業種別開業ガイド
通所リハビリテーション(デイケア)
2026年 1月 7日
トレンド
通所リハビリテーション(デイケア)は、介護保険制度に基づき、要支援者や要介護者が医師の指示のもと、日帰りでリハビリ専門職による機能訓練を受けられる施設である。高齢化の進行により需要は底堅く、比較的安定した収益基盤を持つ一方、人材確保の難しさや制度改定への対応といった課題を抱える業種でもある。
まず、通所リハビリテーションの主な利用者となる高齢者の人口推移を見てみたい。日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少しているが、65歳以上の人口は現在まで増加傾向にあり、今後も3,500万〜4,000万人の規模を維持すると予測されている。
通所リハビリテーションは、介護保険制度におけるサービスの中で「居宅サービス事業所」に分類される。令和3年度の介護保険給付における利用率は3.6%で、総費用額は4,686億円にのぼる。令和4年時点の介護保険請求事業所数は8,050件で、令和2年の8,188件からわずかに減少しているものの、平成中期以降は全体として緩やかな増加傾向にある。
また、事業所数の推移と連動するように受給者数も変動しており、令和4年には約58万人が介護保険を利用して通所リハビリテーションを受けていることが分かる。
令和に入ってからは事業所数・利用者数ともに微減傾向がみられるが、これは介護報酬改定の影響によるものとされている。とりわけ近年は、「自立支援」や「重度化防止」が介護報酬の加算取得において重視されるようになり、単なる機能訓練だけでなく、栄養改善、口腔機能向上、社会参加支援といった高度で包括的なプログラムへとシフトする事業所も増えている。通所リハビリテーション市場は、量的拡大の段階から「質的競争」へと移行しつつあるといえるだろう。
近年の通所リハビリテーション(デイケア)事情
従来、通所リハビリテーションは、食事・入浴・機能訓練を包括的に提供する長時間滞在型のサービスが主流であった。しかし近年は、利用者ニーズの多様化や介護報酬制度の評価基準の変化により、より専門性や地域連携が求められる時代へと移行しつつある。以下に、現在の通所リハビリテーションにおける主な傾向を整理する。
短時間型サービスの拡大
近年、要支援1・2および要介護1・2を中心に、1〜3時間の短時間利用が増加している。「在宅生活を維持しながら、必要な機能訓練だけを効率的に受けたい」というニーズの高まりが背景にある。自治体の介護予防事業とも親和性が高く、短時間利用は今後さらに拡大することが予想される。
専門特化型サービスの増加
リハビリ専門職による個別機能訓練、認知症予防、口腔機能改善、栄養指導など、専門性の高いサービスが増えている。介護報酬改定により「自立支援」と「重度化防止」が重視されるようになったことが主因である。医療機関やケアマネジャーからの紹介を得やすく、事業所の差別化にも直結する。
地域包括ケアとの連携強化
地域包括ケアシステムは、高齢者が住み慣れた地域で「自分らしい生活」を継続することを支える仕組みである。その中で通所リハビリテーションは、在宅生活を支える中間支援拠点として重要性が高まっている。病院から在宅への移行期におけるリハビリの受け皿となるほか、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所との連携により、ケアプランの実行拠点としての役割も強化されている。近年は医師、歯科医師、管理栄養士などと連携した「チームアプローチ型デイケア」も注目され始めている。
ICT(情報通信技術)やデータ活用の一般化
介護DXの進展により、リハビリ記録やバイタルデータ(※)の電子化が広がっている。利用者や家族、ケアマネジャーとのデータ共有が容易になり、利用者の機能改善度の可視化が進むことで、サービス品質の向上や加算取得にもつながっている。
(※)体温、血圧、脈拍、呼吸などのバイタルサイン(生命兆候)を数値化したデータ。
事業環境の変化
こうした追い風がある一方で、事業所数は横ばいから微減傾向にあり、競争は激化している。人材確保の難しさ、送迎コストの上昇、介護報酬改定による収益性の圧迫など、事業運営上の課題も増している。
通所リハビリテーション(デイケア)の仕事
通所リハビリテーションの役割は、リハビリテーションと生活支援を組み合わせ、利用者が自宅での生活を継続できるよう支援することにある。ここでは、一般的なケースを想定し、その主な仕事を整理する。
利用者支援
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士による機能訓練を中心に、個別リハビリや集団体操を通じて身体機能の維持・改善を図る。また、看護職員によるバイタルチェックや服薬管理を行い、利用者の健康状態を継続的に見守る。さらに、食事・入浴・排泄などの生活動作を支援することで、利用者が安心して過ごせる環境を整える。
