業種別開業ガイド
鍼灸院
2020年 4月 23日
トレンド
(1)国家資格
医師以外の者が鍼を行う為には「はり師」、灸を行うには「きゆう師」の国家資格が必要である。はり師、きゆう師の資格は、はり師、きゅう師の養成施設における所定の課程を全て修了し、国家試験に合格することで取得できる。
日本の鍼灸市場規模は、3,250億円と推定され、三療事業所(あんまマッサージ指圧、はり・きゅう・の3つを指す)5万件の中で、柔道整復師との併業事業所は約5千件であり、その市場規模は約750億円を占めている(明治国際医療大学が実施した2009年の調査)。
(2)予防医学
東洋医学的にいうと「治未病」といい、発症する前の病気の予防に効果的である。日本が抱える課題のひとつに、少子高齢化があるが、これから直面する超高齢化社会を考えたとき、鍼灸への期待が寄せられている。鍼灸はそれぞれの人間が持っている、本来の力「自然治癒力」を高めることが可能である。今後、予防医学という観点から、鍼灸の需要は高まる傾向にあると言える。
(3)美容としての鍼灸
最近テレビや雑誌で、「鍼灸」「美容鍼」が取り上げられるようになったこともあり、鍼灸というワード自体が、かなりの市民権を得るようになっている。最近は特に「美容鍼」や「美顔鍼」といったワードがよく検索されている傾向にあり、また「腰痛鍼」といったワードもよく見られる。エステや化粧品、または美容器具などでは届かなかった、肌の奥にある筋肉や細胞に直接刺激を与えることができる。それにより組織や細胞が活性化するため、修復作用が素早く働きリンパや血流が促進され、即効性が期待できる。
ビジネスの特徴
鍼灸は、個人の技術や人的な信頼がもっとも重要な要素であり、典型的な労働集約型産業である。そのため設備面での投資負担は軽く開業のハードルはさほど高くはない。
ただし、美容鍼灸、スポーツ鍼灸など多くは口コミでの評判をもとに来院するため、技術力を磨き続けることが欠かせない。
開業タイプ
個人で開業する場合、設備投資を最小限に抑えれば、運営のための消耗品も高価なものはなく、開業に際してのハードルはさほど高くない。
(1)賃貸物件での開業
貸店舗や賃貸マンションが候補となるが、賃貸マンションの場合には、貸主の許可が必要となる。そのため、SOHOタイプの賃貸マンションが有力な選択肢となる。SOHOタイプの賃貸マンションは店舗契約や事務所契約が可能である。さらに、デザイナーズ物件などはあらかじめオシャレな内装が施されており、すぐに店舗を開業出来るものが多くある。
(2)自宅併設での開業する
自宅併設での開業は、内装や備品など、保健所の指定する構造設備基準の要件を満たす必要がある。
(3)出張施術による開業
必ずしも鍼灸院を開設する必要はなく、出張施術を行うことも可能である。ただし、地域の保健所によっては、出張先の許可の判断が異なることも多く注意が必要である。原則としては、顧客の居室(自宅、老人ホームなど住まいとしている場所)とされている。
開業ステップ
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。
(2)必要な手続き
- はり師及びきゅう師の国家資格を取得し、開業権を得る。
- 管轄の保健所への施術所開設届出書の提出(店舗を開設る場合)
- 管轄の保健所への出張業務開始届出書の提出(出張施術による開業)
- 鍼灸院の店舗となる建物の構造設備の基準
1 6.6平米以上の専用の施術室を有すること。 |
2 3.3平米以上の待合室を有すること。 |
3 施術室は室面積の1/7以上に相当する部分を外気に開放できること。 |
4 施術に用いる器具、手指等の消毒設備を有すること。 |
5 施術室は、住居・店舗等と構造上独立していること(出入口を別に設ける等明確に区画すること)。 |
6 施術室と待合室の区画は、固定壁で上下左右完全に仕切られていること。 |
7 ベッドを2台以上設置する場合には、各々カーテン等で仕切り、患者のプライバシーに配慮すること。 |
なお、「○○治療院」、「○○治療所」など医療機関と混同する様な名前や、「はり科」・「きゅう科」など「科」の文字を使用することは施術所の名前としては認められていない点には注意が必要である。
立地条件について
運動機能の障害を抱えて来院する患者が多く、高齢者も少なくないため、通院に便利な立地条件が望ましい。
必要なスキル
初めて施術を受ける人は処置や効果に不安を抱いている場合が多く、開業者の技術はもちろん、患者に安心感を与えるような接客術や人柄も重要である。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
【テナント10坪程度で開業する場合に必要となる資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
1日の客数を以下の通りとして、売上高を算出した。
※自費収入:自由診療収入のこと。
b.損益イメージ(参考イメージ)
上記の売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は「その他施術業」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
零細事業者の多い針灸院は、現金収入が500万円以下の事業者が7割以上を占めている。その一方、典型的な労働集約型の業種であるため、開業者が一人で開業する場合の資金負担は軽く、消耗品類もそれほど高価なものはなく開業後の資金負担も大きくないため、運転資金面での問題は少ない。
まずは、小規模での開業とし、固定客が増えた段階で、施術用のベッドやスペースなどを増やすための投資を行い、事業規模の拡大を図っていくのが良いと思われる。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)