業種別開業ガイド

フリーライター

2022年 8月 24日

トレンド

1. 2020年の出版業界の市場規模はピーク時の約6割

公益社団法人全国出版協会によると、2020年の出版業界の売上は16,168億円となった。これは売上が最も高い1996年の26,564億円と比べると約6割にとどまる。

一方で、2019年と比べると、2020年の売上は、104.8%とやや増加している。また、近年の売上は横ばい傾向にある。これは電子出版が伸びてきていることが要因として挙げられるだろう。紙の売上は減少が続いているが、電子出版は増加傾向がみられる。

2. クラウドソーシング等の影響によるWebライター業の広がり

クラウドソーシングとは、インターネット上で業務委託者と受託者をマッチングするサービスである。近年、このサービスにおいて、ライター業務のマッチングが多く行われている。

日本労働組合総連合会の「ネット受注をするフリーランスに関する調査2020」によると、仕事をネット受注しているフリーランスのうち、クラウドソーシングを利用している割合は70.7%である。その業務の内容について、「原稿・ライティング・記事等執筆業務」の割合は6.6%となっている。さらに、「文章入力、テープ起こし、反訳」や「添削、校正、採点」、「取引文書の作成」など、ライティング関連業務を合わせると42.9%に上る。クラウドソーシング等のネット受注をしているフリーランスの約4割は、ライター関係の業務を行っている。

クラウドソーシングは、ネットを介して気軽に仕事を受注できる点が大きな特徴のひとつである。ライター関連では、素人にでもできるような簡単な業務もあり、参入障壁は低いといえる。しかし、1文字1円以下の低単価の仕事も多く、生計を立てていくためには金額面において課題がある。

3. 執筆関連業務やメディア出演等、執筆以外の業務に関する可能性の広がり

ライターとして生計を立てていくためには、業務の幅を広げていくことがひとつの戦略となる。インターネットの普及により、原稿の執筆に限らず、仕事を探していくことや新たな仕事の機会が増えている状況がある。

例えば、上述したとおり、クラウドソーシングには、テープ起こしや校正、取引文書の作成など、ライティング関連業務の募集も多い。

また、最近では動画配信サイトも増えており、映像メディアへの出演機会の増加という意味でも、ライター業のすそ野は広がっている。従来からライターとして人気が高まっていけば、テレビやラジオ等への出演依頼が入ることはあった。それが現代では、インターネット上の映像メディアへの出演機会が加わっている状況といえる。例えば書籍を出版した後には、書店等でトークイベントなどが組まれることがあるが、そうしたイベントがWeb配信されるケースも増えている。

ビジネスの特徴

フリーライターとは、「文章を書くことで収入を得る人」と大まかに定義できる。執筆媒体としては、大きく紙メディアとWebメディアに分けられる。細かく分ければ、書籍や雑誌等のほか、広告や分析レポートなど、様々な文章執筆の媒体が挙げられる。媒体によって、IT・サイエンス・医療・サブカルチャー等々、掲載される記事のジャンルも様々である。

自分の得意分野を磨いて専門性を高めていったり、どんな内容でも書ける総合的な力を身に着けていったりと、自分の適性に合わせて仕事の配分を考えていくことが重要だろう。
フリーライターは、参入障壁は非常に低い職業である。クラウドソーシングで単価の低い案件に応募すれば、たとえライター経験が全くなかったとしても、仕事を受注することは容易であることが多い。

ただし、生計を立てていくためには、クラウドソーシングで単発の仕事を得るだけでは難しい。ある程度の原稿料が得られる連載をもつなどして、定期収入を得ることが重要になる。自ら企画を立てて出版社やWebメディアに売り込むなど、営業活動を行うことも時には必要になるだろう。

また、上述のトレンド3.のとおり、人気や専門性が高まれば、執筆だけでなくテレビ・ラジオ等の出演など、仕事の幅を広げられる可能性もある。フリーライターは、こうした複数の業務を組み合わせて生計を立てていく職業だといえる。

開業タイプ

原稿執筆においては、書籍や雑誌、Webメディアなど様々な媒体が存在し、またジャンルも同様に様々なものが存在する。
そのため、ここではどのような記事を執筆していくか、原稿の性質によってタイプを分け、開業タイプを記載する。