生活と社会参加の促進
生活の質を高める取り組みも重要である。レクリエーションや趣味活動を通じて利用者同士の交流を促し、孤立を防ぐとともに、地域活動への参加を後押しする。
家族および介護者への支援
利用者の家族や介護者に対しても、必要に応じたケアや相談支援を行う。生活上の困りごとや介護の悩みに耳を傾け、医療や福祉の専門職につなぐ役割も担う。
運営と安全管理
利用契約の締結や個別リハビリ計画の作成、記録管理、介護保険請求などの事務業務も欠かせない。さらに、事故防止マニュアルや感染症対策の徹底、送迎体制の安全管理など、事業所運営におけるリスク管理を行う。スタッフが安心して働ける環境づくりも重要である。
地域との連携
通所リハビリテーションは、地域包括ケアの一翼を担う存在であり、地域連携は欠かせない。病院・診療所と連携して退院後のリハビリを継続し、ケアマネジャーや地域包括支援センターと協力してケアプランを実行する。地域の医療・介護ネットワークの中で役割を果たすことが求められる。
事業計画と収支管理
利用定員、稼働率、介護報酬単位を基に収支シミュレーションを行い、安定した経営基盤を築くことが必要である。介護報酬改定や人件費の上昇といった外部環境の変化に対応する柔軟性も求められる。
通所リハビリテーション(デイケア)の人気理由と課題
要支援者や要介護者、そしてその家族にとって、通所リハビリテーションは欠かせない存在である。利用者の生活を支える重要な役割を担うため、非常にやりがいのある事業である一方、医療機関としての厳格な基準を満たす必要があるなど、この業種特有の難しさも多い。公的支援を受けられる点は大きな魅力だが、その内容が制度改定で変わりやすい点にも注意が必要である。
人気理由
- 安定した収益基盤:介護保険制度に基づくサービスのため、利用者数を確保できれば収益が安定しやすい。景気変動の影響を受けにくい点も魅力である。
- 高齢化による需要の底堅さ:高齢化率の上昇とともに、リハビリや介護予防のニーズは今後も継続的に見込める。市場は長期的に安定している。
- 参入障壁の高さ:医療機関としての設立が必要なため開業ハードルが高く、競合が急増しにくい。一定の地域では競争環境が安定している。
- 差別化戦略の余地:短時間型や専門特化型(認知症予防、口腔機能改善、栄養改善など)の提供により、競合との差別化がしやすい。地域ニーズに応じた独自モデルを構築できる。
- 地域包括ケアの中核的役割:医療機関やケアマネジャーとの連携を通じて地域での存在感を高めやすく、紹介や口コミによる利用者獲得にもつながる。
- 既存資産を活用できる:医院や診療所の空きスペースや余剰人材を活かして開業するケースが多く、初期投資を抑えて事業を展開できる。
- 人や地域に役立つというやりがい:利用者の生活機能維持や向上を支え、地域の健康寿命に寄与する重要な役割を果たす。やりがいの高さはこの業種を選ぶ大きな動機になる。
課題
- 人材確保の難しさ:理学療法士、作業療法士、看護師などの専門職の採用は地域によっては非常に難しく、人件費も高水準である。
- 指定取得のハードルの高さ:医師1名の配置をはじめ、利用者10名あたり専門資格者1名の配置が必要など、医療機関としての厳格な基準を満たさなければならない。
- 制度依存リスク:介護報酬改定のたびに、単価引き下げや加算要件の厳格化が起こることが多く、既存の収益モデルの見直しが必要になる。
- 初期投資と運転資金の負担:物件取得や改修、設備投資、送迎車両など、初期費用が大きい。また、介護報酬の入金がサービス提供月から2か月後になるため、開業初期は運転資金の確保が課題となる。
- 競争環境の激化:都市部では事業所が飽和気味で、利用者獲得競争が厳しい。差別化ができない事業所は稼働率が伸び悩む。
- 物価や人件費の高騰:燃料費、送迎車両、備品、専門性の高いリハビリ機器などが高騰しており、人件費も上昇傾向にある。
開業のステップ
通所リハビリテーション開業で最も高いハードルは、指定申請の要件を満たすことである。また、医療・リハビリ職は転職ニーズが高いため、定着施策を含めた人材戦略も欠かせない。
STEP 1:事業コンセプトの決定
- ターゲット層(要介護・要支援、短時間型、専門特化型など)を明確にする。
- 地域ニーズに合わせて、長時間型・短時間型・専門型などサービスモデルを設計する。
- 専門性、地域連携、独自プログラムなど差別化ポイントを定める。
STEP 2:市場調査と立地選定
- 地域の高齢化率、競合状況、医療・介護事業所との位置関係を調べる。
- 送迎範囲を想定し、効率的な立地を選ぶ。
- 既存医院・診療所の空きスペースの活用も検討する。
STEP 3:資金計画の立案
- 物件取得・改修、設備、送迎車両、広告宣伝などの初期費用を見積もる。
- 人件費、光熱費、消耗品費、保険料など運転資金を算出する。
