の企業に、当社から50代の社員が役員として出向している。私は社長として本人のバックグラウンドを考慮して抜擢した。本人もやりがいを持って仕事に取り組んでいるし、家族からは「その年になって情熱を燃やせる仕事に就けるなんて幸せよ」と激励されたという。
6.応援士としての抱負は
異業種交流会など様々な機会をとらえて積極的に中小機構の支援内容について話していく。今はSNSなど発信の方法がいろいろとあるが、やはり実際に地元の中小企業の経営者らと顔を合わせた際に話をした方が伝わりやすい。自分の手の届く範囲で地域の企業の成長を応援できればと幸いである。
企業データ
- 企業名
- ジャスティン株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1960年3月
- 代表者
- 種田宗司 氏
- 所在地
- 愛媛県四国中央市川之江町3125-3
- Tel
- 0896-58-4455
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