SDGs達成に向けて

街の健康と人の健康を守り、新しい企業ブランド確立へ【株式会社アイペック(富山県富山市)】

2023年 12月 18日

「SDGsは経営理念そのもの」と話すアイペック社長の東出悦子氏
「SDGsは経営理念そのもの」と話すアイペック社長の東出悦子氏

ビルや工場などの構造物、橋やトンネルなどの社会インフラの非破壊検査・補修を手掛け、社会の安全と安心を守る株式会社アイペック。2015年に就任した東出悦子社長のもと、新たな挑戦を進め、2021年3月にはSDGs宣言を行った。「街の健康と人の健康を守る」とする同社の取り組みは、富山県がSDGsの代表的な事例として紹介するなど、各方面から注目されている。

非破壊検査、補修でインフラの長寿命化に寄与

構造物の非破壊検査や調査・診断などを手掛ける
構造物の非破壊検査や調査・診断などを手掛ける

同社は1976年4月に東出氏の父、高見貞徳氏(現在の相談役)が富山検査株式会社として設立。構造物を壊さずに機器を使って内部を検査する非破壊検査を行ってきた。経営理念は「百年の大計 人と公」。半永久的に経営を持続しながら社会の公器である企業としての質的向上と、そこで働く社員の質的成長を図り、日本の一隅(いちぐう)を照らす(=一人ひとりが自分の置かれた場所で輝いて周りを明るくする)ことを使命とした。この経営理念がSDGsへの取り組みと深く関わっている。

1998年には、日本溶接協会のCIW認定(溶接構造物の非破壊検査を行う事業者の業務遂行能力を審査・認定する制度)で最上級のA種非破壊検査事業者認定を受けた。さらに、2009年に建設コンサルタント登録を行うなど業務内容を拡大。2010年6月にはアイペック(IPEC)と社名変更した。Iはインフラと検査(インスペクション)、Pは保全(プリザベーション)、Eはエンジニアリング、Cはコンサルタントの頭文字で、創業以来の非破壊検査だけではなく、補修なども手掛け、インフラの長寿命化にいっそう寄与しようという思いが込められている。

米国の公認会計士などを経て奇しくも社名変更の日に入社した東出氏は「高度成長期に建設された国内のインフラは老朽化が進んでいるが、全部を建て直すのはコスト面で極めて困難。当社が持つ技術とノウハウを活用して、今あるインフラを一日でも長く使えるようにしたい」と話す。

SDGsは経営理念そのもの 全社員が理解を深める

社内の研修で社員はSDGsへの理解を深めた
社内の研修で社員はSDGsへの理解を深めた

SDGsへの取り組みはコロナ禍の2020年9月から。東出氏は「豊かで安全な暮らしを継続的に営むというSDGsの考え方が半永久的な経営を目指す当社の経営理念と一致している。SDGsは経営理念そのもの」と語る。また、インフラの検査・補修といった同社の業務自体が「住み続けられるまちづくりを」などSDGsのゴールと直結している。「SDGsを学ぶことで社員が視野を広げ、顧客と視点を合わせれば、ビジネスチャンスの拡大、業績向上にもつながる」(東出氏)という。

まずはSDGsについて理解することから始めることとし、最初に各部署から社員を選抜。金沢工業大学の平本督太郎教授監修の「Start SDGs」認定SDGsビジネスマスターによるセミナーを受講した。さらに2021年9月~2022年4月には全社員を対象にセミナーを開いた。こうした取り組みに対し、当初は「仕事が忙しいのに、そんなヒマはない」などとして社員の大多数が反対だったが、やがて社内の雰囲気は変化。SDGsに関する理解を深めていくにつれ、自分たちの仕事がSDGsに密接に結びついていることに気づき、それまで他人事と思っていたSDGsのゴールが自分事ととらえられるようになった。最後は「視野が広がった」「受講してよかった」といった感想が多くの社員から聞かれたという。

事業をSDGsに関連付け 使命感を高める

モニタリングシステムは太陽電池使用で電源不要
モニタリングシステムは太陽電池使用で電源不要

セミナーを続けていた最中の2021年3月には「街の健康と人の健康を守る!安全・安心・アイペック」とするSDGs宣言を行った。同社の事業内容をSDGsの目標と関連付けることで社員の使命感を高め、誇りをもって目標達成に向けての活動を強化していこうという決意を社内外に表したものである。

