起業マニュアル

仕入品を管理するには

販売・仕入管理の意義を明確にする

販売・仕入部門が抱える問題点

企業には顧客満足の観点から、多頻度小口の注文やサービス時間延長の要請への対応など、販売・仕入業務の高度化が求められています。また、商品に対する要求も、価格、品質ともに厳しくなっています。
このようなことを背景に、各企業における販売・仕入部門において、次のような問題の発生が懸念されるようになっています。

効率的な業務運営がなされていないことから品切れを生じ、販売機会の損失を招く

業務の複雑・煩雑化で手間が増大し、コストが増加する

各業務機能が発揮されていないことによるリスクが顕在化する(売掛金の回収不能、過剰在庫、顧客・仕入先とのトラブル増加など)

販売・仕入管理の意義

顧客のニーズはたえず変化しており、近年その変化のスピードはいっそう上がっています。ニーズに対応し顧客が満足する商品を提供し続けるためには、販売や仕入業務の体制を常に変革していく必要があります。これを怠ると前述したような問題が顕在化し、自社の経営を危ういものにすることになりかねません。
こうしたことを避けるための出発点は、販売・仕入管理の意義を明確に認識していくことです。

販売・仕入管理の意義は、顧客満足を主眼におきつつ、
自社の適正利益を確保する業務システムを構築し、不断の改善を実行していくこと

にあります。したがって、

顧客ニーズの把握とそれに見合った商品の提供

効率的な商品(資本)投下にともなう適正利益の確保

販売機能、在庫機能、仕入機能の連携

を基本に据え、改善点を見つけていくことが大切です。

販売・仕入管理の基本をチェックする

販売・仕入管理のチェックのスタートとして、「5つの適正」により商品が提供されているか、各業務機能が全体のなかで十分に機能しているかをチェックします。

販売・仕入管理の基本(5つの適正)

最適な販売・仕入管理とは、最適な商品を適切な業務運営に基づき顧客に提供することです。
これを行うためには、まず、次の「5つの適正」を実現することが必要です。

A.適正商品

顧客の求める商品、顧客の欲求に適合した商品のことです。商品の種類、デザイン、品質、色、サイズ、ブランドなどに配慮する必要があります。

B.適正場所

店舗の立地条件と売場構成などの販売場所が、もっとも重要な要件になります。また、商品をストックする場所や仕入れを行う場所も大切です。

C.適正時期

顧客の求めようとする時期にタイミングよく提供することが重要です。そのためには、販売と仕入のタイミングを調整する必要があります。

D.適正数量

顧客の求める商品の量を確保し、適切な品揃えを実施することです。つまり、品切れを防ぎ、かつ過剰在庫にならない適正な数量を管理する必要があります。

E.適正価格

顧客の求めやすい販売価格の実現を意味します。そのためには、業務を合理化して販売までにかかる費用を削減したり、仕入価格をできるだけ安くしていくことが大切です。

販売・仕入業務の連携をチェックする

販売・仕入業務はそれぞれ独立したものではなく、以下の概念図のように有機的なつながりをもっています。各業務間は、伝票やコンピュータ上のデータ、あるいは担当者間の連絡によって情報伝達されることにより、スムーズな業務運営がなされます。

図式化して自社における業務の体系を明らかにし、業務全体をみながら、各業務が必要な情報伝達手段により有機的に連動しているかどうかをチェックする必要があります。

各業務間の連携がうまくいっていない場合は、こうしたチェックで「問題のありどころ」の目星をつければ、各業務のどこにどのような問題があるのかを知る手がかりとなるでしょう。
そこで、次のステップとして、次章以降からは、販売・仕入業務を機能ごとに分解し、チェック項目を明らかにしていきます。

販売管理業務をチェックする

ここで言う販売管理業務は、見積書の提示、商品の受注・出荷から売掛金の回収までの一連の業務をその範囲とします。以下に、業務ごとのチェックポイントを説明します。

受注管理業務

(1)見積もり管理

契約・受注する前に顧客に見積書を提示する場合もあります。ここで的確な見積もりが提示できないと、販売機会を損なったり、注文を受けても適正利益の確保ができなくなったりします。
以下に、見積もり管理の主なポイントを紹介します。

