2026年 4月 13日

艶金の墨勇志社長
艶金の墨勇志社長

岐阜県大垣市で衣料品の染色整理加工を展開する株式会社艶金(つやきん)は創業から130年以上の歴史を持つ老舗企業だ。国内の繊維産業の衰退で厳しい経営環境にさらされる中、新たな成長に向けてさまざまなチャレンジを続けている。生産現場の脱炭素化やDX、環境にやさしい衣料づくりに取り組む一方、2005年に商品化した「ロボットカバー」が生産現場のニーズをつかみ急成長。本業に次ぐ事業の柱に育っており、新たな顧客の開拓に力を入れている。

染色整理加工のノウハウ生かし商品化

産業用ロボットを汚れから守る「ロボットカバー」
産業用ロボットを汚れから守る「ロボットカバー」

「繊維産業の空洞化が進み、仕事が少なくなる中、営業で飛び込んだ商社に『何でもいいから仕事を回して』と、お願いしていたところ、アイデアをいただいた。縫製や裁断は専門外だったが、縫製のできる人材を雇って開発にチャレンジした」。こう語るのは代表取締役社長の墨勇志氏。商社を通じて開発したロボットカバーの試作品を大手自動車メーカーに納入すると、高い評価を受けたという。今では多くの自動車メーカーに広く利用されるようになった。

顧客の要望を受け、ロボットカバーの手先部分だけ交換できるタイプも製造している
顧客の要望を受け、ロボットカバーの手先部分だけ交換できるタイプも製造している

ロボットカバーは縦横に伸縮性があるニット素材を利用。難燃処理や帯電防止処理を施している。作業中に飛散する塗料ミストをカバーが吸収し、ロボットを保護する。墨氏によると、車体の塗装工程では塗料がロボットに付着するためメンテナンスが大変なうえ、間接部分から侵入したミストが電子部品に影響を与えることがあるのだという。ロボットにラップや包帯状の布を巻いたりして防いでいたが、装着の仕方によってロボットの動作に影響を及ぼすこともあった。着脱にも時間がかかり、大きな課題になっていた。商品化したロボットカバーは、下着を着せるように簡単に装着ができ、作業現場の効率性の向上にも大きく寄与している。

艶金の本業は繊維製品の染色整理加工。さまざまな繊維の製造工程の中で、取引先から預かった原反を指定された色に染め上げたり、肌触りのいい風合いに生地を変えたりする工程を受け持っている。特に伸縮性のあるニットの加工を得意としている。耐熱性や難燃性、撥水・撥油性など繊維に特殊な機能をつける加工技術も持っており、ロボットカバーには、その技術が生かされている。「取引先のつてをたどると、商品化に必要な素材が見つかる。そういうことが財産になっている」と墨氏は笑顔をみせた。

現在は、塗装用だけでなく、消防服につかわれる繊維を活用し、溶接などの高熱の現場で利用できるカバーや、油や冷却材などが飛散する現場で利用できるクーラント対応のカバーなど商品のラインアップを広げている。商品の製作はオーダーメードで対応。顧客のニーズに応じて、汚れやすいロボットの手先の部分だけ交換できるようカスタマイズするなどきめ細かいサービスを信条としている。

厳しい経営環境のもと 事業存続を決断

昭和天皇の行幸時に利用されたいすは今も大切に保管されている
昭和天皇の行幸時に利用されたいすは今も大切に保管されている

艶金の創業は明治時代にさかのぼる。1889年(明治22年)、墨氏の曽祖父にあたる墨宇吉が愛知県一宮市で「艶出し」という織物加工を手掛けたのが始まりだ。繊維産業の興隆とともに染色整理加工業を中心に事業を拡大。1946年(昭和21年)には、昭和天皇の行幸を賜ったこともあった。1980年代には大垣市に生産拠点を集約。最盛期の1990年ごろには10工場を稼働させていた。

墨氏が一族の経営する会社に入ったのは1992年のことだ。しかし、バブルの崩壊とともに国内繊維産業の空洞化が加速。それとともに急速に経営が悪化した。「工場は一つ閉鎖され、また一つ閉鎖され。あれよ、あれよという感じだった」と墨氏は振り返る。そして、2010年に当時の経営陣が繊維事業からの撤退を決断した。

当時、役員として経営の一翼を担っていた墨氏も、そこで大きな決断に踏み切る。子会社で展開していたニットの染色加工事業の存続だった。当時の経営陣は繊維事業から完全に撤退するシナリオを描いていた。だが、墨氏は「主力の織物が低迷する中、ニットは本業の織物ほどの落ち込みがなく、ぎりぎりで黒字を確保していた。経営陣はすべて撤退するシナリオを考えていたが、ここなら、やりようがあるのではないかと思った」という。親会社から完全に独立し、墨氏のもと新たな歩みを進めることになった。

