業種別開業ガイド

ソムリエ

2022年 5月13日

トレンド

(1)日本ソムリエ協会による認定資格

「ソムリエ」とは、ワインをはじめとした飲料及び飲料と食事の組み合わせの専門家である。国家資格ではないが、民間資格としては一般社団法人日本ソムリエ協会による認定資格が一般的に知られており、この資格が求人において応募条件に掲げられているケースもある。

(2)ワイン消費量は平成30年間で3倍以上に

キリンホールディングス株式会社によると、ワインの消費量は平成の30年間で3倍以上に増加している。酒類のなかでマイナーな存在だった状態から、平成時代を経て民間に定着したといえる。近年の消費量は、大きな数値の上下はなく安定している状態である。
国税庁の酒税課税関係等状況表によると、2019年のワイン(果実酒)の年間消費量は352,549キロリットルとなった。

(3)懸念されるコロナの影響

一般社団法人日本フードサービス協会によると、1人当たり外食支出の増加、訪日外国人の増加、消費増税などにより、2019年の外食産業の市場規模は26兆439億円、前年比1.3%の増加となった。ソムリエに関連すると思われる「飲食店」の市場規模は14兆5,441億円、「宿泊施設」は2兆8,979億円となり、いずれも前年比1~2%増加している。
しかしながら、同協会の2020年の外食産業の市場規模の速報値は、売上前年比84.9%と大きく減少している。この数値は、同協会が調査を開始した1994年以来で最も大きな下げ幅という。
新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言の発令等によって、飲食店は酒類の提供停止や営業時間の短縮など、営業の自粛要請を受けた。コロナ禍の収束まで通常営業が困難な状況は変わらないと思われる。

ビジネスの特徴

ソムリエのキャリアについては、基本的にはレストランやホテルなどのソムリエ担当者として勤める形態が一般的である。ワインは世界中で楽しまれている飲料であり、ソムリエ資格の認定を行っている国は世界各国にあるため、海外勤務もキャリアのひとつとして考えられる。また、ソムリエコンクールなどで優秀な成績を収めれば、ソムリエとしての仕事だけでなく、文筆業や講演など幅広い仕事が舞い込む可能性もある。
一方、ソムリエとして開業をめざす場合は、基本的には飲食店の経営が想定される。

開業タイプ

(1)個人経営店舗

個人で独立した店舗をかまえる業態。店舗設立費やスタッフ集め、出店場所の選択等々、開業・運営にまつわる業務を自ら行う必要があるが、自身が営業したいと考える店舗を思いどおりにつくることができる点が大きな特徴である。
ビジネスモデルとしては、実店舗に来店した顧客へのサービス提供が一般的である。また、テイクアウトへの対応をはじめ、会員制や月額定額制などの特殊な料金体制を採用している店舗もある。

(2)飲食店、ホテル等への勤務

個人での開業とは異なるが、飲食店やホテルなどのソムリエ担当として勤務することは、ソムリエとして生計を立てていくための一般的な方法である。
個人経営の店舗ほど自由に取り組むことは難しいが、ソムリエの仕事は専門的な知見を活かした接客サービスであり、キャリアを積み重ねるのに丁度よい。より格式の高いレストランやホテル等への転職、あるいは、よりカジュアルな店舗に転職するなど、自身に合ったキャリアを形成していくことも可能である。

開業ステップ

(1)開業のステップ

個人経営の店舗を開業する場合、開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

(2)必要な手続き

イ.日本ソムリエ協会の資格認定

ソムリエの資格は日本ソムリエ協会の認定資格が一般的である。
受験資格、受験料は下記のとおり(2021年8月時点、詳細は日本ソムリエ協会公式Web等を参考のこと)。

【受験資格】
以下の職務を通算3年以上経験し、第一次試験基準日においても従事し、月90時間以上勤務している方
◆酒類・飲料を提供する飲食サービス
◆酒類・飲料の仕入れ、管理、輸出入、流通、販売、製造、教育機関講師(*)
◆酒類・飲料を取り扱うコンサルタント業務(*)
* 注1:教育機関講師またはコンサルタント業務従事者は、全収入の60%以上をその従事より得ていることが条件。前年の確定申告書(税務署印押印済)、該当事業所で発行された前年の源泉徴収票などの提出が必要となる。

【受験料】※すべて税込価格
一次試験から受験:1回受験29,600円、2回受験34,440円(2回まで受験可能、後からの受験回数変更は不可のため、1回目で合格した場合も2回目の返金はなし)
二次試験から受験:14,210円
三次試験から受験:7,100円