(1)与えられたテーマでの原稿執筆

雑誌のコラムやWebサイトのコンテンツ記事、広告記事を書くなどの仕事である。テーマが決められているため、完全に自由に執筆できるわけではない。しかし、どんなジャンルでも調査・取材等を行うことで執筆できるようになれば、仕事の幅が広がるだろう。

(2)文字起こし、文章校正等、執筆に付随する業務の実施

原稿執筆にあたっては、企画や取材、テープ起こし、校正等の業務が付随して存在する。業界の実情として、これらの業務の線引きはあいまいな場合が多い。そのため、このような執筆に付随する業務に対応できることは、仕事を受注していくために重要なポイントのひとつとなる。

また、執筆に付随する業務は、クラウドソーシングサービスにおいて募集されていることが多く、仕事を見つけやすいということも利点である。クラウドソーシングでは、開業当初の経験が乏しい段階からでも、実績を積んでいきやすい。クライアントの信用を得ることができれば、安定した仕事の確保につながることもあるだろう。

(3)自ら調査・取材して記事を執筆

雑誌、業界誌・専門誌等の作成を行う業態である。クライアントからの依頼内容にもよるが、マーケット調査や取材をもとに記事を書く能力が求められるケースもある。文章力だけでなく、業界知識、対人コミュニケーション能力、分析力、取材力など、複数のスキルが求められる仕事である。

フリーライターと一口にいってもその肩書は様々である。例えば「ジャーナリスト」を目指すのであれば、自身で取材を行い、その内容を執筆する力は必須であろう。

また、ジャーナリストに限らず、専門家に取材をした上で記事を執筆するようなケースは、ライティングの仕事として少なくない。フリーライターとしてステップアップしていくためには、こうした調査・取材を伴う記事の執筆能力は非常に重要である。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

(2)必要な手続き

フリーライター開業に際しては、特に必要な手続きはない。

ライター関連のさまざまな肩書

文章を書くことで収入を得る仕事には、ライター、ジャーナリスト、作家など、様々な肩書が存在する。一般的には、それぞれの呼び名の定義は明確には知られていない。

大まかな定義として、「ライター」は文章を執筆する仕事全般を指す、定義の広い言葉である。ライター名の記名・無記名は問わない。「Webライター」のように、語頭に執筆媒体の名前がついたり、「サイエンスライター」や「医療ライター」など、執筆ジャンルと合わせて呼ばれたりすることも多い。

「ジャーナリスト」は、時事的・社会的な事件などの報道・評論等を行う原稿執筆業を指すケースが多い。企画を立て、調査・取材を行って記事を執筆するような働き方がメインとなる。大規模な調査・取材が必要な場合は、出版社やWebメディアに企画を持ち込み、調査費用や取材経費の支出を交渉する必要が生じるケースもある。

ただし、大まかな定義の違いは上述のとおりだが、個々のライターが好きな肩書を自由に名乗っているのが現実である。ライターやジャーナリスト以外にも、著作家・文筆家・コラムニスト・評論家・記者など、文章を書く仕事の肩書は多い。

ライターを開業するにあたっては、その肩書が読者や編集者に与えるイメージを考慮した上で、どのような肩書を名乗るか考えていきたい。フリーライターにとって肩書とは、いわば自身のブランド戦略の一要素といってもいいだろう。

必要なスキル

(1)文章力

正しい日本語を使うスキル、文章力を備えていることは必須である。論理的な文章、読みやすい文章を書く技術も求められる。

(2)企画力(営業力)

ライターとして生計を立てていくためには、人々に読まれる文章を継続的に書き続けていく必要がある。そのためには、ある程度の文章力は当然として、よい企画を立てる能力もまた必須といえる。加えていえば、出版社やWeb事業者に対し、執筆のために企画を持ち込むことは、ライターとしての営業方法のひとつとなる。

さらに、営業的な面から考えると、企画そのものの質の高さも重要だが、どのようなメディアにどのような記事を出すべきか考えることも重要となる。たとえば文芸誌とWebメディアでは読者層が異なるため、同じ企画を掲載したとしても、その記事が受けるかどうかは変わってくる。企画立案および営業にあたっては、こうした企画と媒体のマッチングを考えることも重要となる。

(3)取材力

取材を行う必要がある原稿の執筆にあたっては、当然のことながら取材力も必要になる。取材先から情報を引き出すコミュニケーション能力はもちろん、取材先の選定、アポ取り、取材相手の事前調査等、取材にまつわる業務を一貫して実施できるスキルは、ライターの基本的な能力として挙げられる。

