農業ビジネスに挑む(事例)

「ベルグアース」農業を誇りとやり甲斐の持てる産業にする

  • 接ぎ木で任意の性質を与えて病害虫に強く高収量の苗をつくる
  • 企業的経営により農業で株式の一部上場を目指す

接ぎ木苗の生産で日本一の企業が宇和島にある。ベルグアースだ。同社は接ぎ木苗を年間に2900万本(接ぎ木苗以外の苗も含めると年間3400万本)生産する。

また、苗の生産以外に青果の流通も事業として営み、2011年にはJASDAQ市場に上場。「企業的農業」の実践を通じ、計画生産で儲かる産業へと変貌させる農業革命を目指している。

いいとこどりの接ぎ木苗

接ぎ木とは、植物の一部を切り離して別の植物とつなぎ合わせて新しい植物にする技術であり、同社の場合は「断根接ぎ木苗」という技術を得意とする。

断根は、一度根を切って若く強い根を再生させる技術であり、この技術と接ぎ木技術の2つの技術により生産したのが「断根接ぎ木苗」だ。そのメリットは、(1)病気や害虫に強くなる(2)暑さ、寒さなどの環境ストレスに強くなる(3)収量が増加する、など。例えば、果実を多く収穫できる植物(穂木)と病害虫に強い植物(台木)をつなぎ合わせれば、病害虫に強く生産性にすぐれて育てやすい苗にできるわけだ。

穂木と台木の長所を合わせ持たせるのが接ぎ木苗の特徴だ

接木苗の生産は主に果菜類(果実の利用を目的とした野菜)が主体で、農業生産者の注文に応じた受注生産と、家庭園芸愛好家たちのための生産だ。 その生産工程は以下のようだ。

  • 穂木と台木の種子を播種して苗に育てる(1次育苗)
  • 穂木と台木を目的の苗に応じて接ぎ木する
  • 接ぎ木した苗をハウスで生育(2次育苗)し、その後出荷する

同社では1次育苗をハウスおよび閉鎖型育苗生産設備で行う。どちらも温度、湿度、培土配合、潅水などをコントロールし、閉鎖型育苗生産設備はさらに人工光、二酸化炭素などもコンピュータで制御し、病害虫を排除したクリーンルームになっている。

接ぎ木苗の約90%はハウス、約10%は閉鎖型育苗生産設備で生産される。同社の閉鎖型育苗生産設備は、千葉大学、三菱樹脂アグリドリーム(旧太平興業)との実用化に向けた共同研究を経て、2006年に稼働した日本最大級の規模であり、光・温度・二酸化炭素・水を任意に制御することで苗を効率的に生育する。

独自のノウハウに基き手作業で接ぐ

穂木と台木をつなぐ接ぎ木はほとんどが手作業だ。ミリ単位で苗の断面、角度を調節し、独自のノウハウに基づいて接ぎ木する。それによる接ぎ木活着率は99%以上という。

同社ではトマト、キュウリを主体にナス、スイカ、メロン、ピーマンなどの野菜苗を生産する。

接ぎ木した苗は再びハウスで育成する。2次育苗の農場は愛媛県、長野県、岩手県、茨城県の直営農場、北海道や宮崎県など21カ所の提携農場、大分県の関連会社だ。

同社では生産計画、生産分析、在庫・出荷管理、農薬履歴管理、委託管理など生産から販売に至るすべての工程をITで管理している。また、研究室も所有し、新技術の開発、育苗技術の向上、病害虫の防除方法などを研究している。

現在、1年間で3400万本の野菜の苗を生産し、そのうち2900万本が断根接ぎ木苗だ。同社では、「アースストレート苗」「ヌードメイク苗」「e苗シリーズ」とい3つのオリジナル製品も開発。オーダーメードの接ぎ木苗、オリジナル商品は主に種苗メーカー、種苗店、JA、ホームセンターなどに販売される。

接ぎ木苗の生産量は年間に2900万本で日本一だ

同社の流通事業の主体は、種や培土の開発・販売、および農産物の販売だ。同社が生産委託した野菜や愛媛県産の野菜を小売などに仲介もしくは紹介する。流通事業は2010年から始めたが、そのうち野菜の流通については、販売の仕方で困惑する農業生産者をサポートすることがきっかけだった。現在、地元のスーパーや産直市場、東京の青果市場への販売を仲介・紹介する。

海外を目指す

「食料を生産している農家は人々の生活基盤を支える存在のはずなのに、生活していけない時代になったと嘆くのはおかしい、また、それを納得する消費者も変だ。そのような世の中を変えたいと思い事業を始めました」(社長の山口一彦さん)

それがベルグアースを立ち上げた山口さんの心意気だ。納期を厳守し、品質を一定に保った接ぎ木苗を生産し、農業者へ提供することによって、生産者の収穫量増および売上増に貢献できる。それにより農業を誇りとやり甲斐の持てる産業に変える。農業者向けの野菜苗の生産を始めた1986年以来、一途にそれを求めてきた。さらに次世代に対して「農業でも上場できることを見せて夢を与えたい」と2011年にJASDAQ市場に上場した。

直近の売上は38億1000万円(2013年10月期)、次年度は7~10%の成長による40億800万円を目指す。そのためにも地域に合った接ぎ木苗の提供を増やし、それに伴い事業領域を広げながら会社の付加価値を高めていく。その積み重ねによって100億円の売上を実現し、株式の一部上場を目指す。農業も他の産業と同じ土俵に乗せることが目標だ。

また、海外へも積極的に打って出る。日本の農業は必ず世界でも通用する。それが山口さんの信念だ。まずは中国での生産・販売を視野に入れており、2014年いっぱいには海外展開の姿が明らかになるようだ。

企業データ

企業名
ベルグアース株式会社
Webサイト
代表者
山口一彦
所在地
愛媛県宇和島市津島町北灘甲88-1