起業マニュアル
パート・アルバイトの有効活用策
パート・アルバイト活用のメリット
「"人手"不足はパートやアルバイトで解消できるが、"人材"不足はパートやアルバイトでは無理だ」とお考えの経営者の方が少なくありません。パートやアルバイトのなかには、責任感に乏しく、勤務形態も不規則で、そのうえすぐに辞めてしまうケースがあるため、社員のように責任ある仕事を任せることは難しいと考えがちです。
だからといって何も対策を練らないまま、「仕事を任せることができない」と決めつけることは少々早計です。パート・アルバイトにも優秀な人材はおり、明確な条件の下でしかるべき処遇がされれば、それを大きな励みとする人も少なくありません。自社の状況や業務に合わせて工夫をし、新しいマネジメントシステムをつくれば、パート・アルバイトでも十分に生産性を向上させることができますし、場合によっては社員1人を雇うよりも安い経費で社員と同等もしくはそれ以上の戦力を得ることができるのです。
少子高齢化による労働力不足を背景に、平成20年4月からは「改正パートタイム労働法」も施行され、小売・外食・流通各社でもパートの待遇改善、正社員化の動きが活発になっています。パート・アルバイト活用のメリットについて、再度検討してみましょう。
パート・アルバイト活用上の問題点
パート・アルバイトを活用するうえでの問題点について、会社側とパート・アルバイト側の双方からみていきます。
パート・アルバイトに対する会社の姿勢
パート・アルバイトの入れ替わりが激しいということは、会社にとっては大きな人件費ロスです。募集をかけて面接の結果採用し、そして仕事を覚えてもらうための研修...これだけの費用と時間がかかっているわけですから、こうしたコストを無駄にしないためにも、たんに「パート・アルバイト運が悪い」と片付けないで、
「パート・アルバイトに対する会社の姿勢」に問題はないかを考えてみる
ことが重要です。
仮に「パート・アルバイトだから」とまるで使い捨てのように接していたら、彼らは一体どんな気持ちがするでしょう。パート・アルバイトの側からすれば、会社の接し方を見て働くスタンスを決めるのは当然のことです。また、個々の社員によってパート・アルバイトへの接し方にばらつきがあるのも問題です。会社の方針として、パート・アルバイトを大事に育成し、戦力化、定着率のアップを全社員にも徹底することが重要です。
パート・アルバイトの仕事に対する姿勢への対応
いくら会社が「パート・アルバイトを戦力に!」と考えていても、パート・アルバイトの仕事への取り組み姿勢には個人差があります。家族がいるから空いている時間を利用して働きたい人、お小遣い稼ぎ感覚の人、本当は正社員を希望しているのに年齢制限等でパートでしか採用されなかった人、などさまざまです。
パート・アルバイトは、大別して次の3つのタイプに分類できるといわれます。
- 業務に対する取り組み姿勢が積極的で、しかも自分の能力をいかして仕事をし、能力に見合った収入を求める人材
- 業務に対する取り組み姿勢が消極的で、指示されたこと以外はやろうとしない。
また、比較的楽な仕事を、自分の働きたい時間数と時間帯で働いて、家計を補助する程度の一定の収入があればよいと考えている人材 - 自分の都合優先で動き、会社に何も貢献しない人材
1.のタイプの優秀な人材に関しては、アルバイトの取りまとめ(リーダー役)を任せるなど、レベルの高い仕事を与えましょう。能力主義の評価制度を導入してモチベーションアップにつなげ、同時にアルバイト全体のレベルアップも図ります。また、ゆくゆくは正社員になれるという将来像をみせるのも有効です。
2.のタイプの人材には、達成できる水準の業務をまず与えて、小さな成功体験を積んでもらうことが必要です。さらに業務への貢献度を褒めてあげ、自社にとってなくてはならない人材であることを本人にも認識させましょう。そのうえで、業務のやり方を工夫すればもっと成果が出ることを教え、実際に成果を出す手助けをします。そうすることで、主体的に仕事に関われば評価もされるし仕事も面白くなることに気づいてもらうのです。好ましい体験の蓄積によって態度を変えることは十分可能です。
3.のタイプの人材に対しては、退職してしまうことも覚悟のうえで、厳しく教育していく必要があります。過去の体験を詳しくヒアリングすることで、どうしてそのような価値観をもつに至ったのかが理解でき、指導の糸口がみえてくる場合もあります。社会経験の少ないパート・アルバイトであれば、なぜ会社に貢献すべきなのかを膝をつめて話をし、態度を変えさせる努力も必要です。
問題解決の視点
パート・アルバイトの戦力化を図るための会社側の対応は次のようなことが考えられます。
パート・アルバイトと一緒に仕事をする正社員への教育
パート・アルバイトへの教育はもちろん大事ですが、彼らと一緒に仕事をする正社員への教育もたいへん重要です。会社がいくら「パート・アルバイトの戦力化!」と声をあげても、現場で彼らを指導管理する正社員の協力なくして先には進まないからです。会社は正社員に対して、場合によってはベテランのパートスタッフに対しても、協力が必要だという説明を十分にして基盤を固めます。
新人のパート・アルバイトが働きやすい環境で仕事をつづけられることを第一に考え、現場の正社員とともに指導管理体制を作っていくことが重要です。
パート・アルバイトにも朝礼をして「情報」を与える
