新規事業にチャレンジする後継者

香川から世界の水を守る事業に挑戦【有限会社森清掃社(香川県仲多度郡)山添勢氏】

2024年 7月 26日

山添勢取締役
山添勢取締役

1. 事業概要を教えてください

浄化槽の清掃作業
浄化槽の清掃作業

当社は香川県の西讃地区で、浄化槽の維持管理・清掃・排水管の高圧/薬品洗浄などの、地域の排水インフラを支え、水環境を維持する事業を行っている。浄化槽の維持管理は、浄化槽の正常な運転を確保し、環境保護および公衆衛生の維持に貢献するための重要な業務だ。清掃(し尿くみ取り)は、家庭や施設で発生するし尿を適切に収集し、衛生的に処理するためのサービス。排水管高圧洗浄は、排水管内に蓄積した汚れや異物を高圧水流で洗浄し、排水の流れを改善するものだ。国家資格の浄化槽管理士が行う業務となっている。

令和3年度の資料によると、全国の汚水処理人口の9.4%である1,176万人が浄化槽によって排水を処理している。浄化槽の性能を保つためには浄化槽管理士による定期的な点検と浄化槽の清掃(くみ取り)が必要だ。しかし、業界は慢性的な人材不足と高齢化の問題を抱えており、15年後には浄化槽管理士が半減すると予想されている。一方で、地域にある集合排水処理施設が老朽化で使えなくなる事態が発生している。国は浄化槽による個別処理に切り替える方針を打ち出している。これにより、浄化槽を使用する世帯のシェアは増加が予想されている。このままでは、全国的な浄化槽点検が追いつかなくなる懸念が浮上している。

2. どんな新規事業に取り組んでいますか

浄化槽の点検作業
浄化槽の点検作業

浄化槽の汚物量を自動測定するセンサーを中核技術に、浄化槽管理を遠隔監視するシステムづくりに取り組んでいる。浄化槽管理士の人材不足をDX化で乗り切りたいという思いからだ。私自身デジタルに関する知識は乏しかったが、浄化槽にセンサーを付けて管理できないだろうかと考え、一緒に開発してくれる方を探していた。紆余曲折があり、さまざまな方に相談するなかで、大阪大学発のスタートアップ企業である地球観測株式会社(大阪府吹田市)等と知り合い、共同開発することにこぎつけた。

浄化槽の中は汚物がたくさんあり、過酷な環境で問題なく動作させる必要があった。私たちは特定の条件の樹脂を3Dプリンターで出力しモーター等と組み合わせる事で問題をクリア、この検出方式は非常に安価に製造する事が可能で更に長期間ほぼメンテナンスフリーでの運用が可能である。センサーの技術は完成し、現在特許を出願しているところだ。今後はこのセンサーを用いて、データを送信し、遠隔で監視できるシステムまでまとめ上げていくことに取り組んでいく。これまでは人が浄化槽を一つひとつ点検していく必要があり、1日に12件程度しか回れなかった。遠隔監視を取り入れる事で、大量の浄化槽を同時にモニタリングし問題の発生した浄化槽のみに対応するようにできれば一日の対応件数は240件と遠隔監視を採り入れることで、これを240件と約20倍に効率化させることができるようになる。作業の負担も大幅に軽減できる。

香川県浄化槽協会からも評価をしてもらっており、まずは香川・四国地域で普及させていく。さらには全国展開を目指していく。そして、将来の目標は海外にもこのシステムを展開させていくことだ。浄化槽は環境立国・日本のものづくりが生み出した誇るべき浄水装置であり、世界の水を変える力を持っている。しかし、浄化槽の管理技術は高度であるため、技術移転や現地での運用が難しいことが市場開拓の大きな壁となっている。遠隔監視システムがあれば、たくさんの浄化槽を効率的に監視でき、点検にかかる負担を減らすことができるため、途上国でも浄化槽を普及させることが可能になるとみている。途上国ではきちんと処理されない汚水が河川に廃水されている地域も多い。浄化槽を普及させることは、世界の水問題の解決にも役立つ。実現には浄化槽メーカーや通信企業、JICAなど、多くの関係者の協力が必要だが、香川の小さな会社の思いが、やがて大きな動きになっていくと信じて取り組んでいきたい。

