社会課題を解決する
保育の現場を起点に家族の幸せを生み出す社会インフラづくりを目指す「ユニファ株式会社」
2023年 2月 13日
テクノロジーの力で保育の質を高めようという「スマート保育園・幼稚園・こども園」構想を推進し、「家族の幸せを生み出す あたらしい社会インフラを世界中で創り出す」という挑戦を続けるユニファ株式会社(東京都千代田区)。同社のサービス「ルクミー」は全国各地の自治体で採用されており、海外展開も視野に入れている。保育・育児関連の社会課題を解決しようという取り組みは高く評価され、創業者で代表取締役CEOをつとめる土岐泰之氏は、中小機構主催の「第22回Japan Venture Awards」(JVA)で中小企業庁長官賞を受賞した。
どれだけ愛情を持って見守られていたかが重要
ユニファが推進する「スマート保育園・幼稚園・こども園」は、保育園や幼稚園など子どもを預かる保育現場が抱える各種の課題に対して、AIやIoTなどの最新テクノロジーを活用したサービスを導入することで、保育士など「保育者」の事務作業などの負担を軽減し、子どもたちに向き合う心と時間にゆとりを増やして、保育の質の向上を目指していこうという構想である。当初は保育園のみを想定していたが、現在は幼稚園とこども園も構想に追加している。
具体的なサービスの内容は、乳幼児の午睡(昼寝)を見守る医療機器サービス「ルクミー午睡チェック」や数秒で記録できる「ルクミー体温計」、子どもの写真・動画をオンライン購入できるサービス「ルクミーフォト」、登降園を管理する「ルクミー登降園」など多岐にわたる(サービスの一部は2019年にリクルートから買収した「キッズリー」事業を承継したもの)。このうち午睡チェックは、園児の上着に体動センサーを取り付け、昼寝中の園児の体の向きを感知し、タブレット端末内にセットされたアプリが自動で体の向きを記録できるもの。園児の昼寝中も保育者は事故を防ぐために、一般的に5分おきに見守りを行い、体の向きを矢印にして手書きで記録しているが、午睡チェックの導入により、目視と機械によるダブルチェックで見守りの質が高まった。
サービス名の「ルクミー」は「Look at Me(私を見て)」から名付けた。「もっと僕を、私を見て」という子どもたちと、「もっと見てあげたい」という保育者たちの思いを表している。それと同時に、「0~6歳の乳幼児期にどれだけ愛情を持って周囲から見守られていたかが、その子の人生にとって極めて重要」という土岐氏の信念も込められている。
社会課題を自分の人生に紐づけられるか
土岐氏は1980年、福岡県北九州市生まれ。その後、長崎県に転居し、県内の中高一貫校を経て九州大学に入学した。学生時代から起業の夢を抱き、卒業後は上京して大手総合商社、外資系の大手コンサルティング会社と順調にキャリアを重ねた。
大学時代に知り合った妻は愛知県内の大手自動車メーカーで働くという“遠距離婚”だったが、第一子の誕生を機に大きな決断に迫られた。産休・育児休業中は妻が上京し、一緒に暮らしたが、休業終了後には職場復帰したいと妻が希望。別居して妻ひとりの子育ては難しいことから、土岐氏は悩んだ末に「自分にとって家族が一番大切。妻のキャリアを応援する」との結論に至り、妻の勤務先近くに引っ越して同居。仕事は名古屋市内の日系コルティング会社に移り、短時間勤務で子育てを担うようになった。
“半分主夫”の日々はそれなりの満足感があったものの、「このまま人生が終わっていいのか」という悶々とした思いも。その後、大学時代や商社時代の友人らの後押しもあり、起業に向けて再始動した。起業にあたっては「(起業によって解決すべき)社会課題を自分の人生に紐づけられるか」との視点を重視。子育てを続けていたなかで「家族の幸せ」というテーマに出合っていたことから保育関連の事業を立ち上げることとした。
フレーベル館と協業、さらに凸版印刷と資本業務提携
2013年5月に名古屋市内で起業。社名は「Unify(一つにする)」と「Family(家族)」を合わせたものだ。当初は、保育園での日常の様子を写真撮影して販売するというフォト事業を手掛けた。わが子の様子をおさめた写真があれば保護者は間違いなく喜ぶが、保育者は多忙で、写真を撮影する余裕がない。「この問題を解決したい。私にしかできない事業かもしれない」という思いで始めたという。
事業費は子どもの養育費として貯めていた資金を流用。それが底を尽いた際には学生時代の友人らからの出資でしのいだ。その後、園児の顔を認識して写真を自動で振り分ける機能を開発したことで、保育業界最大手の企業から大型受注を得た。こうした実績もあり、2015年10月にベンチャーキャピタルなどから約3億円の資金を調達できた。
さらに大きな契機となったのが、アンパンマンをはじめとする絵本などで有名なフレーベル館との提携だった。土岐氏が保育園へ営業に行ってもまともに相手にされなかった頃、保育園に頻繁に出入りしている業者があり、そのひとつがフレーベル館だった。そこで土岐氏はフレーベル館にフォト事業での協業を打診。幸いなことに、フレーベル館も児童書など有形商材だけでなくデジタルコンテンツを模索していた時期だった。しかも「保育園や幼稚園にICTを活用すべきだ」とのビジョンが一致し、2015年から協業を開始した。そして、この提携はフレーベル館の親会社である凸版印刷にもつながった。2017年10月には「午睡チェック」の発表に合わせ、凸版印刷と資本業務提携を行い、同社などから約10億円の資金を調達。2019年9月にも約35億円の追加出資を受けた。また、リクルートから承継した電子連絡帳・登降園サービス「キッズリー」についても、最初に譲渡を持ち掛けられたフレーベル館がユニファに話を持ち込んで実現したものである。
