業種別開業ガイド
宅配寿司
2024年 9月 18日
トレンド
少子高齢化や共働き世帯の増加を背景に、食品宅配市場は成長を続けてきた。さらに新型コロナウイルス感染拡大の巣ごもり需要で、市場は急拡大した。テレワークの定着などライフスタイルの変化により、コロナ禍が落ち着いてからも需要は減ることなく成長は続いている。
民間の調査によると、2022年度の食品宅配市場規模は、事業者の売上高ベースで2兆5,363億円(前年度比2.3%増)となった。2027年度には、2兆9,074億円(2022年度比14.6%増)を見込んでいる。
食品宅配市場は、高齢者や育児世代を対象とした「在宅配食サービス」や「食材(惣菜)宅配」など8分野で構成されており、「宅配寿司」の割合は約2~3%で推移している。コロナ禍にテイクアウトや宅配サービスをスタートさせた飲食店は多く、市場拡大の要因の1つとなっている。
宅配サービスのチャネルは多様化しており、主に次のようなものがある。
- デリバリーサービス(配達代行サービス)
- ピザや寿司などの専門店
- ファミリーレストラン
- 近くの店の出前、仕出し
- 在宅配食、食事宅配サービス など
民間の調査によると、最も利用されているチャネルはデリバリーサービス(49%)で、次にピザや寿司などの専門店(48%)だった。また、利用者の年代は、デリバリーサービスは20〜30代、専門店は50~60代の利用が多い。注文したメニューは、ピザ(57%)、弁当(29%)、寿司(27%)という結果となった。
同民間調査によると、寿司の宅配は中高年からのニーズが高く、男性は50~60代で30%以上、女性は60代で40%以上が宅配サービスを利用して寿司を頼んでいる。また別の民間調査では、60%以上の人が月に1回以上の頻度で寿司を食べると回答しており、寿司の人気が高いことが分かる(出典:「約1万人に聞いた 寿司を購入する場所、圧倒的な1位は? 2位は回転寿司の持ち帰り」|ITmediaビジネスONLINE)。
厚生労働省がコロナ禍の寿司店の利用状況について調べたところ、外食の頻度が少なくなったコロナ禍でも、寿司は一般外食に比べると落ち込みは少なかった。
さらに、コロナ禍で回転寿司や職人が握る寿司店では利用頻度が大きく低下したが、持ち帰り寿司専門店や宅配寿司専門店の利用頻度には変化が見られなかった。寿司は国民食として優位性の高い料理ジャンルと言えるだろう。
近年の宅配寿司事情
民間の調査によると、日本の寿司市場規模は1兆3,305億円で、宅配寿司は608億円となっている。
日本では古くから出前文化があるが、1980年代後半に宅配寿司専門店の見やすいメニューや迅速な配達が評判となり、宅配寿司ブームが起きた。しかし、寿司を作る技術が追い付かずに撤退する店が相次いだ。現在、寿司市場の約4.5%を占める宅配寿司は、「便利でおいしい寿司」を追求した店で成り立っていると言えるだろう。2019年には、大手回転寿司チェーンがデリバリーサービスを開始し、宅配寿司市場は拡大を続けている。
宅配寿司市場の59%のシェアを占めるのは、大手宅配寿司チェーンだ。「便利でおいしい寿司」を実現するために、次のようなサービスを展開している。
- 好みのオーダーに対応する(ネタの変更、シャリの量、ワサビの有無、寿司桶の選択)
- 地域によってネタの種類やシャリの味付けを変える
- 旬の食材や希少なネタを期間限定、数量限定で提供する
- さまざまな決済方法に対応する
- ポイントがたまる仕組みを作る
- 公式サイト、アプリを構築する(顧客情報管理)
- 配達代行サービスも利用する(集客、マーケティング活用)
近年では、「クラウドキッチン」という実店舗を持たずデリバリー専門として運営するビジネスモデルが登場している。プラットフォーム事業者がクラウドキッチンを運営するなど、クラウドキッチンのサービスを展開する企業が増えている。宅配寿司は大手独占の業種であるが、個人でも開業しやすい時代になったと言える。
コロナ禍をきっかけに大きく成長したデリバリー市場だが、デリバリーの運営基準やルールが整っていなかった。一般社団法人日本デリバリー協会(JDA)は、2024年3月に衛生基準審査の導入を開始した。新たに衛生基準を設け、この基準に合格した場合のみ開業が可能となる。今後は衛生面だけでなく、品質面やサービス面での基準を作っていくという。
少子高齢化やライフスタイルの多様化により、デリバリーの需要は今後も拡大していくだろう。
宅配寿司の仕事
