文系社長の"モノづくり人生"
橋本秀夫(日本エクシード) 第4回「隠されたノウハウ保護作戦」
忍び寄る国内外の技術競争
「量産品であろうと試作段階の製品であろうと、必ずお客様の使えるレベルまで仕上げます」
日本エクシードの「売り」用語である。
シリコンの他に2、3種類の材料を研磨加工する会社はある。しかし30種類もの量産品を研磨加工できる技術力のある会社は、同社以外に存在しない。だからといって、価格決定権を握れるかといえばそうとは限らないのがこの業界だ。
シリコン市場の規模はおよそ9000億円。半導体関連産業といっても、同社が手がける分野はせいぜい500億円といったところ。新しい市場が創出されても大手材料メーカーなどの研磨加工部門が後追いですぐ参入してくる。同社は技術的にギリギリのところで優位な立場に立っているに過ぎない。まさに薄氷を踏む思いなのだ。
ここ3、4年の傾向として、大手取引先が研磨から加工まで一貫化する動きが顕在化している。研磨の技術情報を引き出し、自分で始める例は後を絶たない。
海外の動きにも目が離せない。
「中国でもシリコンを扱える材料メーカーはどんどん増えています。日本の中古機械が海を渡っていますので、非常にスペックの低いニーズというのはかなりあります」
「問題は韓国と台湾です。韓国は半導体産業などの躍進を受けて、加工技術はすでに日本を凌いでいます。台湾企業は日本を上回る研磨加工技術を持っています。こうした台湾の技術が続々と中国へ進出しているので、いずれも中国も侮れない競争相手に育ってくると思います。彼らに共通するのは、経営の意思決定が早いことです」
公証役場に知財管理拠点
国内外で大きな広がりを見せる技術競争。知的財産管理の必要性は日本エクシードにとっても差し迫っている。
「10年ほど前、産業技術総合研究所の協力で特許を取得したことがありました。しかし研磨技術で特許を出願するというのは、得策ではないことが分かったんです。加工技術という性格上、同業者に真似されたかどうかも分からないし、もし真似されても実証できません」
橋本はそれ以来、特許出願をストップした。だが、他社がすでに存在する技術について出願し、その技術の使用を不許可とする忠告を受けたらどうする。特許の先願主義に対抗するにはどう手を打つべきか。形のハッキリしない独自の技術ノウハウを伝承していく観点からも、緊急を要する重い課題である。橋本と同じように思い悩んでいる加工型の中小製造業も多いはず。
「その技術を何年も前から使っている作業記録表をしっかり残してください」
橋本が藁をも掴む思いで相談した弁理士団体幹部の答えは明確だった。
「公証役場で作業記録表の受理番号に押印してもらうだけで、後で技術ノウハウを利用していたことが証明できます」
あっけないほど簡単な手続きである。
「ノウハウ重視の会社にとっては、一番いいやり方だと思います。現在、社内でノウハウって何だろうという議論をやっています。これまでノウハウだと思っていた技術がノウハウではなかったり、逆にノウハウでも何でもないと考えていたものがノウハウとして認められたりと悲喜こもごもです」。「今年度内には公証役場にノウハウを一括して届ける予定です」
どんなに技術力があっても、それを支える技術者・技能者が育たなければ維持できない。この面でも日本エクシードの人材育成策は独自性を如何なく発揮している。
「事業は人なりにと言いますが、私は人が育てば技術はついてくると言っています。特別な人材育成法がでるわけではありませんが、2通りの人材育成を心がけています」
橋本のいう2通りの人材育成の1つは会社の底力となる加工技術のトレーニング。今1つは市場の要求に応えられ、かつ会社の進路を定めていく技術開発者の育成だ。
人材育成を制度化したのが技術者・技能者を対象とした独自の「職能等級制度」。
「制度そのものは古くからありましたが、賃金制度と結びついていなかったため絵に書いた餅のような制度でした。そこで目標管理制度と一体化して今日の制度がうまれたのですが、まだ満足はしていません」(敬称略)
橋本の挑戦はまだ続く。
掲載日:2006年12月4日