売れない時代に売れる理由。販売低迷期の成功事例
「アイリスオーヤマ」店舗を持たない製造小売業を確立
消費者の目線で開発
宮城・仙台に本拠を置く生活用品の大手メーカー、アイリスオーヤマにこんなエピソードがある。収納ケースといえば従来中身が見えず、一々開けなければ中身が分からなかった。同社の大山健太郎社長がある日、釣りに出かけようとお気に入りのセーターを探していたが、なかなか見つからず、家中の引き出しを開くはめに—。
アイリスオーヤマが1989年に発売した「クリア収納ケース」開発のキッカケになったエピソードだ。“しまう収納”から“みえる収納”への転換だ。収納ケースの例は、開発者の目線ではなく生活者目線から開発し、付加価値をつけた代表例だ。
同社は生活用品メーカーの大手で現在グループ売上高2350億円(2011年度)。スーパーやホームセンターに「同社の製品がなければ、生活用品の売り場はできない」といわしめるほどの存在になっている。
「生活者の目線になって考える」と「過去の常識にとらわれない」。これが同社のよって立つところである。生活用品の商品開発の原点が、生活者の「不満」や「不便」を解消するところにあるとするならば、大手メーカーが忘れがちなこの原点を同社は愚直に守り続け、それを製品として具現化してきた。
通常メーカーは、例えばビールメーカーなら主力のビールに関連した商品、化粧品メーカーなら化粧品や日用品などと、隣の分野や関連する商品分野を持つのが一般的。カテゴリーが明らかに違う商品を複合的にたくさん持つことはまれだ。
同社は収納、インテリア、家庭日用品、ペット、園芸、LED、家電などと実に多岐にわたるカテゴリーを持つ。その商品数は現在1万5000品目に上る。「ニッチな市場で、不満や不便を解消するような商品を提案することでメジャーにしてきた」(大山社長)という。消費者のニーズを追い続けた結果、必然的にカテゴリーも拡大した格好だ。もちろん、「特定のカテゴリーだけに偏ると何かが売れなくなった時にリスクが大きい」という理由もある。テレビが売れているからとテレビに偏重した結果、次の流れに乗り遅れ苦しんでいる大手電機メーカーの例がそれを証明している。
取引先、生活者に利便性を提供する生産体制
アイリスオーヤマは多品種少量生産で利益の出る仕組みを併せて作ってきたからこそ、現在の成長がある。同社は全国に8つの物流センターを併設した工場を持っている。工場は多品種少量生産を可能にする「デパートメントファクトリー」と呼ぶ。北海道から佐賀県の8工場では、工場によって生産品目を分けてはない。それぞれの工場でほとんど同じ品目を作る。フレキシブルな生産体制があるからで、例えば同じ射出成形機を使い、異なる商品を成形し、自動溶接ロボットでは複数の商品の溶接を行う。一見、非効率にみえる生産体制だが、工場全体があたかも多能工のようである。
この生産体制は実は取引先、生活者に対する利便性の提供にほかならない。同社は自らを「メーカーベンダー」と呼ぶ。つまりメーカーと問屋(ベンダー)を融合した機能だ。 両機能を持つことで2つのメリットがある。一つは中間マージンを削減、手ごろな価格を設定できるメリットだ。商品は自動倉庫で管理しており製造から問屋機能を持つことで入出庫、ムダな商品の移動がない。さらに問屋機能を持っているため、小売店の情報はリアルタイムに把握でき不要な在庫を持たなくて済む。
今ひとつは小売店からの発注を受けて納品までのリードタイムが短くて済む。8つの工場はそれぞれ半径300キロメートルを配送範囲に設定している。この結果、小売店から注文を受け、翌日には納入できる体制を実現しているのだ。8つの工場でそれぞれ同じような機能を持っていれば、災害時のリスク管理になる。一つの工場が被害を受けても、近隣の工場が機能を代替できるという訳だ。
同社はまた、中国の大連や蘇州に工場を持つが、同じような機能を保有、現地に配荷したり、日本に輸出したりしている。
メーカーが開発しないニッチ商品をPBで実現
最近、大手小売業がプライベートブランド(PB)の開発に力を入れている。もちろん、大手小売業の販売力を背景にし、メーカーに大量に生産してもらうことで製造原価を引き下げ低価格化し販売することが狙いの一つとしてある。しかし、小売業がPBに力を入れるもう一つの理由は、つまりメーカーが掴んでいない生活者の不便や不満を掴んでいて、それを具現化できるからだ。いわば、メーカーが開発していないニッチの商品を主導して作れる狙いがある。
モノ作りの主導権をメーカーか、小売業かどちらが握るのかという議論は別にして、同社は製造と卸機能を一体化、フレキシブルな生産体制、さらに時代の変化、社会環境の変化に適応できる生活者目線の商品開発力を持っているからこそ、スーパーやホームセンターに「アイリスオーヤマの商品なくして売り場は作れない」といわしめるほどの存在感を維持しているといえる。
大山社長は20代の頃、松下電器産業(現パナソニック)の創業者の松下幸之助氏の水道哲学に影響を受けたという。松下も多岐にわたるカテゴリーを持ち、それぞれの分野で1割の利益を出すという目標を掲げていたというが、同社は今も各カテゴリー分野で1割の利益を出すことを実践している。「1割程度の利益を出さないと設備投資をして再生産ができないから」と大山社長は話す。 参入したカテゴリーで1割の利益を上げられるようになるのは、的確な時代をとらえた変化対応力があるからだ。同社が最近、力を入れているのがLED照明とヘルスケア分野だ。もちろん、東京電力福島第1原子力発電所の事故以来、国内では節電対策を迫られている。この時代の要請というか、社会的使命に対応して、いち早くLEDの拡販に注力、すでに数百億円の売上高を実現した。同社JR仙台駅近くの「アイリス青葉ビル」の6階以上のフロアをLED化、あたかもLEDのショールームとしている。機を見るに敏だ。
また、高齢化時代で健康志向が拡大することを背景にして、ヘルスケア分野を拡充、サプリメントのほか、漢方の視点を取り入れた「とうもろこしの茶」を発売したりしている。一見、従来から扱ってきた主力商品との関連性は薄いようにみえるが、大山社長は将来の成長に備えて「太い柱をいくつ持つかが大事。その布石だ」という。
ダイエー創業者の中内功氏は小売業を「工場を持たないメーカーになるべきだ」と表現した。それは生活者に一番近いところにおり生活者の視点で、商品を仕入れたりメーカーに生産してもらったりするからだ。アイリスオーヤマは逆に「店舗を持たない製造小売業」といえ、新領域を切り開いたといえるのではなかろうか。
企業データ
- 企業名
- アイリスオーヤマ株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 大山健太郎社長
- 所在地
- 宮城県仙台市青葉区五橋2-12-1
- Tel
- 022-221-3400
掲載日:2013年2月12日
<関連情報>
「過去の常識にとらわれない」(大山健太郎社長)と8工場で同じ商品を生産