業種別開業ガイド
歯科医院
2019年 10月 9日
トレンド
(1)歯科診療医療費の推移
厚生労働省の調査によると、全国の歯科診療医療費の総額は、平成28年度の2兆8,574億円に対し、平成29年度は2兆9,152億円と増加傾向にある。しかし、歯科衛生士の人件費が高騰していることもあって、楽観することは禁物である。
(2)口腔環境への意識の高まりをうけた治療内容の変化
近年の各種研究により、歯や口腔の健康が糖尿病などをはじめ全身の健康に大きく影響していることが明らかになっている。
また、虫歯の予防意識の高まりから、治療内容は「修復治療」から「予防処置」へとシフトしている。
(3)審美歯科
最近では従来の健康保険制度での機能的な歯科治療にとどまらず、審美歯科的な治療を行うケースも増えている。
審美歯科には、歯列矯正やホワイトニングなどのほか様々な治療がある。
(4)M&A
歯科医師は、自身で歯科医院を開業している個人事業主が多い。現在、歯科医師も高齢化が進んでおり、後継者を身内の中から指名するか、親族外へ事業の引き継ぎをしなければならないケースが増えている。このような背景から、最近では後継者問題を解決する手段として、歯科業界においてもM&Aによる事業承継が注目されつつある。
ビジネスの特徴
一般的な歯科は、う歯や補綴(ほてつ)などの治療が中心であったが、競合が激化している状況にあって、歯周病や口腔ケア、審美歯科、矯正歯科などの新たな分野の治療も増加してきている。
このように、歯科医師は歯科医療という限られた領域内で、新しい分野への業務拡大を図っていくことが求められている。
開業タイプ
(1)診療科
医療法によって規定される、歯科で標榜出来る診療科目は以下の4つである。
- 歯科
- 矯正歯科
- 小児歯科
- 歯科口腔外科
そのほか、審美歯科、補綴科、保存科、歯周科、高齢者歯科、障害者歯科、歯科麻酔科、歯科放射線科、口腔内科などの科を持つ歯科医院や大学病院がある。
(2)従事する人
歯科には歯科医師の他に、歯科予防処置、診断・治療の補助や患者指導などを行う歯科衛生士、歯冠修復物などの各種技工物を作製する歯科技工士、雑務を受け持つ歯科助手などが従事している。なお、歯科に従事する人で、歯科医師以外を特にコ・デンタルと呼ぶことがある。
開業ステップ
(1)開業までのステップ
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。
(2)必要な手続き
諸官庁への主な届出・手続き
- 診療所開設届(保健所)
- 保険医療機関指定申請書(厚生局)
- 診療所使用許可申請書 ※有床の場合(保健所)
- 診療用X線装置備付届(保健所)
- 麻薬管理者・施用者免許申請書(保健所)
- 生活保護法指定医療機関指定申請書(福祉事務所等)
- 母体保護法指定医師指定申請書(地区医師会)
- 結核予防法指定医療機関指定申請書(保健所)
- 労災保険指定医療機関指定申請書(労働基準監督署)
※診療科目や診療内容によっては、上記以外にも必要な手続きがある。
開業に際して必要になる主な手続きは上記のとおり。
新規にクリニックを開業する際、提出しなければならないのが「診療所開設届」。医療法第8条によれば、開設した日から10日以内に所管の保健所へ届け出ることになっているが、実際のところはもっと前に窓口へ足を運ぶ必要がある。それは、事前相談なしにいきなり開設届を提出しても、すんなり受理されることが少ないからである。相談時にはかなり高い確率で院内レイアウトなどについての指導が入るため、それらの作業を開始する前、つまり内装工事前に一度は相談を済ませておかなければならない。またクリニック名称についても、すでに近隣に同名あるいは似たような名前のクリニックがある場合は、保健所から変更依頼がくることもある。看板も建て、開業チラシを配布したその後になってから「名前が使えない」などの事態が起きないように、名称についても必ず相談しておく必要がある。
必要なスキル
歯科医院の開業を考える人であれば、当然、歯科医師免許を保有していることを前提として、具体的に求められるスキルの基準の幾つかを記載していく。
- 現在の勤務先で保険点数を30万点/月をあげることがある。
- 1日あたり20人前後の治療にあたることができる。
- 自費補綴・インプラント・矯正・義歯などの自費分野で100万円/月をあげることができる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
【テナント30坪程度、ユニット2台で開業する場合に必要となる資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
1日の客数、月の保険収入、自費収入を、以下の通りとして、売上高を算出した。
b.損益イメージ(参考イメージ)
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
※財務標準比率のうち売上総利益率については、一般的に歯科診療所の変動費率が20%前後といわれていることを前提に75.0%とした。
営業利益率については、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」の歯科診療所に分類される事業所のうち、黒字事業所の財務データを出典とする。
c.収益化の視点
一般的に高収入と云われるイメージのある歯科医院であるが、売上高粗利益率が75.0%(一般的な指標から算出)、営業利益率は6.2%(出展:東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)となっていることから、それほど利益率の高い業種ではない。原則、入院病棟を持たず、医師、歯科衛生士の診療技術を中心に運営するため、労働集約型の業種といえる。
患者数が伸びず、保険診療報酬が上がらない状況の中では粗利益を戦略的方法で高めることが必要である。技術、情報、信用等の経営資源を総動員して次のような領域に集中して取り組む事が求められる。例えば、(1)高齢者診療、在宅ケアおよび施設への出張診療(特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、老人保健施設、ケアハウス等)、(2)歯周病治療、(3)口腔ケアと誤嚥性肺炎予防等治療、および(4)自由診療の矯正歯科、人工歯根インプラント、審美歯科などがあげられる。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)