中小企業応援士に聞く

社員が強み、農業を通じて環境守る【山本製作所(本社=山形県天童市、事業所=山形県東根市)代表取締役社長・山本丈実氏】

中小機構は令和元年度から中小企業・小規模事業者の活躍や地域の発展に貢献する全国各地の経営者や支援機関に「中小企業応援士」を委嘱している。どんな事業に取り組んでいるのか、応援士の横顔を紹介する。

2022年 11月14日

東根事業所に集合した山本製作所の社員
東根事業所に集合した山本製作所の社員

1.事業内容をおしえてください

山本丈実社長
山本丈実社長

1918年(大正7年)に蚕糸用桑切機の製造・販売で創業し、その後、脱穀機や穀物用乾燥機といった農業機械の開発・生産・販売を一貫して担ってきた。40年ほど前から精米機、30年ほど前から発泡スチロールを溶かして容積を小さくする機械や、ペットボトルのラベルを剥がす機械、プラスチックの材質を判別する装置「ぷらしる」など環境関連機器を手がけている機械メーカーである。

農機分野が売上高の約80%を占め、中でも穀物用の乾燥機が主力商品だ。また2008年に中国・蘇州に工場を開設し、中国と東南アジア向けに乾燥機を生産・販売する。

売上高は19年~21年12月期は約100億円で推移しており、コロナによる影響はなかった。ただ22年度は電子部品の入荷状況が厳しく、生産に影響が出て、22年12月期は前期比約10%減となる見通しだ。

2.強みは何でしょう

「買う気で作る」が生産現場のモットー
「買う気で作る」が生産現場のモットー

一番の強みは社員だ。とても真面目で、やろうと言ったことは協力してくれる。

新型コロナ感染が拡大している時期は、極力社員同士の接触を減らすため、建物間の移動を制限した。会議は原則オンラインとし、リモートワークも実施するなど、国や行政が推奨するコロナ対策を徹底して行った結果、社員のコロナ感染者は22年1月までゼロだった。社員一人一人が感染対策を実直に行ってくれたおかげで会社への影響を最小限にする事が出来た。

会社としての強みは、製品の構想から開発・生産・販売まで一貫して実施しているため、お客様がどのように製品を使っているのか把握できる点にある。修理やメンテナンス対応の際にはお客様からの感謝を肌で感じられ、社員のモチベーション向上にも繋がっている。

また、独自の社内制度として、公募制で社員が一人で世界一周旅行をする活動を実施している。旅行の目的をプレゼンしてもらい、その権利を勝ち取った社員は、帰国後に経験を全社員に報告するという活動だ。ここ数年はコロナ禍で実施していないが、2013年から18年まで6人が渡航した。

私自身が若い時からさまざまな国を訪れ、特に途上国を見る大切さを知ったため「必ず発展途上国をルートに入れること」を条件にして、約1カ月間で世界一周をする。航空券や燃油サーチャージ代、空港税は全額支給するほか、宿泊費補助・渡航保険代として1日1万円の日当を支給する。

例えば2013年に世界一周した社員は、ある時、国民総幸福量(GNH)ランキングなるものを知り、日本のランキングの低さに驚いたことをきっかけに「食の安心安全・地球環境の保全」こそが世界共通の幸福指標であることを確かめるため、ランキングを提唱したブータンとその上位国(タイ、イタリア、オーストリア、ノルウェー、スイス、米国など)を巡りながら、26日間かけて「真の幸福とは何かを見つける旅」をした。

野球場跡地(右)のほか、工場屋根(左)にも太陽光パネルを設置
野球場跡地(右)のほか、工場屋根(左)にも太陽光パネルを設置

環境意識やもったいない精神、節電、省エネの意識が非常に高いのも強みだ。最終的に埋め立てられるごみの量を1%に減らすことを目標に、ゴミを40種類に分別し、08年から現在まで連続して「ゼロエミッション」を達成している。社風として環境意識の高さがあり、社員も当たり前のこととして取り組んでくれている。

