売れない時代に売れる理由。販売低迷期の成功事例

「ハニーズ」福島から世界をウォッチし、毎週40の新製品投入

「製造小売業(SPA)のビジネスモデルも、中国で日本国内の店舗別に仕分けをして直接配送する物流体制も、当社がいち早く導入した」と胸を張るのは福島県に本社を置くカジュアル衣料専門店のハニーズ社長の江尻義久氏だ。江尻氏は「衣料品作り、洋服の“よ”の字も分からない」なかで今のビジネスを始めたというが、今では国内822店舗(2013年1月末)、中国では約525店舗(同)も展開するカジュアル衣料専門店大手。とくに、中国に進出はしたけれど赤字続きという流通業が多いなかで、早くも出店直後から黒字化しており傑出した存在だ。若年層に手ごろな価格のファッション衣料を提供する同社の成長の秘密はどこにあるのだろうか。

ファッションビルに欠かせない存在に

カジュアル衣料専門店と一口にいっても多様な形態がある。ユニクロのようなベーシックな衣料品をSPA型で製造販売するところもあれば、しまむらのようにアパレル問屋から仕入れて販売するようなビジネスモデルもある。ハニーズは実に変化の早いファッション衣料をSPA型で短期間で製造、店頭に並べ販売する。数年前に外資の相次ぐ上陸で話題になった、いわばファストファッション型の業態だ。この業態は、変化の先取り、緻密な需要予測、機会損失や売れ残りリスクのヘッジといった、カジュアル衣料専門店のビジネスモデルとしてはより多くの困難なハードルを超えなければならない。

しかし、そんなハードルをものともせず、現在国内の店舗は800店超に上る。大型のショッピングセンター(SC)などには必ずといっていいほど同社の店舗が入っているし、総合スーパー(GMS)や「パルコ」などファッションビルにも欠くことの出来ない存在なのである。

800店超への先端のファッション衣料を開発し供給する仕組みはいったいどうなっているのか。ファッション衣料は、流行の変化のスピードが恐ろしく早い。このスピードについていく、あるいは先を行かないとファッション衣料専門店としての存在意義はないといっても過言ではない。

「毎週、毎週、新規に約40型を企画しています」と江尻社長は話す。毎週々これだけの新規商品が生み出されるわけで、年間に直すと膨大なファッション衣料が投入される。これだけの新商品が投入されるのだから、例えば街中で同じ服を着ている人同士が鉢合わせすることも滅多にないという。

日本国内の店舗は800店を超えた

開発から生産まで30—40日

ハニーズは本社が福島県のいわき市にある。しかし最先端のファッション情報を収集する仕組みは本社が福島県にあるというハンデを感じさせない。世界のコレクションを研究しているところからの情報提供や情報提供会社との契約、ファッション関係の雑誌も大量に購入し研究している。しかし何といっても、800店超の店舗から入る販売データと市中で流行しているファッションの情報がカギだ。

なにしろ全国に張り巡らされた800超という店舗の情報だから、大方トレンド衣料の傾向が収斂されてくる。街中の生きた情報をベースに商品を企画し中国の工場で生産する体制だ。

もちろん出す商品、出す商品が皆ヒットする訳ではない。「(トレンドを)当て続けるのは難しい」と江尻社長はいう。だが、開発から生産までわずか30—40日というリードタイムの短さが、リスクを軽減している。この期間ならば流行を反映し売れている商品の補充も迅速にできる。売れているうちに、補充が効く。旬を逃さず商品の販売機会の損失を極小化できるというわけだ。

国内の次は中国市場をターゲット

専門店には国内1000店限界説がある。確かにそうだ。ユニクロも国内は800店超になっているし、しまむらはすでに1000店を超えている。しまむらは問屋から仕入れているため、街中で同じ服を着た人に出くわす場面はそうないかもしれないが、生産品目の少ない衣料専門店の衣料は、バッティングする可能性がある。1000店ともなれば、主要な都市には2-3店はある計算で、自社競合も発生する。専門店、特に、トレンドのある衣料品を扱う専門店は1000店を一つの節目とみている経営者が多い。

ハニーズもすでに800店超。江尻社長は「国内は1000店を一つの節目とみている」という。そこでハニーズが着目したのがご他聞に漏れず中国だ。2006年に進出、以来7年目でなんと500店を超える店舗を構えているというから驚きだ。

中国でもファッションビルの中に欠かせない存在

同社は中国での展開にあたって3年で100店、10年で1000店構想を打ち出した。しかし、3年で100店はあっという間に達成、10年で1000店という目標も前倒しで達成される気配が濃厚なのだ。江尻社長は中国では年間200店程度ずつ出店する計画で、「再来年には国内の店舗数を上回るのではないか」と話す。さらに、巨大市場中国は国内と違って市場のポテンシャルは十分。「2000—3000店は作れるのではないか」とみる。

すでに中国事業の業績も国内と切り離して開示している。中国には大手小売業が大挙して進出しているが、中国事業だけの業績を切り離して公表している企業はほとんどないという。

それだけ中国の事業展開に自信があるという裏返しといえるが、ちなみに13年3月期の見通しは売上高が前期比43.4%増の105億円。経常利益は中国の景気減速で高級ブランドが値下げに踏み切っているといい、ハニーズの商品、価格帯と競合するようになっている。こうしたことなどから同13.7%減の7億3000万円となっている。しかし、それでも日系流通業が赤字を計上したり苦戦するなかで、売上高経常利益率7%を上げている。この数字をどうみるかだ。

生産国としては限界か?

江尻義久社長

中国は市場としてみた場合、潜在的な巨大市場ということになるが、生産国としては、転機を迎えている。当然ながら所得水準があがり人件費が上昇しているのだ。

多くの専門店がチャイナプラスワンに動いているが、ハニーズでも、人件費が安く、一般特恵関税制度が利用できるミャンマーでの生産に入っている。すでに自社工場を確保し1000人体制で稼働しているが、今後5年間で技術者を養成しながら5000人体制にまで拡大、生産コストを抑える計画だ。さらにバングラデシュやインドネシアからも輸入している。中国では主に流行の早い商品を生産し、それ以外はミャンマーなどに移管する方向だ。

国内1000店限界説をとる同社だが、年明け早々、次の成長の布石を打った。というのも低価格のパンツ専門店の展開に乗り出したのだ。パンツを主力とする専門店はほとんどない。ハニーズと違って婦人用ばかりでなく紳士や子供用もそろえる。SPA、物流などと、日本のカジュアル衣料の改革をリードしてきた同社の次の一手に目が離せない。

企業データ

企業名
株式会社ハニーズ
Webサイト
代表者
江尻義久社長
所在地
福島県いわき市鹿島町走熊字七本松27-1

掲載日:2013年3月 7日