ロ.飲食店経営にかかわる資格

個人で飲食店を経営する場合は、以下の資格が必要となる。

・食品衛生責任者
飲食店の開業においては必須となる資格。各地域の食品衛生協会にて講習を受講することで取得できる。

・防火管理者
収容人数30名以上の飲食店の場合に必要となる資格。日本防火・防災協会が全国各地で開催する講習を受講することで取得可能。

・飲食店営業許可申請
開業にあたり、所轄の保健所に営業許可の申請が必要となる。店舗の設備面においての決まりがあるため、店舗の着工前に保健所に相談に行くことが推奨される。

・深夜酒類提供飲食店営業開始届出書
酒類をメインに提供する飲食店で、午前0時以降も営業する場合は、深夜営業の許可申請も必要となる場合がある。申請先は各地域の警察署である。

ソムリエコンクールについて

日本ソムリエ協会では、3年に一度、ソムリエとしての知識や技術を競う「全日本最優秀ソムリエコンクール」を開催している。2020年に行われた第9回コンクールでは、全国で120名のソムリエがエントリーし、ワインをはじめとしたあらゆる飲料に関する知識・技術・語学・資質などが国際基準で審査された。
ソムリエは、こうしたコンクールに参加して高い成績を収めることにより、幅広いキャリアを開いていくことが可能である。
加えて、ソムリエは国際ソムリエ協会という国際組織があり、世界各国で認定資格が設けられている国際的な資格でもある。そのため、国際的なキャリアを歩んでいくことも十分に可能である。国際ソムリエ協会は3年に一度「世界最優秀ソムリエコンクール」を開催しており、ここで優秀な成績をおさめればキャリアを開く大きな機会となるだろう。かつて日本人が優勝したこともある。
もちろんコンクールの優勝は一握りの方に限られたことではあるが、こうした国際的な活躍の道があることは、ソムリエという業種ならではの特徴のひとつである。

必要なスキル

・ワイン、料理に関する知識

当然のことながら、ワインをはじめとした料理全般に関する広範な知識が必要となる。日本ソムリエ協会の試験では第一次試験として筆記試験があり、ワインの種類や銘柄、ブドウの品種等々の広範にわたる知識が問われる。

・接客スキル

接客もまたソムリエにとって求められる技術のひとつである。料理に合わせたドリンクを提供することはもちろん、顧客とコミュニケーションをとり、顧客の好みに合わせた料理とドリンクの組み合わせをサービスすることが重要となる。
日本ソムリエ協会の試験においても、実技試験において接客マナーが審査対象となっている。

・在庫管理(ワインの仕入れ・貯蔵 等)

ソムリエは接客のプロとして顧客にサービスを提供するだけでなく、ワインの仕入れや貯蔵なども担当業務に含まれるケースが多い。そのため、在庫管理などの管理業務についても高いスキルが求められる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

個人経営店舗の開業を一例として示す。ワインバーのような形式の小規模な店舗を想定している。ここでは内装費等も含めた事例を想定しているが、廃業した店舗を「居抜き」として引き継ぐことで、内装費などを節約することも可能である。

【参考】店舗面積約10坪(賃料15万円)のワインバーを開業する場合の必要資金例

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

店舗の立地や業態、規模などの特性を踏まえて、売上の見通しを立てる。ここでは営業日数×客数×客単価で試算した。席数は少なめ(10~20席)の小さな店舗を想定しているため、客単価を高めて売上増加を図る計画である。

売上計画表

b.損益イメージ(参考イメージ)

損益イメージ表

※標準財務比率は「バー、キャバレー、ナイトクラブ」に分類される企業の財務データの黒字企業平均値を掲載。
出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

(3)収益化の視点

個人店舗を経営する場合、売上については「席数×回転数×客単価×営業日数」が基本的な公式となる。客単価が低ければその分席数や回転数を上げる必要があり、席数や回転数が低ければ客単価を上げる工夫が必要となる。席数や回転数は個々の顧客へのサービスの質にもかかわる点といえるため、店舗のコンセプトともかかわる箇所といえる。店舗設計段階から考慮すべきポイントである。

ソムリエというスキルの特性上、自身のスキル次第では、会員制、定額料金制など、特殊な料金体系によって収益を上げるビジネスモデルも考えられる。

個人での店舗経営ではなく、他店舗で勤務する場合は、ワインのスペシャリストとして、ワイン全般に関する専門知識を期待されるため、資格取得後も幅広く知識習得に努めることが必要である。キャリアアップをめざしていくには、ワインに関する新たなサービスやメニューの考案など、企画力も磨いていくことで市場価値を高めていけると考えられる。

また、日本ソムリエ協会のソムリエ資格は、よりグレードの高い資格も用意されている。そうした上位資格の取得が報酬アップに役立つ可能性もある。

そのほか、国内や世界のソムリエコンクールなどで優秀な成績をおさめるなどして技量が広く認められれば、飲食業に限らず、執筆業や講演など活躍の場は広がっていくと考えられる。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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