支援機関によるカーボンニュートラル支援事例

脱炭素経営に向けた削減目標で継続的な支援を実施 2030年までに温室効果ガス排出量42%削減を目指す:株式会社十六銀行(岐阜県岐阜市)

2024年 4月 25日


脱炭素化支援メニューで、事業者の脱炭素経営を支援【株式会社十六銀行】

株式会社十六銀行

株式会社十六銀行

機関分類:金融機関

所在地:岐阜県岐阜市神田町8-26

電話:058-265-2111(代表)

Webサイトhttps://www.juroku.co.jp/

株式会社十六銀行

2021年8月から、温室効果ガス(GHG)排出量の可視化と、具体的な削減目標の設定等を目的とした脱炭素コンサルティング(サービス名:カーボンニュートラルナビゲーター Supported by WasteBox)を開始。2023年8月には、GHG排出量の削減に向けた取り組みで継続的に支援し、事業者の脱炭素経営を目指すGHG排出量マネジメントシステム(トリアネットゼロ)の取り扱いを始めた。将来に向けた脱炭素経営への移行計画や、削減に向けた施策等の提案を行っている。

支援事例

企業データ

企業名
株式会社愛工舎
Webサイト
創立
1934年(昭和9年)10月
設立
1951年(昭和26年)5月
所在地
(本社)愛知県名古屋市昭和区滝川町112-1
(工場)岐阜県加茂郡七宗町川並489
従業員数
93名
業種
精密部品製造業

1934年にゼンマイ式掛時計メーカーとして創業。現在は、半導体向け通電検査用コンタクトプローブをはじめとする超微細部品の製造と販売を行っている。約130台のCNC精密自動旋盤機と5台のMC加工機が常時稼動している。

株式会社愛工舎

[経緯]
稼動はすべて電力。高騰する電気代の解決方法を模索

工場内には、約130台のCNC精密自動旋盤機があり、夜間土日もフル稼動している。「自家消費型太陽光パネルを設置した効果はありますが、それ以上に電気代の高騰が深刻でした」(早川氏)
工場内には、約130台のCNC精密自動旋盤機があり、夜間土日もフル稼動している。「自家消費型太陽光パネルを設置した効果はありますが、それ以上に電気代の高騰が深刻でした」(早川氏)

1934年、愛知県名古屋市でゼンマイ式掛け時計メーカーとして創業した株式会社愛工舎(当時は愛工舎時計製造所)。長きにわたり、時計部品製造を続けていたが、世界情勢の変化による影響を受け、1985年時計事業から撤退。その後、同社が培った微細部品の製造技術を活かし、細物旋盤部品加工事業に転換。現在は、半導体の通電検査に用いられる直径1ミリメートル未満という超微細な部品(コンタクトプローブ)等の製造と販売を行っている。取引先は海外の企業が多く、国内で生産している信頼の証を「MADE IN HICHISO(七宗)」ブランドとして世界に発信し、その販路を拡げている。

同社の四代目である代表取締役社長 早川史洋氏は、現在の状況を次のように語った。
「当社は、CNC精密自動旋盤機等の加工機を稼動させて稼ぐビジネスモデルであるため、電力は欠かせません。もともと節電の必要性は感じていましたが、昨今電気代が高騰しており、経営的に待ったなしの状況になっていました」

悩んだ早川氏は、メインバンクである十六銀行に相談した。早川氏にとって十六銀行は、自社の第4工場を増築した際に融資を受けたほか、自家消費型太陽光パネルの設置の際に施工業者の紹介を受けたこともあり、信頼できる金融機関だった。

[現状掌握]
脱炭素経営の第一歩をサポートする金融機関の新たな動き

2022年12月、十六銀行から提案された脱炭素コンサルティングサービスの契約を締結した愛工舎。温室効果ガス排出量の可視化や、専門家による省エネ診断などの準備に入った
2022年12月、十六銀行から提案された脱炭素コンサルティングサービスの契約を締結した愛工舎。温室効果ガス排出量の可視化や、専門家による省エネ診断などの準備に入った

工場増築のための資金繰りや、施工業者のビジネスマッチングなどをきっかけに、お互いに信頼関係を築いた愛工舎と十六銀行。十六銀行は、愛工舎が抱えている経営課題を解決するため、担当支店とソリューション営業部がチームとなり、支援体制を強化した。
「愛工舎様は、これまでにも空調機をインバータータイプに変更したり、照明をLEDに切り替えたりする節電の取り組みを実施しており、もともと省エネ意識が高い事業者様だと感じていました。それを踏まえ、十六銀行の脱炭素コンサルティングサービスであるカーボンニュートラルナビゲーターを愛工舎様に提案させていただきました。提案の際に、半導体業界における国内外の状況を説明し、今、脱炭素経営が進みつつある現状をお話させていただきました。早川社長からは、有益な情報提供だったと評価いただき、こちらとしても提案した甲斐があったと思っています」(十六銀行 ソリューション営業部 徳田裕介氏)

十六銀行は、金融機関としてはいち早く、2021年8月から事業者向けの脱炭素コンサルティングサービス(カーボンニュートラルナビゲーター)の提供を開始している。同サービスは、事業者の温室効果ガス(GHG)排出量の把握と、削減目標の設定、さらに取り組みの開示や削減計画の実行など、脱炭素経営の第一歩を踏み出すためのもの。2023年12月末時点で、203社の事業者とコンサルティング契約を締結しており、うち179社は温室効果ガスの排出量の算出と、削減目標の設定を完了している。
「省エネはコストダウンに直結するので、社内でこれまでできる限り実施してきましたが、そこからさらに一歩踏み込んだカーボンニュートラルの取り組みとなると、実際何をすべきか分かりませんでした。そんな折、十六銀行さんからカーボンニュートラルナビゲーターの提案をいただき、話を聞いていくうちに、省エネや脱炭素に繋がるアイデアがありそうだと感じ、契約することにしました」(早川氏)

