業種別開業ガイド
和食レストラン
2024年 10月 25日
※ここでは和食をメインとし、ファミリーレストラン(FR)に代表される洋食のレストランのような店舗スタイル及びシステムで営業している飲食店を「和食レストラン」と呼ぶ。
トレンド
和食レストランは、日本文化の象徴として国内外で人気を誇り、さまざまな形で進化し続けている。市場全体の成熟とともに、健康志向や持続可能な食材を取り入れる動きが加速しており、さらなる多様化が期待される。また、高齢社会においてニーズは根強いのが特徴だ。
(1)健康志向と植物由来食品
現代の消費者は、食の健康面に対する意識が高まっており、和食レストランではこれに応える形で低カロリー・低糖質メニューや、植物由来の食材を使ったメニューを提供する店舗が増加している。特に、豆腐や野菜を中心とした料理は、和食の伝統的な美徳である健康性を維持しつつ、ヴィーガン(完全菜食主義者)やベジタリアンにも対応できるため、国内外の幅広い層から支持されている。
(2)発酵食品への回帰
従来から日常的に食生活に根ざしており、当たり前のように口にしている発酵食品(味噌、漬物、納豆など)が近年になり改めて世界的にも注目されている。和食系の店舗全般で、これらを用いたメニューの拡充も見られ、その消化促進や免疫力向上の効果は科学的にもクローズアップされて、健康志向の消費者にとって大きな魅力となっている。
(3)食べ放題メニューのリバイバル
和食系ファミリーレストランの新しいトレンドとして、食べ放題の形式が再び人気を集めているが、その背景には食材の質と提供方法の進化が大きく影響している。従来の「安かろう、まずかろう」というイメージから脱却し、家族連れや大人数の利用客をターゲットに、定額で幅広いメニューを楽しめるコストパフォーマンスの高いサービスが提供されている。寿司、しゃぶしゃぶ、天ぷらなどの定番料理に加え、野菜中心のヘルシーなメニューも増え、健康志向の消費者にも対応している。
これはデジタルツールの発展により、食材の使用量や顧客の好み、消費傾向が細かくデータ化されるようになったことも大きな要因だ。これにより、無駄のない食材管理が可能となり、効率的で満足度の高い食べ放題メニューの構成が実現している。このように、食べ放題は大量消費の形式から、データ活用を基にした無駄のない運営と多様な顧客ニーズに応える新しい食事体験へと進化している。
(4)1名様への対応強化
高齢単身者も増加し、「お一人様文化」が定着しつつあることを背景に、最近では一人用のカウンター席や半個室のようなプライベート空間が設置され、一人でも快適に食事ができる環境が整備されている。また、一人でも注文しやすいセットメニュー、トッピングやソースのカスタマイズが可能なメニューが増えている。顧客の多様なニーズに対応する工夫がなされており、より広い顧客層を取り込むための戦略として、現代の和食レストランにおいて重要なトレンドとなっている。
ビジネスマンや、ちょっとした休憩に和食を楽しみたいという人々のニーズにも応える形となり、ファミリーレストランと言われる業態でも、ファミリーという名称とは裏腹に一人客にとっても利用しやすい存在となっている。従来の「家族やグループで楽しむ場所」というイメージが変化しつつある。なお、近年のオーダーシステムの省スペース化や使いやすさが、この傾向に拍車をかけている。
近年の和食レストラン事情
和食レストラン業界は、変化し続ける社会状況や消費者のニーズに対応しながら、今なお大きな成長の可能性を秘めている。特に、新型コロナウイルスの影響を受けた外食市場では、従来の店内での食事スタイルに加えて、テイクアウトやデリバリーの需要が急速に広がった。和食レストランもこの変化に対応し、特に弁当やお持ち帰りの料理が新たな収益源として定着しつつある。家庭で手軽に楽しめる本格的な和食の提供は、忙しい現代のライフスタイルにマッチし、外食を控える時期にも高い需要を維持している。こうした流れは今後も続くと予想され、開業初期から幅広い顧客層にアプローチできる戦略として活用できる。
また、和食レストランにおける地産地消の取り組みは、地域の魅力を最大限に引き出し、経営の安定にも寄与している。新鮮な地元産の食材を使用することで、季節感を重視した和食本来の特徴を活かしつつ、消費者に安全で高品質な料理を提供できる。地元の農家や漁師との協力により、他店との差別化が図れると同時に、輸送コストや食材費を削減することで、経営の効率化にもつながる。特に、環境問題やサステナビリティが重視される現代においては、地産地消の取り組みが消費者にとっても大きな魅力となる。ローカルな食材を活かした独自のメニューを提供することで、地域に根ざしたファン層を築くことが可能だ。