パート・アルバイトには、「朝礼」をする習慣のない企業が多いようです。しかし、パート・アルバイトにも社員同様「朝礼」を実施することで、次のようなメリットが生まれると考えられます。
- 企業側から「情報」を与えることで、パート・アルバイトの間に企業に対する親しみの感情が芽生え、協力的になる
- 企業側からパート・アルバイトに対しての「期待」「要望」を伝えやすくなる
- 同僚たちに対する「仲間意識」が芽生え、コミュニケーションが活発になり、職場が明るくなる
- 1日の始めに「今日の予定および目標」を伝えることで、その日の仕事の「目標」を理解しながらその達成に向けて意欲的に業務に取り組めるようになる
- 前日の職場の様子や仕事上の変化を知らずにいる半日勤務・隔日勤務などのパート・アルバイトに対してフォローができる
「朝礼」で伝える「情報」は、
- 前日の反省や注意事項
- 今日の業務の予定や目標
- 仕事の進め方へのアドバイス
- 今週のおおまかな予定
といった身近な「職場の情報」で十分です。パート・アルバイトは、短時間勤務や出勤日が変則的な場合が多いので、こまめに「情報」を伝達するよう気をつけないと、仕事上の些細な変化についていくことができなくなります。「前日の様子」や「ちょっとした変化」などをこまめに伝達することが重要です。
個別にミーティングをする
パート・アルバイトのなかにも、業務改善の方法を考えていたり、もっと自分をいかしたいと考えている意欲的な人もいます。そのような人達の「意欲」をいかし、ますます頑張ってもらうためには「個別のミーティング」を実施するのが有効です。
個別のミーティングでは、「朝礼」のときよりも一歩進んで、
- より具体的な課のリーダーの方針
- 運営の方法
といった、特別の「情報」を与えるとよいでしょう。そのことによって、彼らは「社員でない自分も会社に期待されているのだからそれに応えるように頑張ろう」と、より協力的になるでしょう。
また、一方的に指示を与えたり、話をするのではなく、パート・アルバイトの意見を聞くような形で話を進めることにより「頼りにされている」という気持ちが芽生え、さらに積極的にリーダーシップを発揮しながら、業務の改善やほかのパートの教育などに取り組んでくれることでしょう。
パート・アルバイトにももたせたい「プロ意識」
パート・アルバイトのなかには、これまで「社会人」としての教育を受けたことがなく、「組織で働く際にもつべき意識」を知らずにいる人たちもいます。このような人たちは、いつまでたっても「組織の一員」という意識が芽生えず、「お客様」気分で働きに来るといった状況から脱皮できません。
したがって、パート・アルバイトに対しては新入社員に対するのと同様に、「組織で働く社会人としてのプロ意識」を植え付ける必要があります。最低限教えたいこととしては、次の5つがあげられます。
パート・アルバイトの「評価システム」
パート・アルバイトに対しても、画一的な処遇をするのではなく、能力や仕事の成果を処遇に反映させるための「評価システム」を設ける必要があります。次に評価システムについて説明します。
(1)評価内容については自社に合わせて作る必要があり、一般的には次のようなものになるとされます。
(2)これらの評価項目に対して5段階程度の評価基準を定め、それにしたがって評価していきます。評価結果は、評価項目ごとに合計点を出して表します。
(3)(2)で求めた合計点をもとに、さらに4~5段階ぐらいに分類します。たとえば、
A:46点以上
B:45~36点
C:35~20点
D:19点以下
というように評価します。あるいは、Aは全体の5%、Bは10%というように、「制限分布法」を用いて評価分けをすることもあります。
(4)A~Dの評価段階ごとに「能力給」を定めて処遇に差をつけます。
(5)この評価結果は、「資格制度」に用いるほか「正社員へのキャリアパスの設計」に使うこともできます。
パート・アルバイトへの「資格制度」導入事例
パート・アルバイトに対しても、勤務日数や1日の勤務時間、出勤率、業績評価などをもとに資格認定を行い、その資格を「時給」や「手当」に反映させる「資格制度」を適用する企業が増加しています。たとえば次のような制度が考えられます。
■制度内容:
パート・アルバイトであっても、能力ある者には「主任」などのポストを与え、正社員なみの仕事を担当させる
■資格の種類と基準:
資格1……1日6時間勤務/月間勤務日数22日
さらに仕事の内容、経験、出勤率を考慮し、S級・1級・2級に区分
資格2……1日2時間以上/月間勤務日数8日以上
補充や単純作業を担当する。毎年2月に昇格試験の受験可
■優遇処置:
資格1のS級となった場合
- 主任やチーフになることができる資格を取得
- 手当が月6000円付加される
- 賞与がこれまでの2カ月分から3カ月分に増える
- 退職慰労金(5年で20万円、以降2年ごとに2万円ずつ)を支給
正社員への登用
上記パート・アルバイトのなかで、継続的に業績をあげる人材の場合には正社員としての採用を検討する。
昇給や昇格といった具体的な目標、仕事への責任感などをもたせることができれば、パート・アルバイトでも十分な戦力としての働きをみせてくれるものです。こうした施策を検討してみてはいかがでしょうか。
最終内容確認 2018年2月
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