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金型の製造技術を生かし、新たな事業展開に挑戦「株式会社エフ・エー・テック」

2023年 10月 19日

エフ・エー・テックの福井一史社長
エフ・エー・テックの福井一史社長

奈良県五條・吉野地域の産業拠点となっている工業団地「テクノパーク・なら」に急成長を遂げた金型メーカーがある。株式会社エフ・エー・テックだ。金型の設計・製造を強みとしており、量産用から精密金属部品用まで幅広く手掛けている。その金型をベースにプラスチックの成型事業を展開。医療用を中心に自動車部品などをメーカーに供給している。産業用ロボットを外販するビジネスも新たにスタート。経済産業省の「地域未来牽引企業」に選定され、将来の奈良県のものづくりを牽引する中核企業として期待されている。

勤務先が突然の倒産、同僚3人で起業

精密金型の設計・製造が事業の原点
精密金型の設計・製造が事業の原点

創業は2002年。崖っぷちからのスタートだった。

「忘れもしない3月。勤務していた会社が突然倒産してしまった。その3週間前に三男が生まれたばかり。住宅ローンもめいっぱい。身動きも取れず、同僚2人と『加工屋か何かをしようや』と、この会社を設立した」と社長の福井一史氏は振り返った。

創業メンバーは3人とも元サラリーマン。資金の余裕はなかったが、取引先だった会社がサポートしてくれた。その取引先が保証人となり、競売にかけられていた前の会社の機械を格安で入手。家賃5万円ほどの小さな倉庫が拠点となった。

福井氏は倒産した会社で金型の開発を担当していた。勤務先の倒産は、携帯電話にカメラを搭載するための部品金型の開発を終え、「さあ、これから」というタイミングだった。携帯電話の需要が大きく伸びていた時期。ストップしていた事業を起業した会社で再稼働させると、時流に乗って受注を伸ばした。「4月に創業し、8月の決算では約1億円の売り上げを計上した。翌年度の売り上げは3億円弱。五條でも有名なサクセスストーリーといわれた。それから先のことまでは分からなかったが…」と福井氏は笑った。

本社を「テクノパーク・なら」に移転したのは2007年。この工業団地に以前勤務していた会社があった。「いつかはまたここに」。創業メンバーと居酒屋で酒を酌み交わすと、そんな話をしていたそうだ。その夢は創業から5年で実現した。工場の敷地は約7000坪。従業員数は80人近くに増えた。

リーマンで窮地に プラスチック成型を事業化

金型や医療用製品はクリーンルーム内で製造される
金型や医療用製品はクリーンルーム内で製造される

だが、2008年のリーマンショックが経営を大きく揺るがした。当時、デジタルカメラの金型製造が売り上げの6割を占めていたが、翌年にはその8割がストップしてしまった。工場の取得などで金融機関に多額の借り入れがあった。返済の繰り延べを受けたが、倒産寸前まで追い込まれた。借入先から「葬式代」といわれた最後の融資でリストラを断行し、大きな危機を乗り越えた。しかし、従業員は半分近くまで減らさざるを得なかった。

厳しい経営環境の中、新たなマーケットの開拓にチャレンジ。以前から注目をしていた医療分野への参入を目指した。「当初は大手の医療系商社に営業をかけてもなかなかいい返事をもらえなかった。2年間通い詰めてようやく受注を獲得することができた」という。この挑戦が新たな成長の原動力となった。

医療事業に参入するのに当たっては、自らプラスチック成型で製品を製造できる体制を整えた。金型の設計・製造から製品の製造までワンストップで対応できるようになった。もともと工場には大きなクリーンルームがあり、精密金型の製造に活用していたが、安全性が求められる医療品の生産にも大いに役立った。

医療系の取引先を順調に増やし、主にウイルス検査用のキットやシャーレ、ピペットなど医療器材を製造。今では、金型を含めた医療分野の事業は売り上げの半分近くを占めている。医療品にとどまらず、自動車関連の部品の製造も受注。成型事業は大きな柱に成長した。

急成長から安定成長へ 若手人材の育成に着手

中小機構の支援を受け、若手の育成に取り組む
中小機構の支援を受け、若手の育成に取り組む

「新しいモノづくりにこだわりを持ち、技道精進を精神に、会社と共に成長し続ける」が経営理念の一つ。経営が厳しい状況下でも、大学や県の研究機関と連携した戦略的基盤技術高度化事業(サポイン事業)を活用し、技術の研鑽・新たな開発は怠らなかった。ものづくり補助金なども積極的に活用し、精密加工設備を積極的に導入することで、高品質の製品を製造。取引先の信頼を勝ち取っている。

一方で、「会社は急成長しているが、その成長に社員が追い付いていない」と福井氏。次代を担う若手社員の育成が大きな課題となっている。そこで中小機構のハンズオン支援を活用。2022年度から専門家の派遣を受け、若手リーダーの育成に本格的に着手している。

「各部署から15人ほどの若手社員を集め、育成プロジェクトをスタートさせた。売上目標や経営目標を達成するために何がしたらいいのか、若手社員たちに考えてもらった。今は第2段階に入っており、『これがやりたい』と手を挙げたメンバーに絞ってプロジェクトを実施している」。経営目標の達成に向けて若手自らが課題をみつけ、その課題を解決する。課題設定型の経営改善に取り組んでいる。

福井氏は「中小機構からの継続的支援を受けながらDXを進めたい」と意気込みをみせる。製造現場にカメラを導入。「見える化」による生産工程の効率化を模索している。「車でいうと、燃費のよくないスポーツカーで突っ走っていたが、これからは燃費のいいハイブリッド車に切り替えるイメージ。DXで効率化を進めていきたい」と、急成長から安定成長へのステップアップを図っている。

伸びる市場を注視、産業用ロボットを事業化

産業ロボットを自社でカスタマイズ。そのノウハウをビジネスに
産業ロボットを自社でカスタマイズ。そのノウハウをビジネスに

将来の人手不足に対応するために導入した産業用ロボットは、自社の金型の技術を使ってアタッチメントを開発し、自社でプログラムを構築した。単に汎用品を導入するだけでなく、自社の製造工程に適合するようカスタマイズしている。そのシステムはハンズオン支援に入っている中小機構の専門家も一目を置いている。

金型の設計・製造技術があればアタッチメントも自在に作り出すことができる。このノウハウを応用し、製造現場のニーズに合うようセッティングした産業用ロボットを外販する。「こうした細やかなサービスは大手企業にはできない。小回りの利くわれわれのような中小企業だからできる」と福井氏は胸を張った。

奈良県五條市にあるエフ・エー・テック本社
奈良県五條市にあるエフ・エー・テック本社

「将来伸びるマーケットは何か。いいネタを拾っている」。世の中の動きに機敏に反応し、先手を打って事業にチャレンジする福井氏の行動力が会社を牽引する。自動車の電動化を見越したバッテリーの部品や医療用に使うカテーテルの開発などにもチャレンジする。「なかなかうまくいかないことも多いが、その挑戦が新たな成長を生む」と自信の表情を浮かべていた。

企業データ

企業名
株式会社エフ・エー・テック
Webサイト
設立
2004年7月
資本金
8800万円
従業員数
120人
代表者
福井一史 氏
所在地
奈良県五條市住川町1373 テクノパーク・なら工業団地
Tel
0747-25-1140
事業内容
精密金型設計・製造、射出成型事業など