業種別開業ガイド
ドローン事業
2020年 11月 24日
トレンド
(1)市場規模は2018年度931億円、今後も上昇傾向が続く見込み
インプレス総合研究所 の「ドローンビジネス調査報告書 2019」によると、2018年度における日本国内のドローンビジネスの市場規模は931億円となっている。2017年度の503億円と比較して85%の大幅増であり、2024年度には5,073億円に達すると予測されている。
また、 事業者の分類としては、「機体メーカー」と「サービス事業者」の大きくふたつに分けられ 、いずれも拡大していく見込みとなってい る。
(2)農業、物流、映像制作など幅広い業界で活用
現在、市場が確立しつつあるドローン事業としては 、土木測量や農薬散布、空撮などが挙げられる。今後は機体の性能が向上していくとともに、さらにサービスの活用範囲が広がると予測されている。例えば、物流業界においては、配達困難地域への配達がドローンによって可能になるケースがあると見込まれている。
(3)国によるドローン産業の推進
ここまでは、ドローンに関する国家的な対応として、航空法等の規制などがあるが、ドローンは規制対象というだけではなく、新たな産業として期待されている部分もある。
例えば、経済産業省では「空の産業革命に向けたロードマップ2019」を公開している。今後の動きとしては、安全面やセキュリティ面の問題を解決し、ドローン市場を拡大していきたいという目標を示している。また、農林水産省では「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」を設立し、農業用ドローンの普及計画などを発表している。
開業にあたっては、こうした国の動向にも注意を配っておきたい。場合によっては助成金などを受けられる可能性もあるだろう。
ビジネスの特徴
ドローン事業では、ドローンをどのような用途で使うかという点が重要な要素となる。新興技術のため、これから用途が広がっていく可能性もあり、その意味ではビジネスアイデアが大切となる。
以下では例として、現状である程度市場が形成されている農業や映像制作の分野についてビジネスの特徴を述べる。おおまかにまとめれば、ドローンを用いることによって、(1)効率性や(2)新規性が高まる場合にビジネスチャンスがあるといえる。
(1)効率性
農業においては、ドローンによる農薬散布が主なビジネスとなっている。農薬を手作業で散布するよりも効率的に行え、また、産業ヘリコプターよりは安価に済むケースが多い点がメリットとなっている。
また、土木業では保守点検にドローンが活用されている。高所など、人が確認しに行くのが困難であった場所も、ドローンであれば低コストで確認できる点が評価されている。
(2)新規性
映像制作やAR/VRなどの分野においては、ドローンにカメラを搭載した空撮活用が主となっている。空中を自在に飛びながら撮影できることから、これまでにない新規性のある映像を制作できるという点に大きなメリットがある。
開業タイプ
機体メーカーとしての開業もあるが、初期投資負担が大きくなることが想定されるため、ここではサービス事業の開業を前提として記載する。
(1)各種サービス提供事業者
ドローンを用いたサービスを顧客に提供する業態。具体的には、農薬散布や映像制作、土木などの分野などの事業である。これらは既にある程度市場が形成されているが、今後はさらなる活用分野の拡大が予測されている。
また、ドローン関連サービスとして、ドローン飛行のスクール業や、国土交通省等への申請代行業などを行う事業者も存在する。
(2)機体販売の代理店業
上述のドローン機体メーカーの中には、販売代行を募集している企業もある。そのため、実店舗、あるいはWeb通販で、機体メーカーの代理店として開業する業態も考えられる。
実店舗を設立する場合は、ドローンスクールなどとの兼業も可能である。
開業ステップ
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。
※「サービス提供準備」の例としては、サービス事業者では機体準備や官公庁への申請、代理店業では代理店契約等が挙げられる。
(2)必要な手続き
ドローン飛行にあたっては、国土交通省への申請が必要となる場合が多い。申請に不備があれば許可が下りるまで時間がかかってしまうため、なるべく早めに申請を行うことが推奨される。
また、国土交通省への申請にあたっては、ドローンの飛行経験および飛行技術が必要とされるため、そうした技術を身につける期間も加味して事業計画を立てる必要がある(記事執筆2020年5月時点では、国土交通省への申請には、10時間以上の飛行経験等が必須である)。
加えて、各自治体で規制が設けられているケースもあるため、サービスを開始する前にそうした飛行ルールを確認しておく必要がある。
航空法による規制や飛行技術の習熟などの参入障壁
市場の拡大が予測されているドローン事業だが、開業するにあたっては法規制についての知識が必須となる。航空法においては、(1)空港等の周辺、(2)人口集中地区、(3)150m以上の高さでの飛行をする場合は規制が設けられている。これらの飛行条件に該当する場合は、事前に国土交通省に申請して許可を受ける必要がある。そのほか、各自治体でも規制を設けている場合があるため、事前に問い合わせておくことが推奨される。
また、ドローンサービスを行う場合は、当然ながら操縦技術も必要となる(加えていえば、上述の国土交通省への申請にあたっても一定の操縦技術が求められている)。一方で、練習できる場所が限られているという状況もあるため、練習場所についても合わせて考慮しておく必要がある。
このような規制は、ドローンビジネスの開業にあたって参入障壁となっている。周到な準備が必要となる点は苦労する可能性があるが、一度申請が通れば次回以降は通りやすくなるため、参入障壁の高さはメリットにもなり得る要素である。
必要なスキル
- ドローン操縦技術
ドローンサービスを行うにあたって、操縦技術は必須といえる。特に映像制作などの分野では高度な技術が必要だと考えられるため、最新の業界事情に精通してスキルアップを図ることも重要だろう。
- 営業力
ドローンは新興技術であるため、導入することによってどのようなメリットがあるのか、顧客が納得できるよう説明する必要がある。そのため、ドローンのメリットを的確にアピールできる営業力が重要となる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
賃貸で開業することを前提として、必要な資金例を記載する。ドローンはdji社の空撮用機器を中型・大型それぞれ1機ずつ導入、撮影にあたってはドローン運搬用に車両も必要と想定した。
(2)損益モデル
a.売上計画
売上は1日の撮影料を基本に、撮影場所(移動ありか否か)や編集の有無等のオプション料金を設定すると想定した。
撮影単価は、「中型ドローン:10万円~/日」「大型ドローン:25万円~/日」と想定し、毎営業日に撮影があるわけではないこと、オプション料金等での売上もあること等を考えあわせ日商を10万円とした。
b.損益イメージ(参考イメージ)
※標準財務比率は「他に分類されない専門サービス業」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
ドローン事業の収益化にあたっては、ドローンの活用方法がひとつのポイントになる。業界によってビジネスの進め方が異なるためだ。
例えば上記した損益イメージは主に映像制作を想定した数値のため、撮影単価を中心に計算している。これが農業の場合になると、農薬散布を行う時期に集中して売上が入るような、繁忙期のはっきりした業態になると想定される。
自身が開業する分野では、いつ、どの程度の規模の売上が立つと予測されるのか、しっかりと把握しておくべきだろう。場合によっては、映像制作と土木の保守点検を兼業するなど、複数の事業を同時展開できる可能性もある。
また、ドローンの活用方法は、用意するドローン機体の選び方にも関わる。これは収益化の視点からみれば、開業資金に関連する事項である。ドローン機体は、10万円ほどの小型空撮用から、100~300万円ほどの産業用まで種類が幅広い。業態に合わせた売上・利益率等の予測を立てることにより、現実的な開業資金の回収期間を設定するべきだ。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)