あすのユニコーンたち

データ解析やAIを活用、多種多様な企業の課題を解決【株式会社METRIKA(東京都渋谷区)】

2024年4月11日

小林凌雅代表取締役 CEO(右)と澤村俊剛取締役 COO(左)

「ベテラン社員にデジタルスキルを身に付けさせたい」「AIを製品開発に活用したい」「商品の売り上げを伸ばすのに最も効率的な宣伝方法は何か」—。製品開発や販路拡大、人事や総務…。企業が抱える課題は実に多種多様だ。東京都渋谷区の株式会社METRIKA(メトリカ)は慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)を創業の地にする大学ベンチャーで、データ解析やAIを活用して企業が抱える課題の解決をデータ分析やAIの力でサポートするビジネスを展開する。名だたる大手企業が取引先に名を連ね、METRIKAのサポートを受けながら社内に抱える課題の解決に取り組んでいる。

「自分の力で課題を解決したい」

小林凌雅代表取締役 CEO
小林凌雅代表取締役 CEO

「大学と企業との共同研究に参加して、いいAIを開発した。ところが、他の技術的な課題や採算面からビジネスで活用できないということが起こった。当時は、自分の研究範囲のことだけをやっていればいいと考えていたが、それだけではうまくいかない。自分の力ですべて解決しなければ先に進まないと感じた」。代表取締役CEOの小林凌雅氏は創業の経緯をこう語った。

慶応大学で統計学やAIを研究していた小林氏。母校や京都大学のデータサイエンススクールで講師を務めていた。民間企業や団体のデータ解析などに関するさまざまなプロジェクトに参加する中で、データ解析やAIの進化に追いつけていない企業や社会の現状をもどかしく思っていたという。2018年頃のことだ。

小林氏は、当時総合人材サービス会社に在籍していた澤村俊剛氏に起業を持ち掛けた。「共同創業者でCOOを探している」。すると、澤村氏は快く了解し、2020年に2人でMETRIKAを創業。澤村氏が取締役COOに就任した。「今から振り返ると『怖いな』と思った。何をやるかも決めていなかったので。それよりも誰とやるのかを優先した」と澤村氏は笑った。

デジタル化を支援するコンサルティングとシステム開発をメイン事業に

METRIKAが展開する事業領域は大きく分けて2つある。デジタル・コンサルティングとシステムやデータ分析などの受託開発だ。コンサルティングでは、企業のデジタル戦略の策定やデジタル人材の育成をサポートする。大手といってもデジタル技術の長けた人材を豊富に抱えている会社はそう多くはない。アプリケーションソフトの開発やAIの活用などが新規事業を進めるうえで不可欠な時代になる中、METRIKAの持つ最先端の知見を生かして事業を後押ししている。

一方、システムの受託開発では、マーケティングやセールス、在庫など社内に大量に蓄積されたデータの分析やデータの統合などのシステムの開発を請け負っている。企業のニーズに応じて、データを活用しやすい環境に整備する。コロナ禍には、自治体からオンライン診断の予約や面談ができるシステムの開発プロジェクトに参画した。

あるメーカーからは、製品に取り付けたセンサーから得られるデータの活用方法の提案を求められ、そのニーズに対して、2つの仮説を立て、データを分析し、仮説の実証を行っている。また、その他にも「視聴率とSNSとの関連性を分析したい」というある放送局からの依頼では、実際のデータからの関係性を導き出している。

デジタル人材の教育・育成からスタート

澤村俊剛取締役 COO
澤村俊剛取締役 COO

創業からわずか2年という短期間にもかかわらず、なぜ大手企業から多くの相談をもらえるように成長できたのか。そこには、COOである澤村氏の前職での経験が生かされている。

澤村氏は総合人材サービス会社で、事業戦略や新規事業を担当。プロフェッショナル人材を大手企業にマッチングする事業を手掛けていた。自身が手掛けた、そのサービスを活用したのだ。前の会社も澤村氏の独立をサポート。創業から間もなく、大手自動車系企業とのマッチングが成立した。その後も継続的に取り組みが成長し、顧客から新たな顧客を紹介してもらうことも多いという。

請け負ったミッションはデジタル教育やデジタル人材の育成だった。教育・育成の対象となったのは、定年目前の50代後半の現役社員。デジタル教育をスタートさせると、2人は受講生たちの吸収力の早さに驚かされた。「みんな一生懸命パソコンに向かって、着実に上達している。中には、プログラミングを使いこなせるレベルの受講生まで出てきた」と小林氏。受講生の中では、AIやチャットGPTなど最新のデジタル事情の学習にとどまらず、その後、会社全体のデジタル分野を主導する部署のコアメンバーに抜擢された受講生も現れたそうだ。

