業種別開業ガイド
保育施設
トレンド
(1)幼稚園、保育施設、保育サービスは無償化に
2019年10月から、幼児教育・保育施設の利用料無償化が実施される。対象施設は幼稚園、保育所、認定こども園、地域型保育、企業主導型保育、対象年齢は3~5歳が原則である。住民税非課税世帯は、0~2歳児も対象となる。
幼稚園の預かり保育、認可外保育施設等は、上限を定めての無償化となる
(2)保育施設数は増加しているが依然不足状態
2015年にスタートした「子ども・子育て支援新制度」によって、認定こども園と地域型保育事業が新設され、保育施設数が増加している。厚生省資料によれば、保育施設数は2018年まで増加し続けており、その結果、保育利用率も上昇し、表向きの待機児童数は減少した。しかし、隠れ待機児童(希望した認可保育所などに入れないにもかかわらず、親が育児休業中などの理由により待機児童数に含まれていない児童)」の問題は残っており、保育施設数は依然として不足状態にあると言える。
(3)保育施設数とともに保育士も不足
国は、待機児童の問題を解消すべく、2020年度末までに約32万人の保育士確保を目標として掲げている。しかし、保育士の有効求人倍率は極めて高い状態が続いていて、保育士不足状態は解消されていない。このため、厚生労働省は、保育士の給与の改善、職場を離れた保育士の職場復帰支援など、保育士確保のための施策を講じている。
(4)事業所内保育所も注目される
病院や民間企業などで働く人の子どもを預かる事業所内保育所は、従来から存在していたが、2015年にスタートした「子ども・子育て支援新制度」によって、事業所従業員以外でも、認可保育施設としての事業所内保育所を利用することが可能となった。事業所保育所は、待機幼児の受け皿としてとして注目されている。
保育施設事業の特徴
保育施設事業の内容を俯瞰すると、保育所から事業所内保育施設まで、さまざまな形態が存在する。以下は認可施設の例であるが、独自の指針で運営している認可外施設も存在している。
(1)保育所
0~5歳児を対象とし、子どもを保育する施設である。利用できる時間は夕方までが多いが、延長保育を実施しているところもある。利用できる保護者は、共働きや介護などの事情がある保護者である。
(2)認定こども園
0~5歳児を対象とし、子どもを保育・教育する施設である。幼稚園と保育所の機能を持つ。利用できる時間は、0〜2歳児の場合は夕方までであるが、延長保育を実施しているところもある。3〜5歳児の場合は、昼過ぎ頃までを教育時間とし、保育を必要とする場合は、夕方までの保育も実施する。また、延長保育を実施しているところもある。利用できる保護者は、0〜2歳児は共働きや介護などの事情がある保護者であり、3〜5歳児の場合、制限はない。
(3)地域型保育事業
保育所より少人数(19人以下)の定員単位で、0~2歳児の子どもを保育する事業である。利用できる時間は、夕方までが基本であるが、延長保育を実施するところもある。利用できる保護者は、共働きや介護などの事情がある保護者である。
施設型の地域型保育事業には、次の3つのタイプがある。
(a)家庭的保育施設
5人以下程度を対象に、家庭的な雰囲気の中で、きめ細かな保育を行う施設である。
(b)小規模保育施設
6〜19人程度を対象に、家庭的保育に近い雰囲気の中で、きめ細かな保育を行う施設である。
(c)事業所内保育施設
企業内の保育施設などで、従業員の子どもと地域の子どもを対象に、保育を行う施設である。
保育施設事業 開業タイプ
保育施設事業の開業タイプは、以下のタイプに分けることができる。
(1)保育所(認可)
認可保育所は、市区町村の条例・規則に基づく基準を満たし、認可を受けた保育施設である。保育料は市区町村が定め、運営費に関しては、国、都道府県、市区町村からの補助を受けることができる。 保育所の主な認可基準は以下の通りである。
<必要職員配置数>
原則、以下の算式による
0歳児数×1/3 + (1~2歳児数)×1/6 + 3歳児数×1
+ 4歳以上児数×1/30
<保育室等>
・0~1歳児
乳児室:1人あたり1.65m2、ほふく室:1人あたり3.3m2
・2歳児以上
保育室など:1人あたり1.98m2
許可申請は、都道府県または政令指定都市、中核市の児童福祉関連窓口に対して行う。
(2)認定こども園(認可)
認定こども園の中にも様々なタイプがある。幼稚園機能と保育所機能のどちらに軸足を置くかが、そのまま他の保育施設に対する差別化要因となり得る。
・幼保連携型
幼稚園機能と保育所機能の両機能を持つタイプ。
・幼稚園型
認可幼稚園が、保育を必要とする子どものために保育時間を確保するなど、保育所的な機能を備えるタイプ。
・保育所型
認可保育所が、保育を必要とする子ども以外の子たちも受け入れるなど、幼稚園的な機能を備えるタイプ。
・地方裁量型
幼稚園・保育所いずれの認可もない地域の教育・保育施設が、認定こども園として必要な機能を果たすタイプ。
認定こども園の主な認定基準は以下の通りである。
<必要職員配置数>
原則、以下の算式による
0歳児数×1/3 + (1~2歳児数)×1/6 + 3歳児数×1/20
+ (4~5歳児数)×1/30
<職員の資格>
・幼保連携型
保育教諭は、幼稚園教諭の免許状と保育士資格を併有していること。
・その他の型
満3歳以上の幼児に対しては、幼稚園教諭と保育士資格の両免許・資格を併有していることが望ましく、満3歳未満の幼児に対しては、保育士資格を有していること。
許可申請は、都道府県または政令指定都市、中核市の児童福祉関連窓口に対して行う。
小学校就学前の児童を幅広く長時間受け入れ、かつ幼児教育も施せる点が、共働き世帯や、教育熱心な世帯などの幅広い支持を得ている。
