業種別開業ガイド
コイン洗車場
2024年 5月 8日
トレンド
コロナ禍には第三者接触を避けるため、移動手段が公共交通機関からマイカーにシフトした。自動車検査登録情報協会のデータによると、自動車の保有台数は年々増え続けている。
車は単なる移動手段にとどまらない。1人の時間を満喫するサードプレイス(第3の居場所)として利用したり、自分の個性やファッションの1つとして車を選んだりと、保有目的はさまざまだ。コロナ禍を経て、自分の時間や趣味として車を楽しむとともに、洗車をこまめに行うようになった。全国自動車用品工業会が発表した洗車に関するアンケートでは、約3割の人がコロナ禍で洗車の回数が増えたと回答している。
日本自動車連盟(JAF)の調査では、洗車が好きな人は42.1%という結果が出た。年齢別に見ると、洗車好きは24歳以下で60.6%と最多だが、35歳以上で好きと嫌いが逆転している。
20歳代は自分の車を初めて持つ人も多く、時間をかけて手洗いする傾向のようだ。35歳以上は人生ステージの変化によって自分の時間が少なくなり、洗車方法にも影響していることが分かった。
近年は新車購入時にコーティング施工されていることが多く、洗車機だとコーティングが剥がれ傷が付く懸念があり、年齢問わず機械での洗車には抵抗があるようだ。民間の調査では、回答した人の半数以上が「自分で洗車を行う」との結果も出ている。時間がない中で、できれば手洗いをしたいが洗車機に頼っている人も少なくない。
そのようなニーズを受け、商業施設の駐車場で手洗い洗車の代行サービスが登場している。買い物の間にカークリーニングのプロが丁寧に洗車をしてくれるサービスで、手洗いと時短がかなう。さらに、水を使用しないエコ洗車(節水、節電、排水ゼロ、天然成分100%の液剤)のサービスを始めた企業もあり注目されている。
今後コイン洗車場が選ばれるには、ブラシレス洗車機など車や環境に優しい機器を導入して、洗車機の先入観を払拭することが求められる。また、時間を有効活用できるサービスを提案して、話題性を持たせることも重要だ。
例えば、コインランドリーを併設して、洗濯を待っている間に洗車をするという時間制セルフ洗車場が出てきている。他には、24時間オープンのコイン洗車場をカルチャースポットとして、アメリカ雑貨やアパレル、飲食、車両展示販売などイベントを開催するところもある。
洗車を楽しく、効率的にできるようなサービスをつくることが、事業成功のポイントとなりそうだ。
近年のコイン洗車場事情
物価高やSDGs(持続可能な開発目標)の影響から、物を大切に長く使うという意識が定着しつつある。日本自動車工業会が行った「2023年度乗用車市場動向調査」によると、新車を購入してから10年以上乗り続けている人は増えている。
車を長く大切に使いたい思いが、手洗い洗車への関心の高さにつながっている。民間による洗車・ワックス掛けに関する実態調査によると、自分で手洗いする人の洗車場所は、自宅の庭や車庫(54.8%)、セルフ洗車場併設ガソリンスタンド(22.0%)、コイン洗車場(17.9%)、勤務先(2.6%)、レンタルスペース(0.3%)、その他/実家など(2.4%)という結果が出ている。
自宅の庭や車庫がない人は、洗車場所を見つけるのに苦労していることがうかがえる。さらに、自宅の次に洗車場として選ばれているガソリンスタンドだが、資源エネルギー庁がまとめたデータによると、近年減少傾向にある。
洗車をしたいが洗う場所がない「洗車難民」という言葉も出てきている状況だ。これまでガソリンスタンドを利用していた人は、今後コイン洗車場への需要が高まるだろう。実際に、洗車施設による洗車サービスの世界市場は、2027年まで年平均成長率3.8%と見込まれている。
洗車サービス事業の成長率が著しい米国では、主に洗車機やスタッフによる洗車サービスが利用される。日本では、先述のように約半数が自分で洗車を行っているため、コイン洗車場には洗車機とセルフ洗車スペースが設けられている場合が多い。
コロナ禍を機に無人販売やセルフレジ、セルフチェックアウトなどが増えているが、もともと無人事業としてスタートしたコイン洗車場は、近年の消費者やビジネスの動向と見事に親和している。月に何度使っても定額の「サブスク洗車サービス」といった無人の利点を活かしたサービスも生まれた。