M&Aも視野に海外展開のタイミングを見計らう
行政とのつながりが強い保育園などを対象としたユニファの事業は自治体と密接な関係を有している。2022年10月現在で全国約60の地方自治体が「ルクミー」の導入を完了・決定している。このうち静岡県袋井市と福岡県福岡市では実証実験が行われており、行政から全面的なサポートを受けている。さらに、JVAの受賞は国からの“お墨付き”を得た格好ともいえ、「自治体からの当社に対する評価にも好影響をもたらし、大変ありがたい」と話す。今後も自治体との連携をいっそう進め、同社のサービスを利用している地域を、現在の点から線へ、さらに面へと広げていく考えだ。
また、体動センサーや体温計といったヘルスケア事業から得られるデータを活用して地域の医療機関との連携を進めるなどし、「保育園などを起点としたインフラづくり、さらには地方創生や女性の活躍支援、少子化・人口減少対策といった社会課題の解決に取り組んでいきたい」と土岐氏は語る。
国内だけではない。「あたらしい社会インフラを世界中で創り出す」との目標を掲げるユニファは、グローバル展開も目指す。すでにシンガポールでは、午睡チェックで使用している体動センサーの実証を行うなど、とくに東南アジアへの展開をにらんでいる。土岐氏は「これから数年は国内展開に注力するが、世界に通用するサービスを備えていき、M&Aも視野に入れて、海外展開のタイミングを見計らっていきたい」と話している。
感動的な場面にあふれ、手触り感のある幸せを実感
保育施設の現場では、残念なことに園児への虐待やバス車内での置き去りなどの事件・事故が相次いでいる。そうした現状に心を痛めている土岐氏は「最近の問題がレアケースなのか氷山の一角なのか。いずれにしても背景には現場の疲弊や困窮があるといえる」と分析。そのうえで「ICTを活用することで現場の負担を軽減し、保育者が心と時間のゆとりを持てるようにしたい」と話す。
一方で、「保育園や幼稚園などはユートピア(理想郷)だ」と土岐氏。2年ほど前のことだが、栃木県内の施設で水遊びをしていた子どもたちが、水におもちゃの船を浮かべ、さらに川や海のようなものまで作り始めたという。「海に興味を持った子どもたちはその後、深海に興味を抱き、次には宇宙にも関心を持つようになった。それを見ていて、子どもたちの探求心はすごいなと驚かされた」と土岐氏は振り返る。小学校に入ると学習指導要領に基づいて定められた教育が施されるが、保育園などでは子どもたちが探求心を持って自由に遊んだり学んだりすることができるというのだ。
その「ユートピア」は感動的な場面にあふれる場所でもあるという。保育施設で過ごす幼い子どもたちは日々成長しており、そうした成長を毎日のように目の当たりにすることができるのだ。「親子のイベントなどを支援することで保護者にも感動的な場面を見てもらい、手触り感のある幸せを実感してほしい」と土岐氏は話している。
企業データ
- 企業名
- ユニファ株式会社
- Webサイト
- 設立
- 2013年5月
- 資本金
- 40億9564万円
- 従業員数
- 220人
- 代表者
- 土岐泰之氏
- 所在地
- 東京都千代田区富士見1-8-19 住友不動産千代田富士見ビル2階
- Tel
- 03-6284-2666
- 事業内容
- IoTやAIを活用した保育支援サービス「ルクミー」の開発・提供
同じテーマの記事
- ゲノム検査で不妊治療・少子化対策に挑戦「Varinos(バリノス)株式会社」
- 負担少ない乳がん検診装置で病気にリベンジ「株式会社Lily MedTech」
- 暗号化状態でデータ処理を実現「EAGLYS株式会社」
- 宇宙ゴミの除去めざすパイオニア「株式会社アストロスケールホールディングス」
- 町工場の連携でモノづくりの新価値創造を「株式会社浜野製作所」
- 再生医療で心臓病治療の扉を開く「Heartseed株式会社」
- ICTで人と医療と介護をつなぐ「株式会社アルム」
- 最先端技術で「人の成長」支えるロボット開発「GROOVE X株式会社」
- 相手とのやりとりが「見える」、AI搭載のIP電話で急成長「株式会社RevComm(レブコム)」
- 人工流れ星で科学と人類の持続的発展への貢献を目指す「株式会社ALE」
- AI創薬を第一歩に文明発展の主役を目指す「SyntheticGestalt株式会社」
- 治療用アプリ開発・普及を進める「株式会社CureApp」
- 保育の現場を起点に家族の幸せを生み出す社会インフラづくりを目指す「ユニファ株式会社」
- 小型人工衛星を開発・製造 日本の宇宙ビジネスの牽引役「株式会社アクセルスペース」
- 水推進機で宇宙の環境を守りながら開発を実現「株式会社Pale Blue」