3. 事業承継をどのように決心しましたか

堀家真大社長(左)と共に成長を目指す
堀家真大社長(左)と共に成長を目指す

5年前、私の義父で当社の社長から突然事業承継のオファーを受けた。私はその当時東京で全く別の会社で営業マンとして働いていた。義父の会社の事業内容も、浄化槽管理士という職業のことも存在すら知らなかった。しかし、その場で継ぐことを即決し、新たな世界へ飛び込むことを決意した。自分に来るオファーにはすべて意味があり、挑戦することで新たな可能性が開けると信じていたからだ。私は名門野球部出身の体育会系であり、バイタリティには自信があった。一度決めたことには全力で突き進むタイプでもある。サラリーマンとして人生を終えるよりも、こちらの方が面白そうだという気持ちもあった。

この業界に入ると決めてから、まずは業界黎明期から現在に至るまでの歴史を学ぶため、積極的にセミナーに参加した。学びを深める中で、この業界にはまだまだ前進できる余地がたくさんあると感じた。「何をやっても、パイオニアならすべてやるしかない」と決意し、私の新たな道が始まった。

4. 後継者の「魅力」や「やりがい」は何ですか

浄化槽の管理には人手がかかっていた
浄化槽の管理には人手がかかっていた

情熱やリソースをやりたいことや目指すことに多くつぎ込んで取り組むことができる環境は、後継者のアドバンテージであり魅力だと感じている。しかし、やりたいことをできる反面、投げ出すことの許されない責任もある。実際に飛び込んでみたら、体力的なことは想像していたとおりだった。ただ、業界全体が小さい村意識のまま、昭和のままで止まっているという印象を受けた。他の業界で仕事をしていて、そこでは技術革新によりどんどん市場が変わっていくのを見てきたので、この停滞を何とかしたいと思った。逆に言えば、他の業界ならやっていて当然のことが、まだできていないわけで、これからどんどん改善ができるのではと思っている。「先人たちがやっていないことがたくさんあるぞ」というワクワクするような気持ちだ。

5. 今後の展望を聞かせてください

社員の力を引き出す経営に取り組む
社員の力を引き出す経営に取り組む

私は香川県の小規模事業者の一員として、事業承継に対して強い思いを抱いている。これまでの事業運営の中で、地域社会との深い絆と、従業員やお客様の支えがあってこそ、今の私たちがあると感じている。事業承継とは単なる経営のバトンタッチではなく、これまで培ってきた信頼と技術を次世代に引き継ぎ、さらに発展させることに責任と使命を負っている。当社は初代から一貫して地域の水環境を守ることを矜持としてきた。私は、父から受け継ぐこの事業を通じて、地域社会に貢献し、環境保護や持続可能な経営を実現していきたいと考えている。新しい技術の導入や経営改革を進める中で、地域の皆様だけでなく、水環境保護に欠かせない存在になるべく、全力を尽くしたい。

そして、長期的には、AIやIoT技術を活用した完全自動化システムの開発を進め、浄化槽管理の未来を創造していく。これにより、次世代に美しい自然環境を引き継ぐことができると確信している。現在の法律では浄化槽管理の遠隔監視は完全に認められているわけではないので、今後さまざまな協議や調整も必要だ。地域社会と連携しながら、持続可能なビジネスモデルを構築し、環境保護と経済発展の両立を目指していく。

企業データ

企業名
有限会社森清掃社
Webサイト
設立
1947年
資本金
500万円
従業員数
3人(役員除く)
代表者
堀家真大 氏
所在地
香川県仲多度郡琴平町1252-2
Tel
0877-75-3470
事業内容
浄化槽維持管理・清掃・し尿汲み取り・排水管高圧洗浄・排水管薬品洗浄