宣言の中にある「街の健康」は、人々が安全に生活できるよう、老朽化が進むインフラを検査したり、新しく建設されるインフラの品質を確保したりするなど、社会インフラの"健康診断"を行っていこうというもの。とくにIoT技術を活用したモニタリングシステムは「街の健康」のチェックに大いに貢献している。2017年に発足したIoT開発部が手掛けており、橋などに様々なセンサーを取り付け、各種の数値をリアルタイムで計測している。「当社は、構造物のどの部分をチェックすればいいのか、そして数値がどう変化したら対応が必要なのか、といったノウハウを持っている。それらのデータをもとに、異常を早期に発見してインフラの健康を守ることができる」と東出氏は話す。症状が悪化する前に軽微な"治療"を施すことで修繕コストも抑えられる。

健康、やりがい、いきいきと働ける環境づくり

荒木部長(左)は同社初の女性管理職
荒木部長(左)は同社初の女性管理職

「人の健康」については、社員が健康でやりがいを持っていきいきと働ける環境づくりを進めている。現場での業務が多い同社ではかつて社員の長時間労働が続いていた。「社内で働き方改革を進めないといけない、という危機感を前々から抱いていた」と荒木和(むつみ)取締役総務部長は話す。そして、2020年4月に時間外労働の上限規制が中小企業にも導入されたのを機に、就業規則を変更し、柔軟な働き方を目指した。たとえばスマートムーブ(直行・直帰制度)の導入。現場で作業を行う際、従来はいったん出社してから現場に向かい、終了後にも帰社することになっていた。スマートムーブでは、スマートフォンで出退時刻を打刻。GPSの位置情報と同時に勤務時間を記録するため、直行・直帰が可能となり、労働時間の削減と社員の負担軽減につながっている。

また、自己啓発支援制度を始めた。同社の業務には資格保有者にしか遂行できないものが多い。そのため、以前から会社が費用を負担するなどして資格取得を奨励していた。新設された自己啓発支援制度では、ノー残業デーの水曜日に社内で1時間以上自習すると1回につき2000円の手当を支給する。発案者の荒木氏は、次男が図書館やカフェなど勉強する仲間がいる場所で学習している様子を見て「定期的に学習する時間、仲間をつくり、学習に集中できる環境を作ればいいのでは?」として思いついた。手当の支給については「学習する習慣をつけてもらうためのインセンティブ。自習に手当を出しても、試験に一発で合格してもらえれば経費面では大いに助かる」(荒木氏)という。結果も出ている。導入前には年間の資格試験受験者は延べで20人程度、合格率は4割を切っていたが、導入後は100人を超え、合格率も5割強にアップした。

SDGs宣言後、同社に対する注目度は一段と高まった。富山県はSDGsの代表的な事例として紹介。また東出氏は、富山県中小企業家同友会など地元経営者の会合で自社の活動内容を報告している。

SDGsを指標に自ら考え行動する

フリーアドレスの新社屋でコミュニケーションはスムーズに
フリーアドレスの新社屋でコミュニケーションはスムーズに

SDGsの活動を通じて様々な効果が現れた。そのひとつがチームとしての意識だ。同社では2019年に、部署間の壁を取り払ったオープンスペースの新社屋が完成し、社員の席を決めないフリーアドレスとした。これにより社内のコミュニケーションがスムーズになっていたが、SDGsの学習でさらに進み、チーム力の向上につながっている。たとえば総務の社員は現場で働く人たちの安全・安心に思いをめぐらし、「そうした職場や土台を作っていきたいという強い思いを改めて感じた」と気づいたという。

こうしたチームとしての意識、そして視野の広がりは、アイペックという一企業の枠を超え、同業者や異業種の企業、行政や学校、住民などとの連携にも及ぶようになった。東出氏は「1社だけでできることは限られている。ゴールを達成するには外部の人とたちとのパートナーシップが大事だという認識が広がった」と話す。

同社では「技術をつなぐ力で"変わりたい"をコーディネートし、"解決したい"をコンサルタントして、社会とお客様と私たちの未来を紡ぐ」とする10年ビジョンを作成。このビジョンに基づき、2024年4月からの新しい3カ年計画を策定する。「SDGsを指標にして事業を考え、行動に移す。そうすることで社員一人ひとりが"自分ブランド"を確立し、さらには新しい"アイペックブランド"を創り上げていきたい」と東出氏は話している。

企業データ

企業名
株式会社アイペック
Webサイト
設立
1976年4月
資本金
3000万円
従業員数
76人
代表者
東出悦子 氏
所在地
富山県富山市中田1丁目113-1
事業内容
非破壊検査、土木調査診断、補修設計、IoT開発