中小企業NEWS特集記事
「八幡屋茶舗(静岡県森町)」F/S支援受け突破口開く
この記事の内容
- 創業は大正元年の老舗。その伝統は挑戦する経営姿勢にある
- 海外で人気高まる緑茶の輸出を目指しマレーシアでの調査を始める
- 中小機構の支援などで昨年に初輸出、欧米への展開も視野に
静岡県森町は「遠州森の石松」の生誕地としても名高いお茶の産地。この地で1912年に八幡屋茶舗は創業した。104年続く老舗の伝統は、攻める経営にある。4代目の安井健一代表取締役(47)は「何事も無理だと考えず挑戦する大切さを受け継いできた。海外へ目を向けたのも自然な流れ」と話す。
挑戦する社風は、現状維持を嫌う。お茶の製造では、生産者から買い付けた後の過程で微妙な火入れ技術を必要とするが、これは創意工夫の連続。深蒸しの関東、浅蒸しの関西など消費地のし好を考え、絶妙なブレンドを加味して甘味、渋味を醸し出す。
伝統にこだわらず、工夫し変化させる取り組みは、各地の品評会での実績につながっている。農林水産大臣賞のほか多くの受賞歴があり、今年7月の東京での品評会では2位を獲得した。本社の直売所には賞状、トロフィーが並び、それでも置ききれず事務所内を飾っている。
「高品質で安全な茶葉を求めれば、産地もこだわる必要がない。地元の茶農家を大切にしつつも、20年前から手間と時間を惜しまず全国へ買い付けに出向いている」と話す。こうして生産するお茶だが、国内市場をみるとペットボトルで売られるドリンクを除くと右肩下がりの状態が続く。販売は厳しい状況となっているが、それでも確実に需要はある。それを掴むための挑戦が続く。
販路開拓のため11年前に返礼品用のお茶販売を始めた。「今さら参入しても遅すぎると言われ、営業に行っても名刺を受け取ってもらえないこともあった。それでも今ではビジネスとして成り立っている。この経験があったから、ゼロからのスタートを恐れない。むしろ新たな挑戦に心が躍る」と海外展開への気持ちを語る。
しかも、健康促進に効果のある日本のお茶が海外で注目されている。「海外需要を取り込み自社が成長すれば、生産農家の安定にも寄与する」ことが動機だという。
安井氏が、海外展開の方策を探っていた時に地元の信用金庫から中小機構の海外事業支援策を聞く。すぐに相談へ出向き、その後アドバイザーの援助を受け戦略を策定し、初の輸出事業を手掛けることになった。日本からのお茶の輸出は米国が半数を占め、次にドイツ、シンガポールと続く。「競合他社の多い市場よりは今後の拡大が見込める国にしたいと考え9位のマレーシアに狙いを定めた。
ここならシンガポールもカバーできる」と考え、F/S(実現可能性調査)を昨年9月に実施。両国で小売、レストランチェーンなど19社を訪問し、複数の訪問先からサンプル出荷、見積書の提出依頼を受けた。こうして同11月に初の輸出を成約することができた。
同時に行ったのが、海外展開の重要なツールとなるWebサイトの英語対応。少しずつだが海外からのアクセスや問い合わせが増えているという。海外での営業活動や商談会の後に役立ち、自社アピールなどにも大きな効果が期待できる。海外展開にはサイトの多言語化は必須となる。
「まだ先行投資といえる段階だが、3年以内に利益を出し5年以内にビジネスとして確かな軌道に乗せる方針だ。課題は語学力と人材育成。まずは私が英会話に挑んでいる。現地でのコミュニケーションが円滑なら輸出量は3倍、事業計画も3倍速くなるのでは」と語る。
今後の展開は、環境意識の高い欧米向けに有機緑茶や有機抹茶を展開すること。有望な顧客開拓のため、この秋に開催されるロンドンでの展示会にも参加する。平成25年度全国茶業連合会青年団長を務めた経験から幅広い人脈があり、有機茶の買い付けなどに自信を見せる。
海外でお茶を販売するための努力がブランド力を高め、企業認知度を向上させる。それは国内販売も伸ばすことにつながるはず。挑戦への前向きな姿勢が、企業の活力となることは間違いない。
企業データ
- 企業名
- 八幡屋茶舗
- Webサイト
- 設立
- 1926年3月(法人化=1995年11月
- 資本金
- 1000万円
- 従業員数
- 20人
- 代表者
- 安井健一氏
- 所在地
- 静岡県周智郡森町天宮581-1
- Tel
- 0538-85-3039
- 事業内容
- 緑茶製造・卸・販売