コロナ禍でがんばる中小企業
逆風を追い風に宇宙産業進出、「宇宙品質」でビジネス拡大へ【MASUYAMA-MFG株式会社】(鳥取県鳥取市)
2021年12月20日
1.コロナでどのような影響を受けましたか
当社は主に、自動車関連の部品や治工具を製造している。元々は、父・凡生(かずお)が1983年に創業した「益山製作所有限会社」という社名で、母・たけとともに金型製造業を手掛けていた。その後、唯一の取引先だった企業が中国に進出することが契機となり、会社の存続のため、金型製造業から現在の部品加工業に業態を転換した。同じものを量産するのではなく、多品種・小ロット生産が特徴だ。なお、社名は、2010年に父が亡くなり、私が社長に就任した際に変更した。
以前は産業機械の部品全般を扱っていたが、自動車業界に特化することとし、コロナ禍前には、受注の70%ほどが中国市場向けを中心とした自動車関連の部品となっていた。しかし、米中貿易摩擦の激化により、2019年から中国国内の取引先が自動車部品を現地で調達するという流れが顕著となり、自動車関連の受注は激減した。2020年に入ると今度はコロナ禍に見舞われ、仕事はないに等しい状態となってしまった。
2.どのような対策を講じましたか
コロナ禍で自動車関連の仕事がなくなったことを逆に好機ととらえ、前々から関心があった宇宙産業分野に進出することにした。自動車分野は生産拠点の海外移転が進んでいるうえ、今後は車体構造がシンプルなEV(電気自動車)の普及に伴い部品点数が削減されることから、コロナ後も中長期的に市場規模が縮小すると予想される。一方、宇宙分野は、経済安全保障の点などから、技術も生産拠点も国内にとどまるうえ、市場は国内だけでなく海外でも拡大することが期待されている。
また鳥取県は、月面に環境が似ている鳥取砂丘があることなどから、宇宙産業の誘致や創出に力を入れており、実際に宇宙関連企業の拠点が県内に数多く存在している。さらに、コロナ禍の企業支援のため各種の補助金が利用しやすくなった。コロナ禍の逆風が宇宙分野進出の追い風となった格好だ。
具体的には、2020年4月、鳥取県産業技術センターに対し、ニッケルなどの合金である「Ni基超合金インコネル」の精密加工技術の共同開発を提案した。Ni基超合金インコネルは耐熱性にすぐれ、ロケットエンジンなどに利用される材料だが、「超難削材」と呼ばれ、その精密加工は極めて難しい。同センターとは、その前からチタンなどの難削材の加工で共同開発を行っていたことから、インコネルでも一緒に開発を進めることになった。こうした努力が実を結んで当社は株式会社たすく(東京都中野区)と連携して宇宙航空研究開発機構(JAXA)に部品納入を行った。2022年には国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」で使用される予定だ。
最初、私が「宇宙に進出する」と宣言したときには、社員はキョトンとしていたが、当社の製品がもうすぐ宇宙空間で活用されることから、今では社員も誇りをもって仕事をしている。宇宙分野のビジネスを手掛けていることを知って入社してきた若手社員もいる。宇宙分野への進出は、社員のモチベーションを向上させ、人材確保の面でも良い影響が出ている。
なお、宇宙関連の技術をめぐっては激しい国際競争が繰り広げられていることから、外部への流出を厳重に防ぐ必要がある。JAXAに納入することになったことから、外部からのハッキング防止策を講じるなどセキュリティーを強化している。また、短期労働者や外国人研修生を受け入れることもできないと規定されているため、パート従業員を正社員として雇用することにした。現在は、私のほか社員が4人となっている。
3.今後はどのように展開していく予定ですか
5年後を目途に宇宙関連分野で最大3600万円程度の受注を目指す。2017年に内閣府がまとめた「宇宙産業ビジョン2030」では、宇宙利用産業も含めた宇宙産業全体の市場規模を2017年時点の1.2兆円から2030年代早期に倍増を目指すとしている。EV化で市場規模の縮小が予想される自動車部品と異なり、宇宙産業関連は中長期的に拡大が見込まれる。
また、宇宙分野での実績を他の市場にも活用したい。宇宙品質は究極であり、宇宙分野で当社の製品が採用されたことは、当社の品質の高さが証明されたといえる。この「宇宙品質」を前面に出し、他の分野でもビジネスを拡大させていきたい。
社員教育も引き続き積極的に取り組んでいきたい。生産管理や品質管理を強化するため、4年ほど前から月2回、中小企業診断士を講師として招き、社員ひとりひとりの力を伸ばしている。また3次元CAD/CAMのスキルも高めている。製造業では、3次元の部品をいったん2次元の図面に書くという作業を行っているが、手間はかかるうえ、図面作成の際にミスが起きることもある。また、これからのDX化に向けては、3Dでものづくりを進めていかねばならない。当社ではすでに3次元のCAD/CAM、つまり3Dデータで作業を行っており、これも強みとしてアピールしていきたい。
最後に、製造業全体に向けて伝えたいことがある。製造業こそ女性向きの業界だということ。ものづくりでは、地道な作業をコツコツと取り組むことが大事。また、不良品の発生を防ぐため、起こりうる危険を予測していくことも求められる。これらは、細やかな気配りができる女性の方が適している。とはいえ、やはり力仕事では男性にかなわない。今後、デジタル化やロボット化がいっそう進展し、力仕事が少なくなっていけば、女性がその特性を活かして製造業で活躍できるだろう。
私が父の跡を継いだ当初は、周囲から「女性で図面が読めるのか」と値踏みするような目で見られるなど、女性というだけで悔しい思いを味わった。それに対し、私も「なめられてたまるか」との思いで、図面や金属加工について懸命に勉強した。おかげで今は周囲からだいぶ認められるようになった。今もまだ製造業で活躍する女性は少ないが、これからは、ものづくりの世界で能力を発揮していくことを期待したい。
企業データ
- 企業名
- MASUYAMA-MFG株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1983年
- 資本金
- 700万円
- 従業員数
- 4人
- 代表者
- 益山 明子 氏
- 所在地
- 鳥取県鳥取市南栄町 43
- Tel
- 0857-53-2622
- 事業内容
- 金属加工
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