業種別開業ガイド
訪問介護
トレンド
(1)事業所数の伸びは鈍化、あるいは減少傾向に
訪問介護事業の事業所数は、2015年頃から伸びが鈍化している。訪問介護に必要な事業所が、一定数全国に行き渡ったものと推定される。
(2)介護報酬の改定
2019年10月に実施予定の介護報酬改定は、経験・技能ある介護人材の確保が目的とされ、「介護職員の更なる処遇改善を進める」内容となっている。介護報酬は平成24年からほぼ毎年改定されている。2025年、団塊世代が75歳以上になることからも、介護報酬の改定は続くと見られている。
(3)保険外サービスや混合介護でサービスの拡充を行う
介護保険サービスは、サービス内容が介護保険制度の枠内のものに限定されている。介護保険サービスが提供できない部分は保険外サービスとなる。具体的には、趣味のための外出介助や契約書の記入、車の清掃やペットの散歩などが該当する。
これらのサービスを求める利用者と売上を確保したい事業者の思惑が合致したサービスが混合介護サービスである。
(4)介護事業を取り巻く人材不足
厚生労働省が2018年6月に公表した「2025年に向けた介護人材にかかる需給推計」によると、現状のまま高齢化が進み、要介護者数が増え続けると、2025年度には253万人の介護人材が必要になる見込みである。しかし、そのときの介護人材の供給見込み数は215万人であり、約38万人の需給ギャップ(介護人材の不足)が生じることが予想されている。現代日本の介護問題の解決のためにも、介護人材の養成・確保が強く求められている。
訪問介護事業の特徴
訪問介護は、ホームヘルプとも呼ばれ、訪問介護員(ホームヘルパー)が利用者宅を訪問し、食事・排泄・入浴などの介護(身体介護)や、掃除・洗濯・買い物・調理などの生活の支援(生活援助)を行う事業である。上記サービスのほか、通院などを目的とした乗車・移送・降車の介助サービスを提供する事業所もある。利用料金は、利用者の所得金額により1割から3割と負担割合が変わる。
事業所収入は以下のように定められている。
訪問介護には、「入浴」や「夜間」に特化して対応するタイプのものもある。
訪問入浴介護は、利用者宅にて、利用者の身体の清潔の保持、心身機能の維持回復を図り、利用者の生活機能の維持や向上を目指して実施されるサービスである。看護職員と介護職員が利用者の自宅を訪問し、持参した浴槽を使い入浴介護を行う。
利用料金(事業所収入)は以下のように定められている。
夜間対応型訪問介護は、夜間帯に訪問介護員(ホームヘルパー)が利用者宅を訪問し、介護サービスを提供するものである。夜間対応型には、定期巡回と随時対応の2種類がある。
<定期巡回>
夜間帯(18時~翌日8時)に定期的な訪問を行い、排泄の介助や安否確認などのサービスを提供するものである。
<随時対応>
ベッドから転落して自力で起き上がれないときや夜間に急に体調が悪くなったときなどに、訪問介護員(ホームヘルパー)が訪問し介助をする。必要に応じて救急車の手配などを行う。
利用料金(事業所収入)は以下のように定められている。
訪問介護事業 開業タイプ
訪問介護事業の開業タイプは、大きく3つのタイプに分けることができる。
(1)訪問介護
訪問介護は、要介護1~5ランクの人を対象に、介護福祉士やホームヘルパーが利用者宅を訪問し、食事・入浴・排せつなどの介助や、炊事・洗濯・掃除などの日常生活の援助を行うサービスである。
(2)訪問入浴介護
訪問入浴介護は、要介護1~5ランクの人を対象に、看護師やホームヘルパーが、寝たきりの高齢者などの家庭を訪問し、移動入浴車などで入浴の介助を行うサービスである。
(3)夜間対応型訪問介護
夜間対応型訪問介護は、要介護1~5ランクの人を対象に、夜間の定期巡回や連絡を行う夜間専用の訪問介護である。
上記いずれのタイプにおいても、経営安定化のため総合的な事業サービスとして「混合介護」の提供も重要となる。
開業ステップ
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、主として以下の7段階に分かれる。
(2)必要な手続き
訪問介護事業を開業する場合は、事業者が各都道府県の介護保険担当部署にて認可申請を行う。認可基準の詳細や申請時の提出書類などについては、都道府県で異なる場合があるため、事前に登録窓口で確認する必要がある。
サービスづくりと工夫
訪問介護には、「生活援助」と「身体介護」がある。
<生活援助>
日常生活を送る上で必要不可欠な家事について、利用者本人が一人ではできない部分を支援するものである。
(例)掃除、洗濯、調理、買い物、衣服の整理、ベットメイキングなど
<身体介護>
利用者が日常生活において行う動作の介護、身辺の介護、生活の介護を行う。
- 動作介護:起床・就寝介助、体位変換、採尿パックの交換、水分補給、服薬介助など。
- 身辺介護:歩行、更衣、部分浴、入浴の見守り、整容、口腔ケア、洗面、更衣、排せつ介助、おむつ交換など。
- 生活介護:食事介助、全身清拭、洗髪、入浴、シャワー介助、特別食事の調理、
外出・通院介助、痴呆性高齢者の見守り的介助など。
なお、以下の項目は、訪問介護の対象とはならない。
- 利用者本人以外の家族のためのサービスや、家族が行うことが適当と判断されるサービス
- ホームヘルパーが行わなくても日常生活に支障がないサービス
- 日常的に行われる家事の範囲を超えるサービス
(例)利用者以外の人のための洗濯、調理、買い物、布団干し、掃除、来客応対、洗車、草むしり、ペットの世話、大掃除、家具などの移動、窓のガラス磨きなど。
訪問介護の現場では、上記のようにサービス対象に含まれるものと含まれないものとの区別が難しいケースが多くある。このため、事前に対象となるサービスを明確に定義し、利用者や利用者の家族などにも周知する必要がある。
また、介護保険サービス(通院の付き添いなど)と非保険サービス(病院内の診察の付き添い、トイレ介助など)を併用した混合介護や、自治体が主体となってサービスの運営基準や単価、利用料などを独自に設定し提供する総合事業も今後の介護事業を運営する上で検討したい。
業務の実施に際して、利用者やその家族などの第三者にケガや物の損害を与えてしまった場合に備え、賠償責任保険へ加入しておくと、安心である。
必要なスキル
サービス提供責任者は、次のいずれかの資格が必要である。
- 介護福祉士
- 実務者研修修了者
- 旧・介護職員基礎研修課程修了者
- 旧・ホームヘルパー1級課程修了者
- 3年以上介護などの業務に従事した介護職員初任者研修課程修了者(旧・ホームヘルパー2級課程修了者を含む)
ケアマネージャーや医師からの利用者紹介は重要である。実績を作り利用者からの評価を上げ、紹介してもらえるよう、彼らとのネットワークを構築できる営業スキルが求められる。
また、利用者へのサービスや施設の案内をホームページで発信している事業者がほとんどである。選ばれる事業者になるためには、ホームページ作成を行いたい。
保険請求事務は、概して複雑である。このため、本制度を熟知し、請求ソフトなどを使いこなせる人材も必要だと言える。
開業資金と損益モデル
訪問介護は必ずしも広い事業所を必要としないため、通所介護と比べ初期投資を低く抑えることができる。以下は、30坪の自己所有物件で、訪問介護事業を始める場合の例である。
(1)開業資金
(2)損益モデル
■売上計画
(参考例):訪問介護
■収支イメージ
(参考例):訪問介護
- ※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、事業所の状況などにより異なります。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)