売上アップ取り組み事例集

やってみる、あきらめない。地域密着徹底でファン獲得(事例1回目)

「知恵」と「行動」が売上を伸ばす。大判焼き店の経営革新、ただいま進行中。

立地条件に左右されがちなお店でも、知恵を絞り、行動を重ねれば、売上アップの道が拓けます。商店街立地の大判焼き店が取り組んでいる事例を3つの切り口から3回に分けてご紹介します。

文:鈴木佳文(中小企業診断士)

ひなさく堂は、中野区野方の商店街に立地する大判焼き店です。これまでの地道な努力が実を結び、2011年に開催された「中野区食の逸品グランプリ」で特別賞に入賞し、中野区のB級グルメとして地位を確立しつつあります。しかし、ここに至る道は平坦ではありませんでした。

お店が暇な時ほどファンを作るチャンス

大判焼き
ゲコタンの焼印が愛らしい大判焼。あんの種類により表情が異なる

開店当時は人通りも多く、「これはいける!」と考えていました。利益を削ってもこだわった粉と餡で、品質にも自信がある。カエルの焼印を押した特徴のある大判焼きで他店との差別化もできている。ところが、一向に売れない。

店の前を人が素通りしていき、来る日も来る日も自慢の製品を、涙を堪えて捨てつづける日が続きました。しかし、「うまく行くまで続ける」と決めていた店長は、あきらめませんでした。

まず始めたのは通りを行く人への『声掛け』です。

お年寄りや子ども連れの主婦、登下校中の子ども達など、店の前を通る人達に元気良く笑顔で『声掛け』をしていきました。この『声掛け』で、店の存在に気付かずに素通りしていた人や、気になっていたけれど通り過ぎていた人がお客さまとして来店して下さるようになったのです。今では、店長に会うことが目的で訪れるファンも出来ており、次はアルバイト店員のファンを増やすことが課題になっています。

不登校の子と出会い、地域密着の活動を開始

ひなさく堂
ベンチがしつらわれた店先。大判焼を通じて生まれた会話が、新たな出会いをひきよせる

ひなさく堂では、お客さまがその場で食べられるようにベンチを置いています。立ち話でもベンチに座ってでも、お客さまは、さまざま会話を店長と楽しむのです。

ようやくお客さまが少しずつ増え始めた頃、お店のファンになってくれた子から不登校で悩んでいるという相談を受けました。最初は話を聞いていただけでしたが「怖くて校門をくぐれない」という言葉に、「よし、俺が校門で待っていてやるよ」と学校の前でその子を待っている事にしました。

ただ校門の前に立っているのでは、単なる怪しいお兄さんです。そこで、商店街のネットワークで学校の校長先生に話をして、安全パトロールの腕章を借りました。ここから、朝の声掛けをする活動が始まったのです。

ファンの子は店長が待っている事で、学校に通えるようになりましたが、この活動により思わぬご利益が訪れました。朝の声掛けで顔を覚えてくれた子どもたちや子どもの親がお店のお客さまとして来て下さるようになったのです。現在は、学童保育のおやつに大判焼きを利用して貰うなど、地域とつながった販売ルートが増えつつあります。

倒れて店を休んだ時に届いたお客さまからの手紙

お客さまが増えて来たといっても、まだまだ黒字になるには至りません。無理をしすぎたためか、体調不良で倒れ、そのまま病院へ。再開への不安を抱える中、店長を支えたのは自分を心配してくれるお客さまの声でした。

入院先に届くお見舞い、閉めたお店の入り口から差し込まれた一枚の手紙。『声掛け』からスタートして地域のお客さまと関係を作ってきた努力が、大きく報われた出来事でした。

今回ご紹介した事例から見える、売上アップのポイントは以下の3点です。


1)声掛けを習慣化する

さまざまな商店街を訪問する機会がありますが、道行くお客さまに元気良く声掛けをしているお店は稀です。もちろん、業種・業態によってお客さまとの接点作りの第一歩は異なりますが、『声掛け』は有効な手段の一つです。お客さまとの接点をどうやって作っていくのかを日々考え、地域に根差した活動をしていきましょう。

2)『人気』とは、人の気配をつくること

例え、売上につながらなくても店の前に人がいるという事は大切です。行列が出来ていれば、気になるのは勿論、立地条件が悪くてもそこに人がいるかどうかで初めて来るお客さまの印象は変わります。人気店とは、いつもお客さまがいる、人の気配がするお店と言い換えても良いでしょう。行列ができるまでハードルを上げ過ぎず、まずは人の気配が途切れないお店を目指して行きましょう。

3)子どもを味方につける

子どもに人気があるお店には、子どもの親も訪れます。子どもとの関係をどのように作っていくか、子ども連れのお客さまがくる場合、子どもだけでくる場合、それぞれ自店の考え方や対応を決めておきましょう。


「知っていること」と「実行すること」は大きな差があります。店長は、お客が来ないで苦しむ中、まずは行動することから始めました。慣れないことに取り組むのは、それだけで大きな抵抗になるものです。まずは『やってみる』こと。どんなに手詰まりに見えても「あきらめない」という方法が残っているのです。

企業データ

企業名
有限会社ミラクル(ひなさく堂)
Webサイト
代表者
石井直美(店長:石井裕)
所在地
東京都中野区野方6-23-13
Tel
03-3338-8074
事業内容
大判焼きの製造・販売、卸

掲載日:2012年2月21日