□見積書の書式は全社で統一され、納入期限や取引条件などの必要情報が盛り込まれている

□見積書が適切に管理され、提示後の受注の成否が把握されている

□見積書を提示する際の決裁権限がルール化されている

□顧客の属性(親密度、規模など)や取引金額に応じた価格設定・条件設定など柔軟な見積もり提示がされている

(2)受注方法

実際の受注が顧客と自社の状況に応じ適切な方法で実行されているかをチェックします。
具体的な受注方法としては、次のようなものがあげられます。

<受注方法>

電話、FAX、電子メール、ホームページ、EOSなど専用通信を利用した受注

自店での受注

営業マンなどによる顧客訪問の際の受注

卸売市場や展示会での受注

カタログや広告媒体を使用しての受注

代理店や商社など代理業者を通じての受注

(3)出荷業務

受注後、すみやかに出荷指示や在庫の引き当てを行い、確実に商品を出荷する仕組みができあがっているかを確認します。また、分割出荷など、必要に応じてきめ細かい出荷が行われているかをチェックします。

売掛金管理

(1)売上管理

売上基準が自社内で統一されているかどうかは、自社の財務管理の適正化を図るためだけでなく、販売業務の標準化を進めていくうえでも重要なことです。売上基準としては、「受注基準」、「納品基準」、「検収基準」などがあり、いずれかに統一することが必要です。

(2)請求管理

販売業務は、顧客へ代金を請求し、入金を確認できた時点で一連の業務が完結します。入金がなされなければ、自社にとって多大な損失を招くことになります。それを防ぐためには、次の体制がとられていることが必要と考えられます。

□売上処理に連動した請求書が発行されており、所定の手続きにより顧客の手元に送られている

□未入金状況が適宜把握でき、督促処理が適切な方法で実施されている

□入金管理が財務管理、特に資金繰り管理に連動している

仕入管理業務をチェックする

自社の利益をもたらす商品を仕入れるためには、仕入計画から仕入実務、仕入体制まで、幅広い管理が必要になります。

仕入計画

(1)商品選定

顧客ニーズはたえず変化するものであり、商品選定は、次のような過去の販売記録をベースとした基準に、顧客ニーズを先取りするものを加味して決定しているかをチェックすることになります。

(a)売上高基準  :売上高の大きい種類の商品を仕入れる

(b)商品回転率主義:売れ足の早い商品を仕入れる

(c)売上利益率主義:利益に貢献している商品を仕入れる

(d)交差主義   :上記"(b)×(c)"の大きいものを仕入れる

(2)仕入先の選定

適切な商品を提供していくためには、顧客管理と同様、仕入先の管理も大切です。この管理が不十分であると、仕入先の数が野放図に増加したり、トラブルの原因にもなります。
仕入先の選定は次の条件などにより、適正な数に絞り込む必要があります。

<商品面>

□顧客ニーズにマッチする商品か
□品質は確かか
□価格は適正か
□支払い条件に問題はないか

<サポート面>

□商品の情報提供力はあるか
□プロモーションによる援助はあるか

<経営的信用面>

□経営者・担当者は信用できるか
□物流機能などの業務信頼性はあるか

(3)仕入方法

仕入れる商品や仕入先に応じて、仕入方法についても見直すことが大切です。仕入方法については、前章の受注方法と同様、適切な商品をタイムリーに仕入れられる方法を採用しているかを確認します。
また、仕入れを合理的に行い、仕入価格を積極的に引き下げるという観点から、次の仕入方法が検討されているかもチェックします。

