起業マニュアル

起業までに必要なタスク(飲食業)

飲食業では、起業までに必要な主なタスクとして「立地調査・選定」「内装工事・設備導入」「メニュー構成の検討」「許認可申請」「宣伝広告・プロモーション」があります。ここでは、それぞれのポイントを紹介します。

立地調査・選定

「飲食は立地」と言われます。なぜなら、小売業やサービス業と同様に、立地の選定が集客に影響を与え、最終的な売上を決定づけるためです。しかし、一等地と呼ばれる人通りの多い駅前などは家賃が高額で、競合店もひしめいています。はじめて飲食店を経営する場合、いきなり一等地へ出店するのは現実的ではありません。

重要なのは、皆にとっての一等地を目指すのではなく、「自店にとっての一等地」を見つけ出すことです。たとえば、一般には飲食に向かないとされている、駅からはなれた住宅街や郊外でも、高齢者や小さな子供のいるファミリー層をターゲットとして販促活動を集中し、繁盛している飲食店があります。
立地と対象顧客は、コインの表と裏の関係にあり、立地が決まれば対象顧客が決まります。自店のコンセプトに基づいて対象顧客を絞り込み、自店にとって望ましい立地を選定することが大切です。

また、ある飲食店の経営者は、自店の立地を決めるにあたり、不動産会社から話を聞くだけでなく、「平日・週末の数日間、合計20時間以上も物件の前に立ちつづけ、周辺の人の流れを自分の目で見て、最終決定した」そうです。一度立地を選定したら、簡単に変更することはできません。慎重に検討し、勝負に出ると良いでしょう

内装工事・設備導入

立地を選定したら、次は内装工事や設備導入です。内装工事とは、物件内部を自分の実現したいレイアウトやデザインに仕上げることで、設備導入とは、そこに必要な設備を配置することです。

内装工事にあたっては、内装業者によって強みや実績が異なるため、自身の開業する業態を得意とする内装業者(カフェであればカフェを得意とする内装業者)を選ぶことが大切です。WEB検索から探して連絡をとる方法もありますが、「信頼できる飲食店経営者の知人に紹介してもらった」「自身の理想に近い内装の飲食店経営者を直接尋ね、内装業者を紹介してもらった」という事例もあります。

こうして連絡を取った内装業者に、実際に物件を見てもらいます。自身の事業コンセプトや店舗イメージを詳細に伝え、図面と見積書を依頼します。この際、複数の内装業者に見積もりを依頼することが重要です。相見積もりを取ることによって内装業者間に競争意識が生まれ、より良い提案を、よりリーズナブルな価格で獲得できるためです。

その後、各担当者の提案内容と費用見積もりを比較し、バランスの良い、自身の気に入った内装業者と契約を結びます。契約後、通常は1週間前後で工事が始まり、店舗の規模にもよりますが、1ヶ月前後で内装工事が完了します。

また、物件の状態により、スケルトン物件と居抜き物件とがあります。スケルトン物件とは、以前の借主が退去時に設備等をすべて撤去し、文字通り建物の骨組みだけになっている物件を指します。居抜き物件とは、以前の借主が内装や設備をそのまま残している物件を指します。
スケルトン物件では、自由に店舗を作ることができる反面、居抜き物件に比べて内装工事費用は高額になります。居抜き物件では、スケルトン物件に比べて内装工事費用を抑えられる反面、既存の内装や設備に店舗づくりが制約されます。どちらが望ましいかは、予算や居抜き物件の状態を踏まえた総合的判断になります。

設備導入にあたっては、予算に応じて新品の購入と中古の活用を検討します。厨房機器は中古市場が充実しており、必要な機器のほとんどを中古で揃えることができます。できるだけ予算を抑えたい場合は、WEB検索で中古の厨房機器販売サイトやオークションサイトを確認し、機器の状態と価格を比較して購入するのが良いでしょう。ただし、中古品は、微妙に寸法が合わない、故障しやすいなどの欠点もあります。業務用冷蔵庫やコンロなど、故障してしまったら業務が止まってしまうような設備に関しては、新品を購入するのも良いでしょう。

メニュー構成の検討

メニュー構成は売上や利益を決定づける大きな要因の一つであり、自店のコンセプトを顧客に伝える重要なツールです。単純に種類と価格を並べたメニューでは、何がお店の看板商品なのか分かりませんし、経営者の思いも伝わりません。最適なメニュー構成を追究していくことは、自店の顧客満足と利益の両立を目指すことでもあるのです。

はじめてメニュー構成を考えるにあたって有効なのは、同業態の人気店のメニューを研究することです。全体のメニュー数はどの位か、カテゴリー(イタリア料理店であれば「サラダ」「パスタ」「ピザ」「デザート」など)はどのようになっているか、価格の幅はどの位かなど、複数のお店に実際に足を運んで確かめることで、自店のメニュー・イメージを磨いていきます。

また、料理や飲料の構成だけでなく、どのようにしてお店のコンセプトを伝えているのかも参考にしましょう。ある飲食店経営者は「メニューブックは自店のガイドブック」と考え、経営者の思いや考え、おもてなしの精神、開店の経緯、食材のこだわり、スタッフの紹介などを手書きの文やイラスト、写真を盛り込んで作成しています。自店の価値、他店とは異なる魅力を最大限に伝えるうえでも、メニューは重要な役割を果たします。

はじめて飲食店を開業する場合は、思い切ってメニュー数を絞り込むことも大切です。メニューの選択肢が多いほど良いことのように思えますが、その分だけ食材と仕込みの時間が増えるだけでなく、自店のコンセプトがぼやけてしまう危険もあります。種類の多さという土俵での勝負は、経営資源の豊富な大手の飲食チェーンに敵いません。まずは「このお店といえばこの料理」と顧客に思ってもらえるよう、開店当初は自信のあるメニューに絞り込み、売りたい料理を訴求していくことが重要です。

許可申請

飲食店の開業に当たり、忘れてはならないのは必要な許認可の申請です。許認可の申請・取得が後回しになり、オープン予定日が延期、余計な費用がかかってしまったというケースも実際にあります。余裕を持って準備を行い、早目の取得を心掛けましょう。

宣伝広告・プロモーション

いよいよ開店です。顧客にお店の存在を知ってもらい、自慢の一品を味わってもらうために、オープンの前後には集客販促を行うことが一般的です。

ただし、矛盾するようですが、あえてオープン前後の集客販促を行わない、という選択肢もあります。開店直後はオペレーションが定まらず、接客や料理のクオリティも不安定になりがちです。せっかくたくさんの顧客が来店しても、サービスが行き届かない状態で悪い印象を与えてしまい、再来店してもらえないようでは本末転倒です。まずは自然に来店してくださった顧客一人ひとりを大切にもてなし、ある程度接客とオペレーションに習熟してから集客販促を行うことも良いでしょう。