業種別開業ガイド
フランス料理店
2023年 8月 4日
1. トレンド
飲食業界の中でも常に最先端の技術を用い一つ一つの食材の吟味も徹底されているフランス料理の動向は飲食業界全体のトレンドをも担っている。特に日本のフランス料理店のトレンドは、常にフランス本土の動向と日本の農畜水産物のトレンドを同時に反映しているといっていい。この事情を考え合わせると、近年のトレンドは次の6つが挙げられる。
(1) ベジタリアン・ビーガン対応の定着
フランス本土では、ベジタリアンやビーガンへの対応が増え、これが常識となっている。また、意識的に肉食を減らす「フレキシタリアン」が増えている。その結果、野菜だけを使ったメイン料理も一般化し、存在感を示すようになってきた。これはフランス本土の料理人が、様々な食事スタイルの人々を幅広く歓迎し、新しい料理の可能性を追求する動きの象徴である。
(2) 日本料理とのフュージョン
30年以上前から、日本料理とフランス料理の技法を組み合わせた調理法や、日本食材を活かすことが前提のフランス料理も発展してきた。この傾向は、円安の影響でさらに進展し、日本食材を中心としてフランスのエッセンスや技術を添えて提供することが一般化している。これにより、コストパフォーマンスも向上してきた。これはフランス料理の豊かな歴史と技法と、日本の伝統的な食材と技法との融合による、新しい風味と美学の探求を示している。
(3) 自然派食品への注目
過去十年間で、自然派のワインやチーズ、食材への注目が急速に高まり、このトレンドはフランス料理業界において勢いを増している。ガストロノミーという考え方(食事全般を や芸術のレベルで考えるという概念)と自然派食品への関心は密接に結びついており、そのファンはより熱狂的だ。自然派食品への注目は、料理人たちが食材の品質と持続可能性に対する新たな価値観を追求する結果である。
(4) 調理済み食品の進化
飲食店向けの調理済み食品を製造する技術や、保存技術(冷凍や真空など)が進化している。さらに、コロナ禍によるテイクアウトや通販の需要増加により、調理済み食品の利用が一般化している。これにより、コスト効率の良さと品質の両立が可能となり、一部の料理人だけの技術であった高品質の調理が広く可能となった。
(5) 新しい味覚への注目
分子レベルや味覚の類似性を考慮して、異なる食材を組み合わせて調理する「フードペアリング」や、美味しさを超えた革新的な味わいを提供する料理店が注目されている。これは、料理を新たな表現形式として捉え、伝統的な「美味しさ」の定義を超えた創造性を追求する動きを示している。
(6) 発酵食品の台頭
インフレとエネルギー代の高騰が生活費を圧迫している中、「電気を使わず自然に、安くできる食品加工法」として、長期保存可能な発酵食品に再びスポットライトが当たり始めた。日本でも古くから広く行われてきた、この長期保存可能でエネルギーを必要としない製法が世界的にも評価され、これが外食産業にも定着しつつある。近年では「発酵」をテーマとしたイベントや『発酵を楽しむ』コース料理なども存在する。
2. 近年のフランス料理事情
近年の円安の影響でヨーロッパの食材・ワインが大きく値上がり、ビールや乳製品をはじめとする最もよく使用される原材料が高騰し飲食店のメニュー価格に顕著な影響が出ている。
輸入品 フランス産カマンベールの価格推移
紙容器入り(125g入り)
コロナショック前と比べて30%以上の上昇になっている。
一方で、一部の料理人の調理技術や入手困難な食材の情報が、一般の人々にも広く伝わるようになった。これはインターネットやSNSを通じて多くの人々に情報が届けられるようになったことが大きな要因だ。さらに、過去3年以上にわたる新型コロナウイルスの影響による生活スタイルの変貌も大きい。かつてフランス料理店で楽しんでいた上質な食材やワインが、自宅で楽しむことでコストを驚くほど抑えられることが明らかになった。これにより、フランス料理の特有の敷居の高さが薄れつつあり、より身近になったと言っていいだろう。日曜日にパテ・ド・カンパーニュを作り、キャロットラペを弁当に入れるといった具合だ。