さらに、近年のデジタルテクノロジーの活用は、和食レストランにとって相性もよく大きなチャンスを提供している。特に、調理機器の自動化やモバイルオーダーシステムの導入により、少人数でもスムーズなオペレーションを実現できる体制が整いつつある。また、デジタルツールを活用することで、顧客がスマートフォンから直接注文したり、決済を行ったりすることが可能となり、顧客の利便性向上にもつながる。このような施策は席数が多く、もともと多くの人手が必要であった和食レストランでの実施が非常に効果的であることを認識するべきで、開業当初より設計しておくべきであろう。
開業のステップ
和食レストランに役立つ資格や許可
和食レストランを開業するにあたっては、いくつかの法的な届出が必要であり、取得しておくと有効な資格もある。
(1)飲食店営業許可
営業開始前に「飲食店営業許可」を取得する必要がある。そのためには、店舗が食品衛生法の基準を満たしていることが確認され、申請時には図面などの提出も義務となるため、内装工事前に確実に相談に行くべきである。
(2)食品衛生責任者の資格
飲食店を営業するためには、食品衛生責任者を1名以上配置する必要があり、この資格は、数時間の講習を受けることで取得可能。
(3)防火管理者の選任
大人数の収容が可能なため、消防署が実施する講習を受けて防火管理者の資格を取得し、選任する必要がある。
これらの手続きは、開業予定の地域や業態によっても多少異なる場合があるため、具体的な手続きについては事前に地元の保健所や消防署に確認するべき。
(4)サービスを向上させるための資格
幅広い日本食への知識を持つことが何よりも大切だが、特化したメニューなどで差別化するためにも限定的な分野に特化した資格を取得することも有効である。
- サービス接遇検定
- フグ調理師免許
- 利き酒師
- 発酵食品マイスター など
必要なスキル
和食レストランの運営には、多様な顧客層に対応するため、基本的な和食の常識や食文化に対する理解が大切である。特に若い世代のスタッフには、このような知識を意識して教育し、高齢者が多く来店する状況にも対応できるようにすることが重要だ。大きな規模となる和食レストランでは、配膳ロボットを導入しても、ある程度のスタッフ数を確保する必要があり、シフト作成や労務管理が複雑化する。これを管理する能力が必要である。
さらに、和食における薬味や調味料に関する知識は重要で、顧客の好みに応じて細かいリクエストに対応する柔軟性が求められる。このため、調理師や補助スタッフの育成が特に重要となる。
また、近隣住民の会合や親戚の集まりなど、団体利用が頻繁に行われることもあり、席の配置や敬語の使い方など、ビジネスマナーにも近しい接客スキルが求められる。 幹事の方に寄り添った丁寧なケアが顧客の満足度を高め、リピーター獲得につながるために、それなりの経験があることは非常に重要である。
食材の仕入れは、大手の業務用食材だけではなく、近隣の生産者との関係構築によって、地産地消の達成や鮮度の保持ができることから、コミュニケーションや交渉の能力があればなお良い。
開業資金の一例
ここ数年の和食レストランの開業時の内装はローコスト化が徹底され、そのノウハウも蓄積されてきている。一方で、建築材料費の値上がりは避けられない。また、一品料理専門店などとは違い、様々な調理方法をカバーし、ある程度規模を持って経営することが望まれることから、厨房機器、調理道具の費用はコスト高となる。
試算の前提条件:郊外ロードサイドに敷地面積350坪、店舗面積80坪、席数100席のファミリーレストラン型和食レストラン
売上計画と損益イメージ
初年度は、宣伝や初期投資、教育にかかるコストがかかるため、黒字になるまで一定時間が必要。また、店舗規模が大きいため、荒天での休業など不測の事態があった際は損失額が大きくなるケースが多く、運転資金に十分にゆとりを持つべき。この試算では、人件費が高騰している近年の数値と比べ、低く抑えられている。これは、配膳ロボットや会計システムの導入により省人化が進み、人件費がシステム利用料やロボットなどの保守費用(本表では雑費に含まれる)に置き換わっていることに起因している。
補助金・助成金について
和食レストランの開業に際して、地域や業態によって利用できる補助金や助成金が多数存在する。特に、IT化補助金や地方創生支援金など、デジタル化や地域活性化を目指す事業者には手厚い支援が提供されている。
(1)IT導入補助金
中小企業を対象とした IT導入補助金は、POSシステムやモバイルオーダーシステムの導入に使える補助金で、利用条件により補助率や上限が変わるが、大きな支援を受けられることもある。この補助金は、省人化やデジタル化を進める和食レストランの効率化に大きく寄与する。
(2)小規模事業者持続化補助金
販路拡大や新たなメニュー開発を行う小規模事業者には、持続化補助金が支給されるケースもある。この補助金は、通常枠で最大50万円の補助が受けられ、店舗の広告宣伝費や新設備の導入に利用可能。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)