小売業の在庫費用削減策

本レポートは、小売店の経営者の方やこれから商売を始めようと考えている方を対象として、在庫費用削減のポイントを紹介している。

1. こんなにある在庫費用

小売店経営者の中には、品切れによる販売機会のロスを恐れて、ついつい過剰な在庫を抱えてしまう人も多い。ここでは、そうした小売店経営者が在庫費用削減のための視点をもてるよう、在庫費用の種類を紹介する。

<在庫費用の種類>

仕入代金

いわゆる在庫投資と呼ばれる。売れないまま倉庫や店にある商品は、資金を固定化させ、資金繰りを悪化させる要因になる。

保管費用

倉庫などに保管する場合は、倉庫を建てるコスト、倉庫の減価償却費が保管コストがそれに当たる。また、店舗での在庫スペースは貴重な売り場面積のロスにつながる。

減耗費用

商品は在庫期間中に破損や減耗が生じ、在庫が多くなれば多くなるほど減耗費用は増大する傾向にある。

金利

仕入代金や倉庫の建設費用のために借りた資金の金利。

保険料

在庫商品そのものや倉庫にかける保険料。

運搬費用

商品をトラックから降ろす、倉庫内で移動させるなどの運搬作業にかかる費用。

返品費用

売れなかった商品を返品する場合にかかる人件費や運搬費。

2. 在庫コントロールの基本

1)適正在庫量を知る

適正在庫は、受注チャンスと在庫費用の均衡するポイントで決まり、年間を通じて維持すべき適正在庫量は次の計算式で求められる。

  • 年間平均適正在庫=年間販売高予想÷年間予定商品回転率

ここでの年間平均適正在庫は、あくまでも平均値であり、在庫管理上のひとつの目安にすぎない。商品ごとに季節や時間的な要因、安全在庫といった点を考慮して決定する必要がある。

※安全在庫とは、出庫予測ミス・作業ミス・発注ミス・保管ミスなどにより在庫が過少になった時でも品切れを起こさないで在庫量のこと。一般的に、発注日から納品日までのリードタイム内で、出庫スピードが早くなった場合を想定して数量を決定する。

2)在庫削減対象候補の商品を検討する

在庫対象品目ごとに適正在庫を決定したら、基準を超えている在庫対象商品を探し出し、在庫削減対象商品の候補とする。在庫削減対象を考える際は、下記2点を検討する。

  • 適正在庫量の設定がきついと削減すべき在庫が増えすぎて処理が大変になる
  • 適正在庫量の設定があまいと滞留在庫が増えて在庫削減の効果が薄れる

なお、最終的に削減対象商品を決定する際には、第3章でご紹介する商品全体のバランスを考えた過剰在庫検討の方法を併用するといい。

3)入庫を調整して在庫を減らす

在庫とは入庫と出庫の差のことを言い、在庫を削減するには入庫スピードと出庫スピードをなるべく同じにすると良い。ただし、出庫スピードは顧客の購買行動によって左右されるため、「商品の仕入(入庫)スピードを出庫スピードに合わせることで、適正在庫を維持し在庫を減らす」ようにする。※出庫スピードは、過去の販売データを分析して算出。

4)発注方式を工夫して在庫を減らす

発注方法を対象商品ごとに検討することで在庫削減を実現することができる。発注方式の内容と特徴は次のとおり。

<発注方式>

定量発注方式

決まった量だけ不定期に発注する方式。たとえば、毎日在庫量をチェックし、ある在庫量(発注在庫量)を下回った時に定量発注をかける。売れ筋商品などの出入りの激しい商品向き。

定期発注方式

定まらない量を定期的に発注する方式。たとえば、補充的に毎週月曜日あるいは毎月25日など、一定間隔で発注するところに特徴がある。在庫管理上あまり手間がかからないことから、在庫コストが小さかったり、量のあまり出ない買い回り商品向き。

都度発注方式

必要な都度、必要な量を発注する方式。売れ行きの読みにくい高額商品など、在庫をもちたくない商品向き。

5)発注量を減らして在庫を削減する

在庫を削減する方法として、発注量を少なくする「多頻度少量発注」にすれば、在庫は当然少なくなる。多頻度少量発注の基本的な考え方にJIT(Just In Time)あるが、これは必要な時に必要なものだけをつくるという生産管理の考え方で、在庫ゼロを理想としたもの。ただし、この方式は納入業者の納入コストアップにつながるため、仕入代金に跳ね返ってくる恐れも。第1章でご紹介した在庫費用間のバランスを検討したうえで用いる必要がある。

3. 過剰在庫商品の決定と対応

1)過剰在庫の決定

過剰在庫の決定には、第2章で検討した商品ごとの「適正在庫」という基準に加え、商品全体のバランスを検討することが必要。商品全体のバランスは売上高と在庫高の整合性を見たうえで判断する。

ここでは、売上構成比の高いものから、商品をABCなどのランクに分けて分析する「ABC分析」を紹介する。まずは、売上高と在庫高においてABCのランク付けを行ない、売上高のランクよりも在庫高のランクが高くなっている商品を過剰在庫商品の候補とする。第2章の個別商品の分析で在庫高が適正在庫を上回っており、かつ、売上高と在庫高の関係からも過剰在庫の候補となった場合には、処分対象商品と考えることができる。

※ただし、今後の流行予測などから政策的に大量在庫としている場合は除く。

2)過剰在庫商品の処分

処分すべき商品は、売れる見込みのないデッドストックや、それに近い不良在庫。不良在庫の判断基準は、売上高がCランクでありながら在庫高がAランクやBランクとなっている商品、売上がないのに在庫が存在するなどである。

具体的には、「季節はずれ商品」「旧タイプ商品」「競合商品に敗れた商品」などがあげられるが、不良在庫は早急にバーゲン品として処分することを検討する。粗利が取れなくても、「集客の材料にできる」「固定化した資金を少しでも回収できる」「今後の在庫費用を削減できる」などの効果が見込めるからである。