業種別開業ガイド
まつ毛エクステサロン
2024年 10月 18日
トレンド
主にまつ毛エクステンションを扱う「まつ毛エクステサロン」では、専門的な知識と技術を持った有資格者が施術を行う。まつ毛エクステンションとは、まつ毛をボリュームアップさせるために、自まつ毛に専用の接着剤で人工毛を装着する手法のことをいう。好みにより本数や長さ、カールのタイプ、色などを選べるサロンが多い。
民間が行った調査によると、まつ毛エクステサロン含むアイビューティサロンの2024年の市場規模は1,179億円で、直近5年において最高額に達している。
コロナ禍のマスク着用で目元への美容意識が高まり、市場規模の拡大につながったとみられる。さらに、規制が緩和され外出機会が増えると、1回あたりの利用金額が増加した。同調査によると、1回あたりの利用金額の平均は、女性は5,299円(前年差310円増)、男性は4,621円(前年差326円増)となっている。
まつ毛エクステの利用者は、特に40代女性で顕著に伸びており、6,246円(前年差1,375円増)となっている。この背景には、まつ毛が細く少なくなるといった加齢による悩みに加え、アイメイクに時間をかけない時短美容として利用しているためと考えられる。
また、男性では20代が最も多く、5,040円(前年差1,087円増)となった。近年では、大手化粧品会社がメンズ向けスキンケアやメイクアップ用品を本格的に展開している。男性インフルエンサーがSNSでメイク技術を発信するようになった影響もあり、男性美容市場は成長を続けている。
年間利用回数は、女性は5.22回(前年比7.2%増)、男性は2.54回(前年比5.9%減)となっている。コロナ禍が落ち着きサロンに通いやすくなったことで、定期的なメンテナンスが必要なまつ毛エクステを再開する人が増えた。施術単価が高いまつ毛エクステの利用率の回復は、1回あたりの利用金額の増加にもつながっている。
まつ毛が生え変わる周期は、個人差はあるが3週間~4カ月ほどと言われている。まつ毛エクステは毛周期のタイミングと接着剤の状態により、一般的に3~4週間で付け替えが必要となる。全てオフして付け替えると、自まつ毛に負担がかかり料金もかさむため、まつ毛エクステが取れてしまった部分や接着剤が浮いている部分を約2週間ごとに補修する「リペア」を選ぶ人も多い。
ただし顧客によっては、ほとんどまつ毛エクステが残っておらず、リペアできないケースもあるため、顧客の状態を見てカウンセリングを行い、プランを提案するなどの対応が必要だ。
目元美容の意識の高まりからまつ毛美容液の市場規模も拡大しており、2022年は約60億円と2017年の約2倍に成長している。物販を取り扱うサロンも多く、客単価アップにつながるアイテムとなっている。また、前述の調査では、男女ともにアイブロウ・眉カットの利用率も上がっているため、オプションとしてメニューに加える戦略も有効だろう。
近年のまつ毛エクステサロン事情
まつ毛エクステは、1980年ごろ韓国で誕生したと言われている。日本では1998年に登場し、急速に普及した。当時はエステティックサロン、美容室、まつ毛専門サロンなどで施術されており、衛生面や安全管理の規制がなく、特に資格も必要なかった。しかし、目やまぶたのトラブルが多数発生したため、2008年厚生労働省により美容師免許取得が事実上義務付けられた。
その後もトラブルは後を絶たず、2015年に国民生活センターが発表した調査結果によると、2010年から2014年の5年間において毎年100件以上の危害が報告されている。
現在、美容師国家試験でまつ毛エクステの実技試験の導入が検討されている。導入には評価方法や試験会場の環境保持、試験委員の養成などいくつかの課題があり、実施まで時間がかかる見通しだ。まつ毛エクステは的確な知識と技術が必要な施術のため、安全性向上に向けた教育体制が急務である。
性別や年齢、ライフスタイルに関わらず、目元への美容意識は高まっている。これまでもファッションのブームに牽引されるように、さまざまなエクステが流行った。付け放題メニューやまつ毛パーマとの組み合わせ、毛質の種類、カラーマツエクなど、時代とともにメニューも変化している。丁寧にカウンセリングを行い、顧客の要望や悩みに対応できるサロンが求められる。
近年では男性専用や中高年女性のためのまつ毛エクステサロンも登場している。ターゲットを絞り、入店しやすく居心地の良いサロン作りを行っている。丁寧な接客、徹底したカウンセリング、高い技術力、落ち着ける雰囲気が、選ばれるサロンの条件となりそうだ。
また、2015年に美容師法が改正され、法律で定められた条件を満たす場合は出張美容が可能となった。育児や介護でサロンへ行けない人向けに、顧客の自宅やマンションの共用スペースなどでまつ毛エクステの施術を行う。出張サロンとして営業するには、保健所への届け出や衛生面の管理が必要となる。顧客に喜ばれるサービスを提供して信頼につなげ、固定客を獲得していきたい。
参考:
厚生労働省
まつ毛エクステサロンの仕事
まつ毛エクステサロンの仕事は「フロント」「施術」「メンテナンス」「店舗管理」「広告宣伝」に分けられる。それぞれの具体的な仕事は以下の通り。
- フロント:受付、会計、案内、電話対応、予約の確認など
- 施術:まつ毛エクステ、まつ毛パーマなど
- メンテナンス:施術の準備や片付け、器具の消毒、機材のメンテナンス、清掃など
