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「STG(大阪府八尾市)」マグネシウム加工でアジアトップ目指す

この記事の内容

  • マグネシウム合金加工で第二創業、一貫生産体制も
  • 中国、タイで現地生産し現地需要取り込む
  • 株式上場を予定し「会社を公器に」
独自の機構を盛り込んだゲーム機用部品加工機を説明する佐藤社長

 マグネシウム合金加工を主力とするSTG(大阪府八尾市)。海外展開、M&A(合併・買収)、人手不足という中小企業が抱える大きな課題をクリアし、株式上場も視野に入れている。2代目の佐藤輝明代表取締役が第二創業といえるマグネシウム加工を断行した経営手腕によるもので、「アジアでトップを目指す」と、新たな構想を描いている。

下請けから脱皮

「一度は事業をやめようとも思ったが、独自の装置を開発したことで軌道に乗った」—。佐藤社長は、マグネシウム合金加工に乗り出した当初を振り返る。

マグネシウムは、それまで同社が加工していたアルミニウムに比べ強度が高く、3割以上軽い。その特性に注目したパソコン大手から筐体に採用したいという引き合いがあった。パソコン需要が伸びていた時代。実現したいと思い、2次加工である「バリ取り」作業に乗り出した。「何とか下請けから脱皮したい」との強い思いからだ。だが、マグネシウムは発火性が高い。作業中に粉塵が発火し、小さな爆発が起きたこともあった。「やめようか」と思ったのはそのときだ。

窮地を救ったのは、創業者で技術者の父親だ。特許技術が詰まった湿式集塵機を開発して粉塵対策を解決。これで本格参入を決意し、第二創業を果たした。2002年のことだ。

入社1年で利益

同社はアルミニウム表面加工、バリ取りなどを事業として1966年に創業。82年には「顧客、働く仲間、社会全体」の3つが輝くという意味から、「三輝ブラスト」を設立。この間、VTRブームもあって、筐体を加工していた同社も売り上げが大幅に拡大した。しかし、90年代に入るとセットメーカーの海外進出もあり、海外との猛烈な価格競争にさらされ、三輝ブラストは債務超過に陥った。佐藤氏が「父親の会社を何とかしたい」と思い、商社勤務から転じて入社したのはこのころの94年。

入社して分かったのは「単価は安かったが、仕事はある。それなのに利益が出ない」構造だった。最終検査を内職に任せて変動費化するという改革を行い、1年で利益が出たという。佐藤氏の経営者としての嗅覚を存分に発揮した。

中国、タイに進出

本格参入したマグネシウム部品はVTRに代わり、世界のパソコン大手と取引するなど主力事業となった。06年、社長に就任した佐藤氏はすぐに新たな挑戦を始める。中国への進出だ。パソコンの中国生産が活発になったためで、同年、深圳市に現地法人を設立。現在では自動車、DVD、カメラ、プロジェクターなどの部品加工も手がける。

次のターゲットはタイだ。高級一眼レフカメラの筐体にもマグネシウムが採用されていた。ここでも、カメラ大手が次々とタイ生産にシフトしたからだ。11年に現地工場を稼働させた。タイ法人は赤字が続いていたが、「昨年から利益が出ている。今後は自動車分野も需要開拓していく」。

次々と増資

佐藤社長にとって、もう一つの転機となったのがM&A。マグネシウム部品のダイカストや金型設計という1次加工のTOSEI(静岡県伊豆市)がリーマン・ショックなどで経営危機に陥り、民事再生することとなった。取引関係があったことから佐藤社長が管財人となり、そこで「1次から2次加工まで一貫生産できれば競争力が大きく向上する。思い切って買収を決断し」、10年に子会社化した。この買収がタイ進出を後押しした。

積極策はまだ続く。海外進出や設備増強などで資金が必要となり、増資に乗り出した。11年にはベンチャーキャピタル(VC)の出資を受け7000万円増資した。事業の将来性を評価され、「審査もスムーズだった」という。これを手始めに、その後も他のVC3社から5回の出資を受け、資本は大幅に充実した。

増資の理由について「ファミリービジネスではだめだと思っていたし、株式の上場も考えていたから」。上場に向けては、すでに企業会計基準や四半期決算の導入など着々と準備を進めている。

15年には三輝ブラストとTOSEIを合併、社名も「STG」(サンキ・TOSEIグループ)に変更。第二創業を定着させた功績が認められ、中小機構主催の今年の「Japan Venture Awards」で中小機構理事長賞を受賞。「金融機関や自治体、マスコミからも注目されるようになった」と喜ぶ。

ダイバーシティ推進

中国進出が軌道に乗ったのは、同社の人材活用が奏功した。事業が拡大し、人手不足に悩んでいた97年ごろ、アルバイト募集の張り紙を見て中国人留学生が応募してきて、採用した。その留学生が優秀で、彼の人的ネットワークで次々と外国人を採用。現在ではベトナム人も多い。

中国工場は、最初に採用した中国人に任せたところ、「現地の商慣習にも通じ、新しい需要分野も開拓してくれた」。現在も外国人を定期的に採用。障碍者や女性活用も積極的で、15年度には経済産業省の「ダイバーシティ経営100選」にも選ばれた。

「アジアでもう1、2拠点増やし、ナンバーワンになりたい。10年以内に売上高300億円を目指す」という佐藤社長。成長を遂げられたのは「親や周りの人への感謝の念を忘れなかったこと。まず他人の利益を考えれば経営はうまくいくのではないか」と述懐。経営手法については「戦略が49%、それを達成する想いが51%」と言い切る。

STGは、「町工場から世界へ」雄飛した好例といえよう。

企業データ

企業名
(株)STG
Webサイト
設立
1982年(95年に株式会社化)
資本金
約3億9502万円(資本準備金含む)
従業員数
約380人
所在地
大阪府八尾市山賀町6—82—2
事業内容
マグネシウム、アルミニウムなどの金属成形品精密加工
上場
東証マザース(2016年6月)

プロフィール

佐藤輝明 (さとう てるあき)

1966年大阪市生まれ。89年立命館大学経済学部卒後、日通商事入社。94年三輝ブラスト入社。2002年マグネシウム合金加工で第二創業スタート。06年三輝ブラスト代表取締役。10年TOSEIをグループ会社化し、社長に就任。15年社名をSTGに変更。