売れない時代に売れる理由。販売低迷期の成功事例
「ツルハHD」節目に20倍の目標掲げる北海道発のドラッグストア
走りながら考える
北海道発祥の流通業が津軽海峡を渡り本州で成功するのは容易ではないだろう。ドラッグストア大手のツルハホールディングスが本州での展開を始めた87年当時は、まだ今ほど情報の流通が進んでいなかった。なにより土地勘のない道外の市場を把握するのは大変だっただろう。
ツルハは現在、グループで全国に1000店以上の店舗を持つ。だが、これまでの道程は順風満帆とはいかなかった。ツルハは87年に本州1号店となる店舗を東京・大田区に開業しているが、本格的な本州展開は東北地方からだ。
もちろん、現在の東北地方の店舗は北海道並みの収益力があるが、出店し始めた当初は赤字続き。当時証券アナリストからは、「東北の店舗はやめて、北海道だけでやった方がいいのではないか」などといわれたという。しかし、鶴羽社長は「3年待ってほしい」と耐えた。
鶴羽社長の哲学は「走りながら考える」だ。とにかく着手してだめならどんどん修正していく。そんなタイプの経営といえる。ツルハが現在1000店以上を展開し、ドラッグストアの大手の仲間入りを果たしたのも、そんな哲学があればこそ。ツルハはさかのぼること79年、北海道に5店しかないときに、「道内100店、売上高150億円構想」を打ち出したし、この構想の推進中、50店を達成し100店が見えた時点で「国内1000店構想」を打ち出した。
「節目節目で20倍の目標を掲げた」。一見外部からみると無謀とも思える構想も、走りながら考え、修正しながら、こなしてきた。肥沃な首都圏で展開を始めた時もそうだった。鶴羽樹社長は振り返る。「87年に東京の大田区に『六郷店』を開いたのですが、東京ではどこに店舗を出しても成功するのではないかという錯覚に陥ってしまう。北海道の者にとっては東京は人がいっぱいいるから、出せば売れると思ってしまった」。
首都圏の店舗網も、やはり赤字が続いた。思い切って不採算店舗をスクラップし損失も出したが、今では軌道に乗っている。しかし、それ以前に、首都圏進出を躊躇していたら、1000店からの店舗を展開する大手の仲間入りは実現していなかっただろう。夢と思い切りが奏功した。
M&Aの主導的立場に
鶴羽社長の人事に対する考え方も、「とにかく任せてみる。やらせてみる」が基本。やらせてだめなら、敗者復活戦に回ってもらう。しかし、「一回落ちた社員の方が強くなって戻ってくる」という。これが鶴羽流の経営哲学であり、人材教育だ。
国内1000店を達成した今、ツルハはどこに向かうのだろうか。実は現在、国内1万2000店、海外8000店構想を掲げている。今後30年くらいでというから、遠大な計画ともいえるが、計2万店の構想は節目で打ち出してきた20倍の理論だ。
海外で成功を収めるには、北海道で強力な地盤を築いて本州に進出したように、国内で強力な地盤を築く必要があるだろう。しかし、国内のドラッグストアは現在、成長神話が終わり、今後は厳しい再編の嵐が吹く可能性が高い。すでに中小のチェーンは合併・買収(M&A)の対象になり始めている。ツルハがこの局面を見越して、規模拡大を急いだのかどうかは定かではないが、現在は再編の主導的立場にいるのは確かだ。
鶴羽社長は「今後、ドラッグストアは小商圏に対応できるかどうかだ」とみる。少子高齢化が進み、郊外に大型店を構える店舗展開は主流ではなくなるという。例えば生活者に近づく、住宅街などに小型の店舗が主流になるのではないかとみている。
圧倒的な差別化策
ツルハではこれまで1店あたりが対象とする商圏人口は1万5000人を基本とし、この商圏人口内に1店を出すことを出店政策の基準としてきた。今後はさらに少ない商圏人口でも店舗の運営が成立する業態を開発しなければならない。
「例えば商圏人口5000人くらいで、住宅街の真ん中でも成立する業態」(鶴羽社長)が必要とみる。必然的に売り場面積も不動産コストとのかねあいから、500平方メートル前後の小型業態になるという。つまり、売上高が少なくてもコストをかけないで利益が出せる業態の開発が急務という訳だ。
商圏人口が狭まれば、扱う商品も変わってくる。もちろん、一般用医薬品(大衆薬)や調剤、化粧品、日用雑貨というドラッグストアの基本商品は外せないとみられる。だが、それに加えて、今まで扱いが少なかった食品なども積極的に扱い、近くのツルハに行けば、一通り日常必要な商品は買えるという商品政策の構築が必要になってくるとみられている。
ドラッグストアはこれまで、競うように駅前の一等地に出店してきた。不動産コストが高くても、それを上回るリターンがあったからだ。しかし、そんな出店政策も、駅前一等地に有力チェーンの店舗が集中、もはや駅前も宝の山ではない。今後は住宅地回帰、他チェーンとの圧倒的な差別化策が必要だ。
すでに、同社では今後のドラッグストア同士の競争激化を見込み、市場が漸減傾向をたどる大衆薬に代わって化粧品の強化策を打ち出し取り組んできた。例えば化粧品のスーパーバイザー(SV)を配置、このSVが各店を定期的に巡回することで、店舗の販売担当者の化粧品知識や販売技術のスキルアップ策をとってきた。化粧品もセルフ一辺倒ではなく、相談販売が必要になってくるとの読みだ。また食品の扱いを強化、現在は売上高比率を全体の3割程度にまで引き上げる方向だ。売上高がとれなくても利益率が高められるように、プライベートブランド(PB)の開発も強化しており、現在約12%だが、これを2割程度にまで引き上げる計画も進んでいる。今後は化粧品などもPBとして積極的に開発していく予定だ。
少子高齢化時代が本格化し、商圏が狭まれば商品やサービスのあり方も変わってくる。まさに「走りながら考える」。今進めている一見、脈絡のない取り組みも新フォーマット開発の力強いパーツになるに違いない。
一方、海外8000店構想は緒に着いたばかり。12年7月にタイに1号店を開業した。2、3年内に10店をまず出店する計画だ。鶴羽社長は今後の海外展開について「まずタイに力を入れる。中国はいろいろ話はあるが難しそうだ」としアセアン諸国で店舗を拡大したい意向を示す。北海道のドラッグストアから身を起こし、今や世界を視野に入れる。その底流には「まず始める。走りながら考える」経営があった。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ツルハホールディングス
- Webサイト
- 代表者
- 鶴羽樹社長
- 所在地
- 札幌市東区北24条東20丁目1-21
- Tel
- 011-783-2755
- 事業内容
- ドラッグストア展開
掲載日:2013年2月12日