東日本大震災をきっかけに、敷地内の野球場があった場所に太陽光パネルを設置し、自社工場の使用電力のピーク値である500キロワットを発電できるようにした。また、工場内の気温が高いため、工場の屋根に太陽光パネルを乗せて空間を作れば直射日光が当たらず気温も下がるのではないかと考え実施したところ、気温が6℃ほど下がり、労働環境が改善された。現在は全体で1.9メガワットを発電しており、その発電電力は一般家庭520戸分にあたる。

一方、高校生が工場見学に来社した際「SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みについて教えてほしい」と言われてドキっとしたことがきっかけとなり、プロジェクトチームを編成してSDGsの勉強を始めた。これまでの取り組みがSDGsにマッチしていたため、まずは今やっていることを数値化してそれを達成しよう、達成できたら項目を増やそうと進めている。

「もったいないポイント」という仕組みも作った。二酸化炭素(CO2)を1キログラム削減したら1ポイントと換算し、ポイント数に応じて社会貢献に使用している。ポイント数は随時ホームページでも公開している。
(山本製作所SDGsサイトhttps://www.yamamoto-ss.co.jp/SDGs/

3.課題はありますか

少子高齢化に伴い今後、採用できる人数が減ってしまう可能性がある。いかにDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進し、生産性を向上させるか、人数が減っても事業規模をどのように維持していくかが課題だと考えている。

山形県工業技術センターの支援を受け、今年度からDX化に着手した。例えばコロナ禍に伴い、営業担当者がお客様とオンラインで商談活動をするようになり、生産性向上に繋がった。またOCR(光学文字認識)機能を活用して、FAXで受注した情報を自動でデータ化している。

手書きだった伝票をタブレットに入力することで、後でパソコンに打ち込んでいた作業をなくすなど、管理部門のDX化は進みつつある。大きな投資をせずにできることはあると考えており、今後は生産現場のIoT(モノのインターネット)化を進めていきたい。

4.将来をどう展望しますか

業界初のAI(人工知能)を搭載した穀物乾燥機
業界初のAI(人工知能)を搭載した穀物乾燥機

穀物用乾燥機に関しては、34年間トップシェアを維持し続けている。将来もこの地位を盤石にし、業界で勝ち残らなければいけないと考えている。

当社には「農業を守ることは地球を守ること」という理念がある。石油製品の使用量を減らすためにも、マテリアルリサイクルを促すための商品開発を進め、環境関連製品に力を入れたい。また従来の乾燥機は灯油を使うが、大規模農家向けに灯油をほとんど使わない乾燥システムを販売しており、今後もその製品の得意先を増やしていきたい。

事業分野ごとの売上高比率は今後、農機主体からソリューション事業、海外事業にシフトしていくことを想定している。ソリューション事業を拡大するためには、新製品の開発が必須であり、力を入れる方針だ。その上でCDEF(Customer=ユーザー、Dealer=ディーラー、Employee=従業員、Family=家族・協力会社)すべての人が満足することを通して、社会的な責任を果たしたい。

5. 経営者として大切にしていることは何ですか

プラスチックの材質を判別する「ぷらしる」
プラスチックの材質を判別する「ぷらしる」

会社が存続していくためには、地域との繋がりも大切だと思っている。地域のマラソン大会の給水ボランティアや、周辺地域の災害ボランティアに社員から有志を募り、参加するなど会社としても支援している。

また、当社が得意とする食育・環境教育の分野では、学校からの要望に応じて講師を務めるなど地域教育へも協力している。環境問題は小さい時から学ぶことが大事で、プラスチックの種類を選別できる自社製品「ぷらしる」を使って廃プラスチックを分別する事で、資源として循環させる大切さを伝えている。

6.中小企業応援士としての抱負を教えてください

私自身、中小企業大学校の経営管理者養成コースの受講経験があり、その研修がとても良かった。このため特に若手社員の育成や研修に活用するとともに、社外にも勧めている。それ以外にも中小機構は、オーダーメイド研修やさまざまな支援制度を備えており、こうした情報を関係先の企業に紹介していきたいと考えている。

企業データ

企業名
株式会社山本製作所
Webサイト
設立
1961年(昭和36年)8月
代表者
山本丈実 氏
所在地
事業所:〒999-3701 山形県東根市大字東根甲5800-1
Tel
0237-43-3411

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