少子高齢化を背景に大手企業といえどもデジタル人材の確保は難しい。そこで、デジタル人材を内製化しようとする動きが目立ち始めている。デジタルとは縁遠かった50代の社員のリテラシーを高めることで、再雇用を視野に新たな戦力として活躍する環境を整えることが可能になった。「この年代の人たちは社内の幅広い業務に精通し、社内にどんな課題があるかもよくわかっている。業務に対する深い知識と知見をデジタル技術に紡ぐことで、解決できなかった課題の解決法を導き出す期待も大きい」と小林氏は指摘する。

AIの進化は著しく、ビジネスへの活用が大きな注目を集めるが、小林氏は「AIはあくまで手段であり、道具に過ぎない」と強調する。人間がしっかりと使い道を考えて使ってこそAIはその力を発揮する。デジタル人材の育成はMETRIKAの事業の柱の一つになった。また、デジタル教育での成果が高く評価され、若手社員のデジタル教育、社内の人事や評価制度のシステム開発まで引き受けることになったという。

大手企業との安定した取引は信用に直結する。金融機関もMETRIKAの業務実績を評価し、資金面をはじめ、さまざまなサポートを提供するようになった。また、「AIを使って、こんなことはできないか」という相談が数多く寄せられるようになった。会社の立ち上げにあたっては、中小機構が慶応大学と連携して運営しているインキュベーション施設、慶應藤沢イノベーションビレッジを活用した。「ハードの部分だけでなく、サポートが手厚く、ファイナンス面の相談にも乗ってくれて、金融機関とつないでくれたのも中小機構のおかげ」と小林氏は話していた。

企業の課題の共通項の“標準化”目指す

昨年の合宿イベントでのメンバー写真。シンガポール、イギリス、スペイン、ドイツなど世界各地からリモートで参画している。
昨年の合宿イベントでのメンバー写真。シンガポール、イギリス、スペイン、ドイツなど世界各地からリモートで参画している。

今後の事業展開について、小林氏は「今展開している価値にどうレバレッジをきかせるかが3年目以降の課題」と語る。METRIKAが大手企業から受託する業務は、はたから見ると多種多様。しかし、小林氏は逆に「提供する価値は多種多様であるが、データやテクノロジーの部分はきちんと共通点を持っている」と言い切る。「デジタルに関する悩みには共通項があり、こうした共通項を整理して標準化していくことで、より多くの企業の課題解決に取り組んでいきたい」と話す。

「高齢化が進む日本において、50代以上のシニア社員のデジタル教育に悩んでいる企業はいっぱいある。それが全部解決できると、日本はものすごく元気になるけれども、日本中のシニア社員全体を対応することは現実的にできない。ぼくではない人がやったらどうなのか。場合によっては、もっとうまいかもしれない。そう思いながら、いろいろな人が対応できる仕組みを作ることが目下の課題」と語る小林氏。起業を考えるきっかけとなったデータ解析やAIが、スムーズに企業に実装される社会の構築を先に見つめている。

会社の成長とともに起業家としても成長

澤村氏に白羽の矢を立てたことについて、小林氏は「誰かと今の問題を解決できないかと考えた時、澤村さんとやったら、面白そうだと思った。なんとなく…。そこに合理的な理由はなかった」と打ち明ける。2人によると、当時、顔を見知っている程度の間柄だったそうだ。2人とも本業の傍らある企業のプロジェクトの手伝いに入り、同じオフィスでお互いの仕事ぶりに触れ、お互いのスキルに一目を置くようになった。

起業の相談を受けた澤村氏は「前の会社でいいポジションにいてやりがいも感じていた。別にそのままでも何の不満もなかったが、小林の話を聞いて『面白そうだ』という直観があった」という。その翌月には会社に辞表を出した。どこか行き当たりばったりのスタートのようにもみえるが、小林氏のデータ解析やAIのスキルと澤村氏の事業開発力のスキルがうまくかみ合い相乗的なパワーを生み、事業を軌道に乗せた。

プロジェクトの多くは、大手企業の懐に入っての仕事。歴史ある企業の社風やビジネスモデルに触れ、大きな感銘も受けた。「ある企業の経営理念に『産業を興し、社会に貢献する』というものがあった。自社の利益も大事だが、社会や地域に貢献してきたからこそ、今の地位があるのだと感じた」と2人は口をそろえた。そのことをきっかけにMETRIKAの経営理念にその項目を加えた。

「教える立場なのだが、逆に教えられることも多かった」と小林氏と澤村氏。会社の成長とともに起業家としても著しい成長を果たしている。

企業データ

企業名
株式会社METRIKA
Webサイト
設立
2021年4月
資本金
500万円
代表者
小林凌雅 氏
所在地
東京都渋谷区恵比寿南1- 20-15 アトリウム恵比寿南一丁目ビル5階
事業内容
データ基盤構築事業、データ分析事業、AI開発事業、デジタル人材育成事業、その他
問い合わせ
info@metrika.jp