このフランス料理の一般化により、業界内では極端な二極化が進んでいる。カジュアルなブラッスリーと高級なオート・キュイジーヌの二つに分かれつつあり、中間の位置を占めるレストランは難しい立ち位置になったようだ。また、新型コロナウイルスの影響を受けて、ソーシャルディスタンスの徹底や店内の客席の間引きが求められ、一席ごとに余裕を持った配置を取る店舗が増えている。これにより、客単価を上げて利幅の確保を目指す店舗も多い。客単価10.000円を平均とするフランス料理店A社では、もっと低価格の業態で客数を増やすか、席数を減らし原価をかけ客単価20.000円程度の高価格帯に舵を切るかを迫られており、そういった状況の店舗は後を絶たない。また、大規模な食事会やパーティーの需要減少は、居酒屋業態だけではなく、フランス料理店も同様だ。大人数対応のレイアウトは減少し、一人客や少人数客に対応できるカウンター席の増加という変化が見られる。
3. 開業までの流れ
4. 必要なスキル
フランス料理店の経営には、安めの価格帯に設定した店舗でさえも、ある程度高品質な料理を提供する能力が求められる。お客様の料理に対する評価は他のどの業態よりも厳しく、一定レベル以上の調理技術とフランスワインに対する深い知識が不可欠であると言える。
さらに、季節に合わせた食材の仕入れの経験、取引先との繋がり、仕入れルートの確保なども、高級食材を扱う業態においてはキーポイントとなる。高級フランス料理店を開業するには、ハイレベルな接客技術とサービス技術も必要でテーブルチャージやサービス料に見合うクオリティーが要求されることになる。
必要な資格としては、「食品衛生責任者」が必須となる。これは保健所が主催する講習会を受講することで誰でも取得が可能である。調理師など、飲食店に関する国家資格を保有している場合は、講習が免除される。
経営管理の面では、固定費以外に仕入れ費や人件費が比較的高くなりがちなため、常に経営状況を把握し、経費のコントロールを行う経営能力が求められる。特にハイレベルな調理技術を持つ料理人でいて金銭、計数管理にも長けているという人材はあまりいなく、この両面のスキルをカバーできる人材確保が必要である。
5. 開業資金と運転資金の例
フランス料理は高級なイメージがあるが、それに反するかのように、厨房設備等の費用は思いのほか高額にはならないことも多い。しかし、最近の飲食店の人材不足を考慮に入れると徹底した省人化が狙えるスチームコンベクションオーブンのような効率的な厨房機器、モバイルオーダーシステムや予約管理システムといったデジタルツールへの投資が必要である。
さらに、ヨーロッパの雰囲気を感じさせる内装を期待する顧客が多いため、店内の雰囲気を演出するためにも一定のコストが必要である。これらの初期投資は、開業資金と運転資金の多くを占めることになる。
6. 売上計画と損益イメージ
フランス料理店はその他の飲食業種と比較して、売上に対する原価が高い状態となることが多い。特に近年の食材費の高騰により、原価率は約40%程度を見込む必要がある。開業一年目では、来店する客数を最低限の従業員で対応するとしても、人件費率は高くなり、利益の確保は難しい状況となる。
しかしながら、一度損益分岐点を超えると人件費率が低くなり、また、ヘビーユーザー増えてくると他業種より酒量が増えることが多く、利益率の上昇が期待される。このように、フランス料理店の運営は初期の困難を乗り越えると、利益を確保しやすい状況に変化する可能性がある。
7. 補助金と助成金について
開業する地域にもよるが飲食店の開業に関しては、多くの補助金や助成金があり、これを利用するべきである。
(1) 事業再構築補助金
補助金は、事業の復興と持続的な運営を可能にするためのものである。設備の修復や更新、労働力の維持や拡大、新しいビジネスモデルへの適応などが含まれていると補助の対象となる。異業種からの参入、業態転換などを検討している事業者ならば 活用すべきである。
補助率は費用の2/3で、中小企業の場合、最大6000万円までの大掛かりな補助金である。
(2) 小規模事業者持続化補助金
この補助金は、小規模事業者が販路を開拓するための経費を、最高で50万円かつ3分の2まで補てんする、という国の制度である。対象となる経費は、ウェブサイト制作やチラシ印刷など、事業者が手軽に取り組むことが可能なものだ。
その他、各市町村でも特色のある補助金や助成金が利用できることが多い。特に、新規の開業をする事業者は、一つも助成金や補助金が利用できないという事態になることの方が珍しい。都内の商店街でフランス料理店を開業した30代の男性は、商店街での創業に対する補助金で家賃と開業費用の補助金を申請。自己負担金を200万円程度で開業した上に、家賃補助により3か月で黒字化を実現した例もある。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)