- 公庫融資や自治体補助金の活用を検討する。
STEP 4:法人設立と指定申請準備
- 医療法人、社会福祉法人、株式会社など、事業形態を決定する。
- 定款や登記を整備し、介護保険事業者指定申請に必要な書類を準備する。
- 自治体の介護保険課と事前協議を行い、要件を確認する。
STEP 5:人材戦略の策定
- 管理者、医師(管理者と兼務可)、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護職員、介護職員、生活相談員など、事業所に必要な人員を洗い出す。
- 採用計画を立て、求人媒体、人材紹介、地域ネットワークを活用して採用する。
- 定着を意識した研修制度やキャリアパスを設計する。
STEP 6:施設整備と設備導入
- 面積基準(利用定員×3平米以上)やバリアフリー設計などの条件をクリアする。
- リハビリ機器、浴室、静養室、相談室、送迎車両などを準備する。
- ICTシステム(介護記録・請求ソフト)などを導入し、業務を効率化する。
STEP 7:指定申請と現地調査
- 自治体に介護保険事業者指定を申請する。
- 書類審査と現地調査を受け、基準適合を確認する。
- 指定通知を受けた後、正式に事業開始。
STEP 8:開業準備と広報活動
- 利用者募集を実施。ケアマネジャーへの営業や、地域包括支援センターと連携する。
- パンフレットやWebサイトの作成、体験会の実施など、広報戦略により顧客を獲得する。
- 利用契約書や重要事項説明書など必須書類を準備する。
STEP 9:開業・運営開始
- サービス提供を開始。利用者のアセスメント(把握・分析)を行い、個別リハビリ計画を作成する。
- 職員会議や研修を通じてサービス品質の向上に努める。
STEP 10:継続的改善と拡張戦略
- 利用者満足度調査や機能改善データを収集し、サービス改善に活用する。
- さらなる加算取得(個別機能訓練加算、口腔・栄養改善加算など)を検討する。
- 将来的には訪問リハビリや他介護サービスとの複合展開も視野に入れる。
通所リハビリテーション(デイケア)の開設および運営の要件
通所リハビリテーションを開設するためには、法人格を取得し、指定条件を満たした上で、都道府県や市町村に介護保険事業者の指定申請手続きを行う必要がある。
※詳細は各自治体の申請要領を確認してください。
開業資金と運転資金の例
通所リハビリテーションの開設方法には、新規に施設を立ち上げるケースと、既存施設を転換するケースの2種類がある。ここでは、実例が多い「既存施設の転換」を前提に、開業資金と運転資金の一例を示す。なお、新規施設を設立する場合には、物件取得費や駐車場の整備費などが別途必要となるため、地方都市であってもその費用として1,000万円強を見込んでおくのが一般的である。
<想定ケース>
利用者数:1か月あたり60名(6名以上のリハビリ担当職員が必要)
利用費:のべ1名あたり8.5万円の利用料
立地:医療機関の余剰スペースを利用、駐車場は医療機関に付属のものを利用
雇用:管理者兼医師の開業者とリハビリ担当職員8名、事務スタッフ1名
資金:2,000万円を公庫などのローンで補填する
開業のための資金調達には、日本政策金融公庫の新規開業資金(限度額7,200万円)などが利用できる。銀行よりも有利な条件で借り入れができるため、まずは相談してみることをおすすめする。また、各地方自治体が独自の融資制度を用意しているケースもあるため、都道府県庁や市区町村役場に確認してみるとよい。
売上計画と損益イメージ
前項「開業資金と運転資金の例」と同じ条件で、売上計画と損益イメージの一例を示す。厚生労働省の資料によれば、1事業所あたりの月間平均利用者数は55〜60人、1人あたりの月額利用料は77,000〜85,000円である。ここでは、利用者数を60人、利用者単価を85,000円と設定し、損益イメージをシミュレーションした。
支出次第でマイナスの収支となっているが、実際に既存の通所リハビリテーションでも赤字の施設は見られる。事業単体で黒字化していくためには、利用人数の確保とともに、加算要件を満たしていくことが基本になる。加えて、近年は短時間滞在型や専門特化型での利用が増えているため、稼働率を上げる施策も必要になるだろう。どのような経営方針でも、通所リハビリテーションの運営は人件費がコストの大半を占める。そのため、人材の採用と定着は経営上の重要な課題である。
この事業は、これからも減る見込みがない高齢者を対象とする安定的な事業であることに加え、医師やケアマネジャーから選ばれる存在になることで、さらに利用者数や稼働率を向上できる。利用者やスタッフ、連携先の満足度を高める施策を積み重ねていくことで、信頼を獲得し、選ばれる事業所を目指したい。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)