大量仕入
文字どおり一度に大量に仕入れる方法で、大量取引による割引や仕入経費の節減が期待できます。しかし、在庫過多により効率の悪化を招くおそれもあります。

随時仕入
商品の回転が早くなり、在庫の減少が実現できます。しかし、手間の増大や品切れ防止策が必要となります。

共同仕入
他業者と共同仕入体制を設置することで、大量仕入のメリットを享受でき、多角的な仕入活動が実現できます。

集中仕入
本部などに仕入を集中することで、大量仕入を可能にします。しかし、各店の特性を活かした仕入ができにくくなります。

仕入実務

(1)発注業務

発注業務は、商品の品切れ防止と過剰在庫の回避を念頭におき、実施されなくてはなりません。そのためには、自社において「補充発注システム」を構築する必要があります。
補充発注システムとは、販売や在庫の状況に応じて、商品発注を「いつ、どのくらいの量を、どこへ」発注するかを業務上、標準化・ルール化したものです。
たとえば、商品の特性により、

定量発注法:在庫がある一定水準に減少してきたら前もって決めてある一定量を自動的に発注

定期発注法:一定の発注周期のもと、必要な量をその都度決めて発注

のように、発注方法の基準を設定しておきます。
また、通信回線を利用して店舗や本部と仕入先との間で受発注データをオンラインで交換するEOS(Electronic Ordering System:電子補充発注システム)を導入し、コンピュータシステムと連動させ、仕入業務の効率化を図ることも大切です。

(2)入庫業務(商品の受領と検品)

商品の着荷・納品が行われた後、商品の検品を行います。検品の意義は、適正な商品を消費者(取引先)に提供することです。正確かつ厳重な検品と受入商品の管理を手続きどおりに行うことが大切です。
このとき、不良品があった場合、正当な返品(正当な理由がなく返品することは、不公平な取引方法として禁じられています)として仕入先へ送り返します。
また、良品については、適切な商品保管を行います。

(3)買掛金の管理

掛けでの取引の場合、商品の入庫が済み検品が終了すると、その商品に対し買掛金が発生します。財務担当者は、資金繰り管理と連動させ、支払いの管理を滞りなく実施することが大切です。また、期日どおりにきちんと支払うことは、仕入先との良好な関係を継続していくうえでの大原則となります。

仕入体制

(1)仕入組織の種類

自社の仕入業務の特徴に応じた仕入組織が編成されているか、その都度チェックしていく必要があります。
たとえば、地域の特殊性が強い場合は「販売地域別の仕入組織」を、商品の専門性が高い場合は「商品系列別の仕入組織」を編成することになります。

(2)仕入担当者(バイヤー)に必要な能力

これまで述べてきた各種の施策を確実に行っていくためには、仕入担当者には、次のような能力が求められます。

顧客の欲求に関する知識とその適応性

品揃えに対する知識とその計画性

商品価値に対する知識とその創造力(価格、品質、デザインの設計力)

商品管理に関する計数の理解力と統制力

在庫管理業務をチェックする

在庫管理は、仕入から販売までのクッション役を果たし、適正な商品管理を行う業務として、次のようなチェックが必要です。

在庫管理の方法

在庫は、少な過ぎると品切れを起こし、販売機会の損失を招きます。また、多過ぎると保管費の増大が心配されます。このように、在庫管理は二律背反の性格をもっています。また、在庫管理は仕入管理と販売管理を繋ぐものであり、商品を中心に見たとき、業務運営上の中核をなすものです。
これらのことから、在庫管理は非常に重要な業務で、一般的には次にあげる2つの面からチェックする必要があります。

ユニット(数量)コントロール
数量単位により個々の商品の動向を管理するものであり、ダラーコントロールと併用して、日々の受注・発注業務に利用する。

ダラー(金額)コントロール
金額により全商品の動向を把握するものであり、在庫の投資効率をチェックする。

棚卸し

棚卸しの目的としては、

帳簿棚卸しと現品棚卸しの実数合わせ

過剰商品、死に筋商品などの実態把握

商品減耗などの正確な把握と管理

在庫管理方法に落ち度がないかの確認

期末決算のための在庫資産の評価

があげられ、これらの目的に応じた棚卸しが実施されているかを確認します。

最終内容確認 2018年2月