- 店舗管理:売上管理、店販品や備品の在庫管理、シフト管理など
- 広告宣伝:SNSの配信やホームページの更新など
まつ毛エクステサロンの人気理由と課題
人気理由
- 少ない初期投資で開業できる
- 原価率が低く、高い利益率が見込める
- 目元美容の需要が増加している
課題
- 施術を行うには美容師資格と技術の習得が必須となる
- 競合が多いため、他店との差別化を図る(新規顧客の獲得、固定客化の工夫)
- 徹底した衛生面の措置を行う(施術で使用する器具類の消毒、施術環境の清潔保持、スタッフの健康管理など)
開業のステップ
まつ毛エクステサロンの開業には主に2つのパターンがあり、個人で独立して開業するか、フランチャイズに加盟して開業するかに分けられる。それぞれの開業ステップ(例)は以下の通り。
まつ毛エクステサロンを開業するには、美容師法に則った適切な設備や申請が必要となる。条件を満たしていないと営業が許可されないので、不明な点がある場合は内装工事に入る前に保健所に確認しておくと良い。
まつ毛エクステサロンに役立つ資格
まつ毛エクステの施術は「美容師免許」を保持している者に限られる。ただし自身は経営に徹し、美容師免許を持った施術者を雇う場合は、保持していなくてもまつ毛エクステサロンの開業は可能だ。
美容師免許を取得するには、まずは厚生労働大臣もしくは都道府県知事の指定した養成施設に入学し、昼間・夜間課程で2年以上、通信課程で3年以上の過程を終了し受験資格を得る。その後、美容師試験に合格したら免許申請と美容師名簿への登録が必須となる。安全できれいな仕上がりの施術には特別な技術を要するため、エクステの技術を身に付けられる養成施設への入学が望ましいだろう。
また、施術スタッフが2人以上いる場合は、少なくとも1人は「管理美容師」の資格保持者が必要となる。管理美容師の資格は、受講資格のある以下の者が規定の講習会へ参加することで取得できる。
- 美容師免許を取得して3年以上業務に従事している
- 免許の写しおよび3年以上業務に従事した証明書を提出できる
必須ではないが役立つ民間資格にはいくつかある。最も加盟サロンが多く、資格の認知度が高いのは「日本まつ毛エクステンション認定機構(JECA)」の資格だ。2007年に設立された歴史のある協会である。
資格は5段階あり「安全技術師」「まつ毛エクステンション3級」「まつ毛エクステンション2級」「まつ毛エクステンション1級」「認定講師」となっている。筆記試験と実技試験で知識面と技術面のチェックを行うため、保持していることで一定の知識と技術があることの証明になる。なお、3級までは美容養成校在学中でも受験可能となっている。
「日本アイリスト協会(JEA)」も認知度が高く、こちらも3級であれば美容師免許を保持していなくても受験できる。まつ毛エクステの概要や基本的な知識を学べるため、今後施術をする予定のないサロンオーナーも取得しておくと良いだろう。
また幅広い顧客ニーズや他店との差別化のため、眉毛を整える「アイブロウ」の技術を学んでおくのも良い。アイブロウにもいくつかの民間資格があるため、自身が学びたいカリキュラムが整っているスクールを選ぶようにしよう。
開業資金と運転資金の例
前述の通り、まつ毛エクステサロンの開業には個人かフランチャイズかに分けられる。フランチャイズは企業によりさまざまなプランが設けられているため、ここでは個人開業の例を紹介する。
まつ毛エクステサロンは、美容師免許を保持するオーナーが施術を行い1人で運営する「プライベートサロン型」と、有資格の施術者を雇い運営する「大型サロン型」がある。美容師法や管轄する保健所の規定で照度や手洗いスペースなどが定められており、規定をクリアするための内装工事が必要となる。
参考:
厚生労働省
東京都
開業するための必要な費用としては、以下のようなものが考えられる。
- 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
- 内外装工事費:電気工事、排水工事、看板設置など
- 備品・消耗品費:施術ベッド、手元照明、リネン類、人工まつげ、グルー(接着剤)など
- 広告宣伝費:ホームページ制作費、SNS広告など
以下、開業資金と運転資金の例をまとめた(参考)。
売上計画と損益イメージ
まつ毛エクステサロンを開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。
年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。
まつ毛エクステサロンは初期費用が少なく低リスクで始められることもあり、競合が多い業態である。ヘアサロンやネイルサロンでもまつ毛エクステメニューを取り入れるところが増えており、いかに差別化を図るかが鍵となる。
最近ではビジネスエチケットや韓流ブームの影響から、男性でも美容面を意識する人が多くなっている。男性に特化したサロンや男性の目元悩みに応えるメニューを充実させるのも一案だ。
また、インバウンド美容のニーズも高まっている。日本の美容に興味関心の高いアジア層を対象にするなど、ターゲットを見極め他にはないコンセプトを打ち出して差別化を図りたい。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)