「脱炭素経営」を宣言 業界で先進的に取り組む

染色加工の製造現場。脱炭素化に積極的に取り組んでいる。
染色加工の製造現場。脱炭素化に積極的に取り組んでいる。

独立後の艶金は「環境経営」に積極的に取り組む企業として注目を集める。

2019年には、二酸化炭素(CO2)排出量の現状を把握し、数値を公表。今後の野心的な削減目標と合わせて脱炭素経営を宣言した。2021年には温室効果ガス削減目標認証であるSBTを取得した。日本の染色整理会社としては初めてのことだ。

「環境経営」に取り組むきっかけをつくったのは、厳しい経営環境の中で取引先から依頼され、空いた倉庫で取引先の衣料品などを預かる事業を手掛けてからだ。

「倉庫には、海外で生産された衣料品がシーズンごと大量に倉庫に運び込まれ、シーズンが終わると大量の在庫品が残る。ときには『保管料よりも得なので、金を払うから捨ててほしい』と頼まれることもあった。そういう現実をみて矛盾を感じた。そんなことが未来永劫続くわけがないと思った」

繊維産業は環境負荷が大きい産業といわれている。艶金が展開する染色整理業も多くのエネルギーや水、化学薬品を使用する。ちょうどそのころ、環境負荷や途上国での低賃金労働などファッション産業をめぐるさまざまな問題点が社会的に表面化。自社が抱える環境課題に正面から向き合うべきだと考えるようになった。

のこり染の商品の数々
のこり染の商品の数々

そこで、まず取り組んだのが食品残渣を利用した染色技術の開発だった。岐阜県産業技術総合センターと連携し、ピーナッツの薄皮などを染料にする研究をスタート。そこから染料となる食品残渣を探し出し、「のこり染」という染色技術を編み出した。さらに、あずきや大豆、ワイン、コーヒーなどの食品残渣も活用し、12色をそろえた。「のこり染」を使用した生地に「KURAKIN」というブランド名を付け、バッグやベビーグッズなど幅広い商品を提案している。

一方、製造工程で廃棄処分になる生地の再利用にも取り組んでいる。染色前に生地に不具合が見つかったものや染色がうまくいかなかった生地を「retricot(リトリコ)」というアップサイクルブランドとして提案している。ブランドの生地は近隣の服飾系の高校や専門学校などにも無償で提供。卒業作品の製作などに役立ててもらっているそうだ。「将来アパレル業界に就職する人が多いと思うが、業界が抱える課題などを知っておくことは大事。生地を提供する際には、そういったことをお話させていただいている」と墨氏は話していた。

艶金では、親会社から独立する前の1980年代から木材を燃料にするバイオマスボイラーを導入し、工場のCO2削減に大きく貢献。環境経営の推進にも役立っている。「それを考えると、昔からそういうDNAを持っていたと思っている」としていた。

逆風を乗り越え、新たな市場を開拓

岐阜県大垣市にある艶金の本社
岐阜県大垣市にある艶金の本社

環境意識の高まりとともに、のこり染は大手アパレルメーカーをはじめ、多くの企業に注目され、コラボ商品の製作依頼が増えている。大阪・関西万博では、関西の大手飲料メーカーとアパレルメーカーとのコラボレーションで、コーヒーの絞りかすをもとに、のこり染の技術で染めたTシャツが販売された。また、これまで脱炭素の取り組みが高く評価され、ベビー・子供向けブランドを展開する大手アパレルメーカーから、バリューチェーン全体で脱炭素化を推進するモデル事業への参画を依頼され、実証に取り組むなど環境を基盤にした事業の幅が広がりつつある。

「繊維産業の今のビジネスモデルが正解ではない、ということが徐々に認知され、ようやくここ2、3年変わってきた気がしている。だが、それが自社にどれくらいのメリットが戻ってくるかは見通せない」と墨氏は語った。

国内の繊維産業を取り巻く環境は厳しい状況が続いている。本業の染色加工のビジネスの大きな成長が見込めない中、ロボットカバー事業は新たな成長の原動力となっている。今後は塗装向けのカバーに加え、耐熱・難燃カバーの市場開拓にも力を入れる。ロボットカバーの販売では、最初に相談を持ちかけてくれた商社と業務提携し、その商社を販売の窓口にしている。商社からは「どんどん拡販するので、がんばってほしい」と力強い言葉をもらった。

自社の開発力や販売力をつけるため、中小機構のハンズオン支援の活用を始めた。「販売に関しては、ずっと受け身のところがあったが、直接当社にくる問い合わせや展示会の出展などに能動的に対応できるようにしたい。当社から顧客を商社に紹介することで双方にメリットが生まれる」と墨氏は考えている。新規事業として一つ一つ巻いた種が少しずつ芽生え、艶金の新たな歴史を紡いでいる。

企業データ

企業名
株式会社艶金
設立
1956年8月
資本金
9000万円
従業員数
134人
代表者
墨勇志 氏
所在地
岐阜県大垣市十六町字高畑1050
Tel
0584-92-1821
事業内容
ファッション衣料向けニット(丸編、トリコット)、織物などの染色整理加工、ファッション衣料向け生地企画製造販売、布地産業資材、雑貨小物等縫製品企画製造販売