(3)地域型保育事業(認可)
地域型保育事業は、以下の(a)~(c)の3つに分類される。
(a)家庭的保育施設
保育実施場所は、保育者の居宅、その他の場所、施設であり、定員は1~5人である。主な認可基準は以下の通りである。
・職員数:(0~1歳児数)×1/3
・職員の資格:家庭的保育者(※)であること
※市町村長が行う研修を修了した保育士、保育士と同等以上の知識および経験を有すると市町村長が認める者
・保育室など:0~2歳児1人あたり3.3m2
(b)小規模保育施設
保育実施場所は、保育者の居宅、その他の場所、施設であり、定員は6~19人である。小規模保育施設には、3つのタイプがあり、それぞれの主な認可基準は以下の通りである。
A型:保育所分園、ミニ保育所に近いタイプ
・職員数:保育所の保育士配置基準+1名
・職員の資格:保育士であること
・保育室等:0~1歳児1人あたり3.3m2、
2歳児1人あたり1.98m2
B型:中間のタイプ
・職員数:保育所の保育士配置基準+1名
・職員の資格:1/2以上が保育士であること
・保育室等:0~1歳児1人あたり3.3m2、
2歳児1人あたり1.98m2
C型:家庭的保育(グループ型小規模保育)に近いタイプ
・職員数:(0~1歳児数)×1/3
・職員の資格:家庭的保育者(※)であること
※市町村長が行う研修を修了した保育士、保育士と同等以上の知識及び経験を有すると市町村長が認める者
・保育室等:0~2歳児1人あたり3.3m2
上記(a)(b)は、家庭的雰囲気や少人数での保育ゆえに、幼児一人ひとりに対してきめ細かな保育が可能である。この点が、他の保育施設に対する差別化要因となっている。
(c)事業所内保育施設
事業所等が、事業所の従業員の子どもと、地域の保育を必要とする子どもを保育する施設であり、職員数・職員の資格、保育室等に関する主な認可基準は以下の通りである。
・利用定員20名以上の場合:保育所の基準と同様
・利用定員19名以下の場合:小規模保育施設A、B型の基準と同様
許可申請は、都道府県または政令指定都市、中核市の児童福祉関連窓口に対して行う。
事業所内保育所は、他の保育所に定員などの事情で入所できない幼児の受け皿として、また、企業の従業員確保のための施策としても注目されている。
開業ステップ
(1)開業ステップ
開業に向けてのステップは、主として以下の7段階に分かれる。
(2)必要な手続き
認可保育施設、認定こども園、地域型保育事業いずれも、開設に際しては都道府県知事の認可が必要である。
認可外保育施設を開設する場合も届出は必要である。届出は、事業開始の日から1カ月以内に市区町村役所に対して行う。
サービスづくりと工夫
保護者のタイプに応じて保育施設に対するニーズも様々である。共働きなどで子育てに充てる時間がほとんどない世帯、教育熱心な世帯、子どもの自由な才能を伸ばしたい世帯など、保護者のニーズに合わせたサービスづくりと工夫が必要である。
共働きなどで子育てに充てる時間がほとんどない世帯に対しては、
長時間保育(延長保育、夜間保育)、休日保育のほか、産休明け乳児保育、病中児保育、病後児保育、保護者の傷病や事故などに応じた短期間保育などが喜ばれるだろう。
教育熱心な世帯に対しては、幼稚園機能と保育所機能を兼ね合わせた認定こども園や、特別な保育(教育)方針をもった認可外保育施設などのニーズが高いだろう。特に、認可外保育所の場合、保育内容も自由に決めることができるため、中には、情操教育を取り入れ、運動や体力づくりを重視しているところもある。
このほか、他の保育施設との競合の中で園児を獲得するためには、以下のような、経営努力も不可欠だと言える。
- 病院や企業との提携、紹介の依頼
- 良心的な保育料の設定
- 優秀な保育士など有資格者の確保
- 職員の資質の向上
必要なスキル
他の保育施設との差別化のためにも、不足しがちな優秀な保育士の確保が喫緊の課題だと言える。
認定こども園では、幼稚園教諭の確保も必要だが、認可外保育施設でも、独自の保育(教育)方針によっては、同様に幼稚園教諭の確保が必要となるだろう。
認可外保育施設では、このほか、保育(教育)方針に応じて、情操教育の専門家や、運動や体力づくりのインストラクターなどを雇用または自施設で育成することが求められる。
自治体や業界団体の中は、保育士などのキャリアアップのための研修プログラムを設けているところもある。自施設の保育士に対しても、定期的に、このような研修を受講してもらいスキルアップを図ることが望ましい。
開業資金と損益モデル
例えば、保育所の場合、保育室または遊戯室(2歳以上の場合)、乳児室またはほふく室(2歳未満の場合)、医務室、トイレ、調理室、屋外遊戯場(近所の公園などでも代替可)の設置が義務付けられている。また、保育室(遊戯室)は幼児1人につき1.98m2以上、乳児室は乳幼児1人につき1.65m2以上、屋外遊戯場は幼児1人につき3.3m2以上と定められている。
開業に際しては、これらの基準を満たす施設の建設または調達が必要となる。
以下のモデルの設定は次の通りである。
- 定員:2歳児10人、3歳児20人、4歳児以上30人
- 従業員:施設長1名、保育士4名、職員2名 ・施設:物件面積165m2、うち保育室120m2
(1)開業資金
以下は、自己所有物件を使って認可外保育所を運営する場合の必要資金例である。
(2)損益モデル
■売上計画(参考例):認可外保育所
■損益イメージ(参考例):認可外保育所
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、施設の種類や規模などの状況などにより異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)