宅配寿司の主な仕事は「調理」「配達」「清掃」「運営管理」「集客」に分けられる。
- 調理:オーダーを受けた寿司の調理
- 配達:出来上がった寿司をバイクもしくは自転車で配達
- 清掃:閉店後のキッチン周りの清掃
- 運営管理:在庫管理・発注、スタッフ管理、経理事務、各書類作成など
- 集客:メニュー開発、プロモーション企画、SNS運用、チラシの配布など
宅配寿司の人気理由と課題
人気理由
- 飲食スペースが無くても営業できるため、店舗の立地を選ばない
- 個人で開業する場合、少ない初期投資で始められる
- フランチャイズ加盟の場合、サポートが充実している
課題
1. 他店と差別化を図る
フランチャイズ加盟せずに開業する場合は、他店にない強みを作り、個人店だからこそできる個性を出していく必要がある。
2. プロモーション戦略を構築する
売上や顧客を増やすために、日々のSNS発信や定期的なチラシの配布、メニューの改定など、戦略的なプロモーションを行う。
開業のステップ
宅配寿司の開業には、「個人で開業」「フランチャイズ契約を結び開業」という2つの方法がある。それぞれの開業ステップは、以下の通り。
飲食店を開業する場合、食品衛生法に基づく飲食店営業許可を取得しなくてはいけない。内装の図面が出来上がった時点(工事着工前)で保健所に事前相談し、問題ないか確認しておこう。
宅配寿司に役立つ資格や許可
宅配寿司を含む飲食店は、「食品衛生責任者」を各店舗に1名以上配置することが義務付けられている。資格の取得には、保健所が行っている食品衛生責任者養成講習を受講する。講習会では、衛生法規や公衆衛生学などの講習を6時間ほど受けるほか、受講料として1万円前後が必要になる。
宅配寿司は正月や節句など大人数の集まりに利用されるケースも多く、酒の需要が予想される。酒類を販売するためには、酒類小売業免許が必須だ。申請はe-taxで行えて手数料は無料だが、登録免許税の支払いが必要になる。
必須資格ではないが、個人店として強みを出すなら寿司の専門資格を取得すると役立つだろう。公益社団法人 調理技能技術センターが実施する「専門調理師・調理技能士(すし料理)」(*1)は、寿司の専門資格になる。合格すると厚生労働大臣から同称号を与えられ、証書が交付される。ただし、受験するには8年以上の実務経験(うち3年以上調理師免許を有していること)などの条件がある。
(*1)専門調理師・調理技能士(すし料理)の詳しい情報は、こちら(調理技能技術センター)をご確認ください。
開業資金と運転資金の例
宅配寿司を開業するための必要な資金としては、以下のようなものがある。
- 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
- 内装工事費:電気工事、看板設置、排水工事など
- 業務用設備費:冷蔵庫や調理台、シンクなど
- 宅配用バイク・自転車
- 備品、消耗品費:パソコン、電話、事務用品、調理道具、容器、洗剤など
- 広告宣伝費(求人費含む):ホームページ制作費、SNS広告、チラシ印刷など
以下、開業資金と運転資金をまとめた(参考)。
宅配寿司で懸念されるリスクのひとつが食中毒だ。万が一食中毒が起きた場合に備えて、任意でPL保険へ加入しておくと良いだろう。
売上計画と損益イメージ
宅配寿司を開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。
年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。
フランチャイズ加盟して開業する場合、加盟料やロイヤリティなどが必要だが、土地選びから運営までサポートしてくれる。個人で開業する場合は、全て自分で進めていく必要があるが、初期費用を抑えられるメリットがある。
高騰し続ける鮮魚の仕入れ価格や光熱費、人件費をいかに抑えていくかも、経営において外せないポイントだ。前述のクラウドキッチンや配達代行サービスを活用して、初期費用や人件費を抑える工夫をしていきたい。
また、SDGs(持続可能な開発目標)を意識した取り組みも重要だ。環境に配慮した素材でできた寿司容器を採用する、配達には電動バイクではなく電動アシスト自転車を使用する、陸で育てられたサステナブルシーフードを使ったメニューを取り入れる……など、地球に優しい取り組みは、他店との差別化につながり、アピールポイントとなり得る。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)