コイン洗車場に設置されているのは、門型洗車機(ドライブスルー型、降車型)や高圧洗浄機、高圧エア噴射機、カーマット洗浄機、車内用掃除機、オゾン除菌脱臭機、自動車用タイヤ空気充填機などである。設備の充実とともに、洗車工程によって分かれるブースや日差しよけの屋根、冬場には温水が出るなど、利用者に選ばれる工夫をしているところも多い。
EV(電気自動車)の普及に伴って、洗車している間に急速充電ができるコイン洗車場も登場した。各社、利便性を考えたサービスで差別化を図っている。
コイン洗車場の仕事
基本的にコイン洗車場は無人で運営されている。コイン洗車場での仕事は管理業務にとどまり、ガソリンスタンドのようなスタッフによる洗車技術は必要ない。スタッフは常駐スタイルではなく、週に数回現場へ行って作業するといったイメージだ。
コイン洗車場の具体的な仕事は以下のとおり。
(1) 清掃
コイン洗車場の清掃・管理を行う。設備に不具合があれば、修理やメンテナンス業者に連絡する。
(2) お客様対応
洗車設備や機器の使い方に困っているお客様がいれば対応し、説明する。
コイン洗車場の人気理由と課題
人気理由
- 他のビジネスに比べてローリスク、ミドルリターンである
- 景気に左右されにくい
- 人手がかからず、在庫を抱えなくて良い
課題
- 雨の多い時期は売上が減少する
- 利用客が土日に集中する
- 汚水や騒音など近隣への配慮が必要になる
コイン洗車場のメリットは運転資金の少なさだ。すでに土地を所有していれば、初期費用や固定費も少なくて済む。ただし、天候や曜日によって売上が大きく落ちることもあるため、キャンペーンを実施するなど対策が必要だ。
開業のステップ
コイン洗車場の開業ステップは、以下のとおり。
コイン洗車場は、確認申請が必要となる建築物に該当しないため、建築の許可を得る必要はない。ただし、土地が農業専用地や住宅専用地区といった特別地区にある場合は、届出が必要となる。また、自治体によっては条例を定めているところもあるため、事前に所轄官庁の建築課や都市計画課に確認が必要だ。
コイン洗車場に役立つ資格
コイン洗車場を開業するのに必要な資格は特にない。
開業後にスタッフを常駐させ、プロによる洗車も並行して行う場合には、コーティング技術の高いスタッフを置くとアピールになる。技術を競うコンテストを定期的に開催している企業もあるため、スタッフ採用のヒントにしたり、参加を検討したりしても良いだろう。
開業資金と運転資金の例
開業するための必要な費用としては、以下のようなものがある。
- 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
- 設備工事費:土間工事、電気工事、水道工事など
- 機器リース費:門型洗車機、高圧洗浄機、カーマット洗浄機、車内用掃除機など
- 広告宣伝費:LED表示機、近隣へのチラシ投函など
門型洗車機、高圧洗浄機、カーマット洗浄機、車内用掃除機など最低限の設備を整えたコンパクトなコイン洗車場なら150坪あれば始められる。洗車機の台数と手洗いスペースをどのくらい設けるかによって資金は変動する。
以下、開業資金と運転資金を表にまとめた(参考)。
門型洗車機にはドライブスルー型と降車型があるが、土地の広さや立地条件を考えて選ぶと良い。入退場しやすく使い勝手の良い洗車場は、口コミで広がり集客にもつなげられる。
設備はリースを利用すれば、初期費用を抑えることができる。リースでも不具合があると自身でメンテナンスや修理が必要になるケースも多い。運転資金は多めに見積もっておこう。
売上計画と損益イメージ
コイン洗車場を開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。
年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。
コイン洗車場は基本的にセルフサービスのため、スタッフを常駐させる必要はない。週2~3日程度で清掃やメンテナンスをすれば良く、人件費など固定費が少ないのも魅力的な事業だ。
コイン洗車場のフランチャイズは、ロイヤリティが比較的少額で済む場合が多い。また、洗車関連機器を製造販売している企業では、機器のリースや管理をトータルで任せられるところもあり、ビジネス未経験者でも始めやすい。
マンションやテナントビルには不向きな立地でも、コイン洗車場なら車の往来があれば成り立つ可能性が高い。眠っている空き土地を活用したいと考えるなら、一度コイン洗車場の開業を検討してみてもよいだろう。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)