いよいよ本番、働き方改革

利益追求が労働時間削減を後押し「株式会社ケーイーティ」

2020年 4月 1日

川田裕社長
川田裕社長

収益性を高めるため、敢えて事業規模を縮小させ、結果的に働き方改革につながった事例がある。工場やプラント、建設現場などから排出される産業廃棄物を収集・運搬して処理する株式会社ケーイーティ(福島県矢吹町)だ。長野、富山、千葉、神奈川まで幅広く展開していた事業エリアを地元の福島と隣接県に絞り込み、社員の労働時間を減らす一方、利益率を大きく向上させた。数年後には完全な残業ゼロ化を目指している。

事業規模拡大で収益性が低下

本社敷地に並んだ運搬車両
本社敷地に並んだ運搬車両

川田裕社長がケーイーティを設立したのは2000年。もともとは九州出身で、福岡大学工学部で土木工学を専攻した。廃棄物処理との出会いは、恩師から「ダムや橋梁といったインフラ系は研究し尽されているが、廃棄物工学は未開拓」と言われ、廃棄物工学を研究したのがきっかけである。卒業後は東京都内の大手廃棄物処理会社に就職。4年後に同社の福島拠点に転勤し、8年後に独立した。

当初は顧客と処分場をつなぐコンサルティング会社として創業。03年に福島県の産業廃棄物収集運搬業許可を取得し、06年に現在の矢吹町に運搬車両を置く用地を得て、収集運搬業に乗り出した。08年に千葉県の同業他社を買収し、11年には長野県に支店を設けるなど業容を拡大。ピーク時は37台の運搬車両と約50人の社員を抱えた。「さまざまな処分方法や処理場を提案できる企業は福島には少なく、さらなる業容拡大を考えた」と川田社長は振り返る。

ところが営業エリアの拡大に伴う弊害も出てきた。競合相手が多い首都圏を中心に他社との価格競争が激化し、受注した案件の粗利が低下。運搬車両とそれを運転する社員が急増し、車両管理や労務管理が煩雑化した。また車両運転の長時間化により運転手の疲弊が進み、時間外手当てや宿泊費も増加。さらに産業廃棄物処分場が各地域に設置され始め、広域運搬の意義・うまみが薄れていった。

事業エリアを見直し新規営業を停止

矢吹町の本社屋
矢吹町の本社屋

これに対し、経営資源の選択と集中を検討。その結果、14年に千葉、長野の両支店を閉鎖し、事業活動エリアを福島県と隣接県(茨城、栃木、群馬、山形、新潟、宮城)および埼玉県に絞ることを決めた。遠方の業務については自前の車両・運転手を使わず、他社に業務を委託。また運転手個々が自分専用の車両を運転する〝持ち車〟を廃止し、乗車車両を変動化することで業務量を平準化させた。

受注活動も選択と集中を実施。顧客を開拓する新規営業を全面的に停止し、営業担当者に「粗利を20%以上確保できない案件は無理に受注しない」ことを徹底した。その代わりに自社のホームページを全面的に刷新。「現在ではネット経由で着実に新規顧客が増えている」という。また自社が得意な業務・サービスに特化し、不得意な分野・サービスは協力会社に外注することにした。

事務処理は徹底してIT化を進め、紙にあふれていたスチール製デスクや、膨大な書類が詰まったロッカーなどを廃棄した。その上で事務所のレイアウトを変更し、複数人が座れる変形デスクや立ったまま仕事ができるスタンディングテーブルを配置し、有効スペースの活用と明るく働きやすいオフィスに衣替えした。

この結果、14年3月期は2.3%だった営業利益率は、15年3月期に6.1%、16年3月期は8.7%、17年3月期は10.3%と急激に上昇。18年3月期は9.5%、19年3月期は9.6%と安定した収益構造を実現している。

運転手の月平均労働時間も、16年3月期は241時間だったものが、17年3月期は225時間、18年3月期は211時間、2019年3月期は204時間と年を追うごとに減少。事業エリアの縮小により、例えば運転手1人で1日に1カ所しか行けなかったケースが、2カ所に行けるようになった。営業担当者は新規営業に関わる訪問・移動がなくなり、事務担当者は事務書類と事務処理作業が大きく減少。結果的に労働時間の削減を実現した。

年収を保証、継続雇用も無期限化

明るく働きやすい事務所
明るく働きやすい事務所

経営方針を転換するに当たって最も苦労したのは、「労働時間の削減を社員にどう理解させ、浸透させるかという点だった」と川田社長。実際、労働時間を減らす方針を伝えると、年収が下がってしまうという不安が社員の間に広がった。特に運転手は時給制を採用しており、そのままでは住宅ローンの支払いなど、個人の生活設計が破綻する。

そこで「前年度の年収を保証する」ことを会社の方針として明確化。全社員の評価と処遇を別にし、時給制の運転手は時給単価の引き上げと賞与で調整することにした。その上で半期ごとに前年比を確認しながら、労働時間が減っても年収は下がらない仕組みを構築した。

また定年後の継続雇用を無期限化し、本人の希望があれば65歳以上でも継続して働けるようにした。短時間でも働き続けることで(1)社会とつながり健康でいられる(2)社会保障費が削減できる(3)年金だけでなく給与収入を得られる—という社会的側面から導入しており、実際、事務担当者6人のうち1人は65歳以上。また運転手9人のうち2人は62~63歳で、全社で労務負荷の高い業務は受注を見合わせるか、外注に切り替えている。

さらに年次有給休暇を1日単位だけでなく、半日単位や1時間単位で取得できるように切り替え、勤務日数や勤務時間についても個々の社員の事情に合わせて柔軟な働き方ができるようにした。「有給休暇取得率の向上」は「残業時間の削減」と合わせてISO環境マネジメントに組み入れ、毎月の会議で確認・発表し、全社員に実行を促している。

年6回の社内行事で風通し良く

奥の男性は立ったまま仕事をしている
奥の男性は立ったまま仕事をしている

川田社長は「働き方改革の意義や必要性を理解させることに加え、IT化や作業方法の変更に対する抵抗や不安もあった」という。そこで数年前から社内行事を年6回・2カ月に1回の頻度で開くようにした。1月は新年会、3月は事業計画発表会、5月はパークゴルフ大会、7月は暑気払い、9月は社員旅行、11月は安全講習会を行う。これにより社内のコミュニケーションを円滑化し、経営方針転換と働き方改革に関する情報共有を図った。

20年4月からの新年度は、残業時間目標を1人当たり月平均30時間以内に設定。毎年度ごと月5時間ずつ減らし、6年後の残業時間ゼロ達成を目指す。また業績面でも、大型案件を数年分受注した結果、20年3月期は22億円、21年3月期は25億円を売り上げる見通しで、近い将来の株式上場も見据えている。地域貢献活動にも取り組み、同社の寄付をもとにした「子ども子育て支援基金」の創設を矢吹町に働きかけている。

「労働時間を削減するために経営方針を転換したのではなく、利益を追求しようと考え抜いた結果が労働時間削減につながった」と川田社長。「事業範囲を縮小した時期と、働き方改革が注目され始めた時期が偶然重なった結果、改革が進んだ」と話す。まさに「働き方改革は儲かる」ことを証明した格好だ。

企業データ

企業名
株式会社ケーイーティ
Webサイト
設立
2000年7月
資本金
300万円
従業員数
22人
代表者
川田 裕 氏
所在地
福島県西白河郡矢吹町赤沢665-1
Tel
0248-41-2252
事業内容
産業廃棄物の収集運搬

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