[解決策]
診断後の提案は早期に対応。従業員のアイデアでさらなる省エネ化も

十六銀行は脱炭素経営に向けた支援の第一段階として、まずは愛工舎の温室効果ガスの排出量を算定した。
「温室効果ガスの排出量を可視化すると、その92%が電力消費によるものということが判明したので、以前から取り組まれている省エネを加速させる対策が必要だと感じました。また、削減目標については、SBT(温室効果ガス排出削減目標)水準(少なくとも年4.2%削減)で、「2030年までに42%削減」という目標を提案させていただきました」(徳田氏)

温室効果ガスの排出量を「(2021年を基準に)2030年までに42%削減」という目標は、並大抵な努力では実現不可能なことだと早川氏は感じていた。だが、
「目標を決めた以上、とにかくやるしかないと思いました。十六銀行さんから提案された省エネ診断も、今後の省エネ対策を実施するうえでメリットが多いと思い、受診を決めました」(早川氏)
「前向きに取り組みをされるとのことでしたので、中小企業版SBT認定の提案をし、取得に向けた支援も十六銀行でさせていただきました。現在、中小企業版SBT認定を取得されたので、カーボンニュートラルに向けてさらなる支援を続けていきたいと考えています」(徳田氏)

十六銀行は、専門家派遣による省エネ診断を実施。後日、専門家から以下の対策を提案された。

① コンプレッサーのエア漏れの対策

② コンプレッサーの吐出圧力の低減

③ 外気冷房の導入(室内の吸気/加工機の排気のバランス)

④ オイルミストコレクター用ファンのインバーター化

早川氏によると、① ② はすでに実施済み、③ は現在検討中、④ は十六銀行のビジネスマッチングで施工業者を紹介してもらい現在業者に手配中とのこと。
「省エネ診断の結果は、リーダークラスのメンバーと共有して、現在取り組みを進めています。さらに、従業員からも展示会で見つけた省エネに役立つ機器を導入したいという提案があり、実際に取り組んだものもあります」(早川氏)

社内設備にさまざまな省エネ化の取り組みがされているのを見る機会が増えたことで、従業員たちの間に省エネの取り組みが浸透しつつあるという。

[写真左]専門家から指摘を受けたコンプレッサーのエア漏れ対策は、現在取り組みを進めている [写真右]空調機の室外機には遮熱シート(従業員からの省エネのアイデアをもとに、十六銀行が業者を紹介)が貼られた
[写真左]専門家から指摘を受けたコンプレッサーのエア漏れ対策は、現在取り組みを進めている
[写真右]空調機の室外機には遮熱シート(従業員からの省エネのアイデアをもとに、十六銀行が業者を紹介)が貼られた

[伴走支援・今後の取り組み]
脱炭素経営に向けた移行計画を策定。継続的な支援を実施

愛工舎の脱炭素経営を支援する徳田氏(写真左)と飯田氏(写真右)
愛工舎の脱炭素経営を支援する徳田氏(写真左)と飯田氏(写真右)

「2030年までに42%削減」という大きな目標に向かって、愛工舎は今後どのようなカーボンニュートラルの取り組みを進めていくのか。
「生産設備を省エネの観点で更新するのは難しいのですが、生産以外の設備に関しては、省エネ機器への切り替えや新規導入を検討しています。また、従業員一人一人にカーボンニュートラルの意識を持ってもらうことで、日ごろから省エネを実践できる体制を目指していきたいと考えています」(早川氏)

今後の支援について十六銀行は、
「カーボンニュートラルに関する従業員への教育や情報提供の場として、近いうちに勉強会を企画しております。愛工舎様のこの先2030年に向けた取り組みは、非常にハードルが高いというご意見を早川社長からいただいておりますので、脱炭素経営に向けた中長期的な移行計画を作成し、継続的な支援を進めていきたいと思っております」(徳田氏)
「すでにカーボンニュートラルナビゲーターを利用されている事業者に向けて、2年目以降のフォローとして、十六銀行では脱炭素経営移行計画レビューというサービスをご用意しております。2030年に向けた温室効果ガス排出量の削減計画を策定し、その内容を愛工舎様と十六銀行で共有しながら、次の手を打っていくというもので、PDCAサイクルを回していくコンサルティングを行っています」(十六銀行 ソリューション営業部 飯田孝治氏)

十六銀行の脱炭素コンサルティング支援によって、愛工舎の温室効果ガスの削減に向けた本格的な取り組みが始まった。

担当支援機関からのひと言

十六銀行 ソリューション営業部
飯田孝治氏

カーボンニュートラルの取り組みは、事業者にとって非常に負担のかかる作業ですが、いざ始めてみると、製造プロセスの見直しや無駄なものを省くといったことで、業務改善に繋がる場合がございます。金融機関は、その過程を支援することで事業内容をより深く理解できるようになり、そこから新しいサービスの開発を進めたり、事業者に対して他のソリューション提供を行ったりできると考えております。十六銀行は、脱炭素経営やSDGs支援などのサステナビリティー分野の支援も、預金や融資といった既存のサービスと同様に捉えて、お客様の持続的な成長を支援していきたいと考えております。

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