業種別開業ガイド
観光農園・貸し農園
2021年 7月30日
トレンド
(1)観光農園・貸し農園の市場規模
観光農園・貸し農園そのものの市場規模に関するデータはないが、農林水産省が行っている「6次産業化総合調査」によると、2018年度の農業生産関連事業による年間総販売金額は2兆1,040億円で、このうち観光農園は403億円となっている。また観光農園では、事業体数は減少傾向となっているが、年間販売金額は2014年度以降増加傾向にある。
(2)観光農園の伸長
観光農園は、観光客等の第三者を対象に「○○狩り」といった自ら生産した果物や野菜などの収穫体験または観賞をさせて、対価を得る農園のことをいう。先述のとおり、観光農園の年間販売金額は増加傾向にあり、1事業所当たりの年間販売額も増加している。この背景には「モノ消費」から「コト消費」へと、人々の消費対象が変化していることが一因として挙げられ、収穫体験だけでなく、収穫した食材を調理するなどのレジャーとしての楽しさも重視されるようになってきている。
(3)貸し農園の多様化
貸し農園は、圃場を区分けして貸し与え、農機具などを提供し農作物を作る楽しみを提供する農園のことを指し、レンタルファーム、シェア畑など様々な呼称がある。
形態としては、日帰り型のほか、宿泊可能な施設を備えた滞在型がある。近年では必要な農具・肥料が準備されているサービスや、開設者などが農作業についてアドバイスやサポートを行っている。このほか収穫祭等を開催し交流を図るような農園や、個人の区画ではなく共同菜園として農園利用者同士で管理・作業を行うコミュニティ農園も増加している。また、食育への関心の高まりを受け、子どもと野菜作りをすることや、新たなライフスタイルとして野菜作りをすることも注目されている。
ビジネスの特徴
観光農園の場合、農作物の収穫時期のみ開園している農園が多く、シーズン制がある。また、良質な農作物を栽培するために有利な立地条件のほか、交通の便が良いことや地域の主要な観光スポットからアクセスが良いことなども考慮する必要がある。
しかし、不便な立地であっても、販売促進やサービスによって多くの固定客を獲得している農園も数多く見られる。
観光農園と貸し農園に共通していることは、農作物を作るノウハウだけでなく、接客や集客、事業運営などのノウハウも必要となることである。
開業タイプ
(1)農業をやったことのない人が農業を始める(就農)パターン
農園となる農地を確保し、農地委員会の許可を得る。農業生産法人の設立や農地の確保においては、地域の農業委員会への申請が必要で、この手続きには半年ほどかかるケースもあるので注意が必要である。地域や条件にもよるが、農地の年間貸借料は数万円程度からあり、購入するより借りる方が初期投資を抑えられるメリットがある。農地の取得など通常の起業とは異なるため、就農にあたっては地域の農業指導普及センターや自治体の相談窓口などを活用するとよい。
(2)すでに農家をやっている人が新規事業として取り組むパターン
トイレや駐車場、休憩スペース、看板等の設置をしたうえで転用許可が必要となる。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
開設形態には、以下の3つに分類され、それぞれ必要な手続きが異なる。就農する場合や、農業生産法人設立の場合は、農園となる農地確保と地域の農地委員会へ申請し、許可を得る必要がある。
いずれにしても、農業の新規事業参入あるいは新規就農に関しては、様々な支援制度があるため、情報収集を積極的に行い綿密な計画を立てた上で支援制度を有効活用することが重要と言える。
①市民農園整備促進法によるもの
農地と併せて休憩施設等の附帯施設を農家自らが整備し、市町村の認定を受ける必要がある。
②特定農地貸付法によるもの(次の要件による貸付)
ア 10アール(1,000平方メートル)未満
イ 貸付期間は5年以内
ウ 営利目的で農作物を栽培しない
③農園利用方式によるもの
農園での農業経営は農家が行い、住民等がこの農園で農作業を行う。行政への特別な手続きは不要だが、開設者と利用者とで「農園利用契約」を締結する必要がある。
開設の類型 |
開設手続 |
その他 |
---|---|---|
市民農園型 |
市町村と貸付協定の締結 |
施設の設置には農地法の転用許可が必要 |
市民農園型 |
市町村と貸付規定の締結 |
施設の設置には農地法の転用許可不要 |
体験農園型 |
法的手続き不要 |
施設の設置には農地法の転用許可が必要※ |
体験農園型 |
市民農園開設認定申請書及び市民農園整備運営計画書の作成・市町村への提出 |
施設の設置には農地法の転用許可不要 |
(出典:「農業手続きドットコム」より。)
※農地転用の許可が不要となる特別措置を設けた「市民農園整備促進法」の適用を受けられるかどうかを検討するとよい。
※「市民農園整備促進法」は、都道府県や市町村が市民農園の整備を円滑に促進するために制定された法律で、さまざまな補助事業や融資制度により開設にかかる負担を軽減できる。なお、「市民農園整備促進法」による開設の場合、場所は「市街化区域内」あるいは「市民農園区域内」に限られる。
必要なスキル
開業に免許や資格等は不要だが、農作物や育て方についての知識・スキルを習得するとともに、実務を通してノウハウを蓄積していくことが求められる。また、サービス業の要素も兼ねているため、顧客とコミュニケーションを継続的にとり、リピーターを確保することや、ニーズを把握し利用者の満足度を上げることも重要である。観光農園の場合、地域の組合などに加盟して共同で販促を行う方法も考えられる。貸し農園では、栽培についての指導を積極的に行い、利用者の栽培能力を高めることによって満足度を上げるケースも増えている。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
令和元年における全国平均農地価格は、以下の表のとおり。地域別の価格差が大きいため、どこで開業するかによって初期投資額も大きく変わることとなる。
※単位:千円/10アール
※データ:全国農業会議所「田畑売買価格等に関する調査結果」
【10a程度の農地を購入し、観光農園を開業する場合の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
b.損益イメージ
上記a売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は他に分類されない専門サービス業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
観光農園、貸し農園いずれも、新規参入する場合は土地の購入または賃借する必要がある。(土地の価格は地域や条件によって大きく異なる。)全国農業会議所の新規就農相談センターの調べによると、新規就農するにあたって用意した自己資金の平均額は528万円で、就農した1年目に実際に必要となった資金は平均で774万円となっている。とくに初年度は売上が立ちにくいこともあるため、初期費用はしっかり用意する必要がある。
観光農園の場合、農業者が新たに取り組む際には、休憩所や飲食施設、トイレや駐車場の整備が必要である。貸し農園の場合は、給水施設、栽培施設や農機具収納施設、資材保管施設、駐車施設、トイレなどの施設が新たに必要になってくる。
いずれにしても、農業の新規事業参入あるいは新規就農に関しては、様々な支援制度があるため、情報収集を積極的に行い綿密な計画を立てた上で支援制度を有効活用することが重要と言える。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)