業種別開業ガイド
サービス付き高齢者住宅
トレンド
「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は、60歳以上か要支援・要介護の単身・夫婦世帯が居住できる見守りサービス付き賃貸住居である。平成23年(2011年)の「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正により、従来の「高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)」と「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」「高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)」が一本化され創設された。
(1)増え続けるサービス付き高齢者向け住宅
65歳以上の高齢者に占める単身または夫婦のみ世帯の割合が年々増加するのと歩調を合わせ、サービス付き高齢者向け住宅は、2011年の登録開始以降、増加し続け、2018年末には7,193棟、23万8289戸が登録されている。
国も、超高齢化社会の到来に備え、地域が一体となって医療や介護を提供する「地域包括ケアシステム」の構築に向け、施設整備費用を補助するなどして、普及を後押ししている。
(2)大都市や高齢化の進む地域を中心に展開
サービス付き高齢者向け住宅の登録状況を地域別に見ると、北海道、首都圏、愛知、大阪、兵庫、広島、福岡などでの登録数が多い。大都市や高齢化の進む地域での登録が多いと言える。
業種別には、介護系事業者が最も多く、次いで、医療系事業者、不動産・建設業者などからの参入も多い。
サービス付き高齢者向け住宅事業の特徴
サービス付き高齢者向け住宅の整備にあたっては、施設やサービスに関して以下の点に留意する必要がある。
<規模・設備>
- 各専用部分の床面積は、原則25㎡以上が必要
(ただし、居間、食堂、台所そのほかの住宅部分が高齢者の共同利用に十分な面積を有する場合は18㎡以上) - 各専用部分に、台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備えたものであること
(ただし、共用部分には、共同利用に適した台所、収納設備または浴室を備え、各戸に備える場合と同等以上の居住環境が確保される場合は、各戸に台所、収納設備または浴室を備えずとも可) - バリアフリー構造であること
- 手すりの設置
- 車椅子の通れる広い廊下幅の確保
<見守りサービス>
ケアの専門家(※)が少なくとも日中、建物内に常駐して、安否確認サービスと生活相談サービスを提供する。実態としては、24時間常駐するケースが多く、次いで、日中のみ常駐し夜間は緊急通報サービスで対応している。
(※)ケアの専門家:社会福祉法人・医療法人・指定居宅サービス事業所などの職員、医師、看護師、介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、介護職員初任者研修課程修了者
<その他のサービス>
差別化のため、食事提供、清掃・洗濯といった家事援助、入浴補助などの介護サービスを提供しているところがある。この場合、介護サービス事業者など、サービス提供を行う専門業者へ委託、あるいは自ら許認可を取得して、サービス提供を行う。
サービス付き高齢者向け住宅事業 開業タイプ
サービス付き高齢者向け住宅事業の開業タイプは、不動産の調達方法によって大きく3つのタイプに分けることができる。
(1)サブリース方式
土地所有者にサービス付き高齢者向け住宅用の建物を建ててもらうか、既存建物を改修してもらい、その建物を一括賃借して事業を運営するタイプである。土地の取得費用や建物の建設・改修にかかる初期投資が抑えられるというメリットがある。
(2)土地建物所有方式
自身で保有する土地にサービス付き高齢者向け住宅用建物を建て、あるいは既存建物を改修して、事業を運営するタイプである。建設・改修にかかる多額の初期投資が発生する。
(3)借地方式
土地を借りて、自身でサービス付き高齢者向け住宅用の建物を建て、事業を運営するタイプである。
開業ステップと手続き
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、主として以下の7段階に分かれる。
(2)必要な手続き
サービス付き高齢者向け住宅を開業する場合は、事業者が都道府県・政令市・中核市の登録窓口にて登録申請を行う。登録基準や申請時の提出物などについては、都道府県知事が策定する高齢者居住安定確保計画において独自の基準が設けられている場合があるため、登録窓口で確認する必要がある。
サービスづくりと工夫
サービス付き高齢者向け住宅では、見守りサービスだけではなく、食事提供サービスも行っているところが多い。また、リハビリテーションや家事支援、入浴などの補助、医療サービスなども提供している。
入居者は自立できる人だけでなく、要支援1レベルから要介護5レベルの人たちまでが含まれる。このため、施設内はバリアフリー、必要に応じて手すりの設置、コンロは火を使わない電気式にするなど、高齢者や要介護者に配慮した作りにする必要がある。
必要なスキル
高齢者の見守りサービスを行うため、担当スタッフには医師、看護師、介護福祉士、社会福祉士など、ケアの専門家としてのスキルが求められる。また、見守り以外のサービス(食事の提供、清掃・洗濯などの家事援助、入浴などの補助)を行う場合は、調理師など、他の資格やスキルを要する。
自社のみですべての人材を抱えることは難しいため、医療法人や介護事業者、ハウスクリーニングや家事支援事業者などと提携してサービスを提供しているところが多い。
居住者同士のトラブルや、入居後に高齢者の介護レベルが上がってしまうこともある。このため、トラブル発生時の対処方法や、入居者の介護レベルが上がってしまった場合の処遇なども、あらかじめマニュアルなどで取り決めておきたい。
開業資金と損益モデル
以下は、自己所有物件を使ってサービス付き高齢者向け住宅を運営する場合の必要資金例である。サービス内容は、ケアの専門家が日中施設内に常駐し、見守りサービス(安否確認サービスと生活相談サービス)を提供する(食事などは提供しない)こととする。
(1)開業資金
【参考】:サービス付き高齢者向け住宅(土地建物所有方式)
(2)損益モデル
■売上計画
自社スタッフの能力や規模などを踏まえて、売上の見通しを立てる。
(参考例)サービス付き高齢者向け住宅(土地建物所有方式)
■損益イメージ
(参考例):サービス付き高齢者向け住宅(土地建物所有方式)
- ※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、施設の状況などにより異なります。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)