(4)知識・見識

ライター業をはじめた初期の段階では、意識して様々な仕事を受託し、スキルアップを図りたい。多くの記事を書くことで知識・見識が広がり、文章力も向上し、記事作成スピードも上がることが期待される。やがては単価の高い仕事を請け負うこともできるようになってくる。また、様々な仕事を受託できれば、それらを自らの実績としてPRすることができる。

より確実な開業を目指すのであれば、ライターとして独立する前に、出版社や編集プロダクションで働くことも検討したい。実力がつけられることだけでなく、業界内で人脈を拡げることも重要である。

そのほか、自身の得意分野を持ち、スペシャリストとしての実績をライター事業に活かすという道もある。専門性の高い記事は、素人には執筆が難しいため、専門知識があれば競争力が高くなる。例えば医療記事であれば、筆者が医師免許をもっていれば、説得力が増すだろう。実際に、医師が医療関連の記事を書いたり、書籍を出版したりしているケースは少なくない。こうした専門的な知識・資格を持っていることは、ライターにとって大きな強みだといえる。

(5)業務管理能力

クライアントからの発注には必ず納期がある。いくら良い文章を書けても、納期が守れないようでは信頼を得ることは難しい。納期厳守で仕事に取り組めるよう、スケジューリング能力や調整力など、業務を遂行していくうえでの管理能力が必要である。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

個人が自宅にてフリーライターとして独立する際は、自身のパソコン、仕事用のメールアドレス、スマートフォン等があれば開業は可能であり、特に開業資金は必要としない。
加えて挙げるとすれば、撮影もできれば仕事の幅が広がるため、高性能なカメラ及び三脚等の撮影機器を用意しておくと役立つだろう。

(2)損益モデル

a.売上計画

フリーライターの収入は年収100万円未満から数千万円以上まで大きな幅がある。具体的には、副業として1文字1円のWebライティングを受託して行っているようなケースもあれば、ベストセラー作家となって印税生活をしているようなケースもある。仮に2,000円の著作が印税率5%で100万部売れれば、1億円の売上となる。テレビ・講演等の依頼など、原稿執筆以外の仕事も舞い込んでくるだろう。ただし、これは非常に限られた人気ライターのみである。

一般的には、複数のメディアに連載記事を執筆するなどして定期収入を稼ぐようなケースが基本となるだろう。連載がまとまった段階で書籍を出版したり、講演などを行ったりすることで、臨時収入を得ることもできる。

【収入例】

  • Web記事はPV数によって収入が変動する場合がある。
  • 書籍は出版部数によって収入が変動するほか、過去に出版した書籍の印税等が入る。
  • 講演・メディア出演は自身の専門分野と世間的なトレンドが合えば増加する可能性がある。また、ラジオやテレビ、Web動画等でレギュラー出演できれば定期収入となる。
b.損益イメージ(参考イメージ)

上記a.売上計画に記載の売上高に対する売上総利益及び営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。

  • 標準財務比率は「他に分類されない専門サービス業」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
  • 経営者の給与は労務費として原価に含まれる。

(3)収益化の視点

フリーライターとして生活していくためには、Webや書籍、雑誌、広告等、様々な執筆媒体での仕事を組み合わせていくことが重要である。仮にベストセラー作家となることができれば、書籍執筆一本で食べていくことが可能だが、多くのライターは、複数の媒体で並行して原稿執筆しているのが実情である。

また、原稿執筆以外にも、ライターとして収入を得る方法は複数挙げられる。例えば、企画や編集、校正、取材など、執筆に付随する業務を実施するという方法である。交渉次第ではこうした業務工程ごとに収入を得られる場合もある。

加えて、写真撮影のスキルがあれば、ライターとして大きなポイントとなる。雑誌にしろWebメディアにしろ、写真は記事にとって非常に大きな要素のひとつであり、競争力を高められるだろう。

そのほか、テレビやラジオ、Web上の動画配信サイトなど、映像メディアへの出演も、ライターとしての収入源のひとつといえる。ある分野についてのまとまった文章が書け、それが多くの読者に読まれているということは、その分野についての知見をもっており、かつ、それを魅力的に語れるということである。こうしたスキルは、映像メディアでも生かすことができる。特に現代は、YouTubeなどWeb上の動画配信サービスも増えてきており、アウトプットの場は広がっている状況にある。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

掲載日:2022年8月