業種別開業ガイド

オンライン医療

2021年 5月 28日

トレンド

(1)オンライン医療の市場規模は123億円

株式会社シード・プランニングの調査によると、オンライン医療の市場規模は2018年で123億円となった。今後は右肩上がりに市場規模が拡大していき、2030年には292億円に上ると予測している。

内訳としては、医療機関の収入である「保険診療」および「自由診療」、民間企業の市場としての「オンライン診療システム」市場、「遠隔医療相談サービス」市場の4つの市場に分けられる。(本稿では、主に「オンライン診療システム」市場、「遠隔医療相談サービス」市場について述べる)

(2)2020年、新型コロナウイルスにより規制緩和へ

オンラインでの診療は、原則、初診は対面で行った後に行うことが前提となっていた。しかし、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大により、まずは特例的な措置として初診でのオンライン診療も許可された。さらに、9月に発足した菅政権下において、特例的・時限的な許可にとどめず、初診でも原則解禁される方向で調整が進んでいる(2020年11月時点)。

今後、こうした制度の緩和により認知度の向上も進むと考えられる。業界として追い風が吹いている状況といえるだろう。

(3)2020年9月時点でオンライン診療の経験者は6%

今後の動向が明るいとみられているオンライン診療であるが、課題が存在しないというわけではない。

野村総合研究所(NRI)が2020年9月に実施した患者アンケートでは、オンライン診療の経験者は約6%にとどまった。認知度は高まっているものの、実際に利用したことのある人は少ない状況であることがうかがえる。また、オンライン診療の対象となる症状は限られており(保険適用の診療が限られている)、患者側にとってはルールを完全に把握するのが難しいと思われる。

そのため、一般に広く普及するまでは、まだ時間がかかることが予測される。市場は拡大傾向にあるが、開業にあたっては、現状の普及度を冷静に見極めることも重要である。

ビジネスの特徴

オンライン医療とは、スマートフォンやタブレットなどを用いて、インターネット上で診療を受ける方法である。基本的に、ビデオ通話のような機能を用いて診察を行う。

オンライン医療は、厚生労働省の定義では、大きく分けて「オンライン診療」「遠隔健康医療相談」のふたつに分かれる。「オンライン診療」は診察や処方を行うものであり、ビデオ通話システムや予約システムなどの開発が開業タイプとして考えられる。「遠隔健康医療相談」とは診療は行わず、あくまで一般的な医療に関する相談を受けるものを指す。ビデオ通話に限らずテキストでの相談も可能であり、医師でなくても相談を受けることが許されている。Webサービスとして医療相談サービスを行うような開業形態が考えられる。

開業タイプ

(1)オンライン診療システム開発

ビデオ通話や診察予約などのオンラインサービスを開発する業態。スマートフォンのアプリなどを開発し、クリニックや病院から利用料を受け取るようなビジネスモデルが主として考えられる。

主なオンライン診療システムには、株式会社メドレーによる「CLINICS」や株式会社MICINの「curon」などがある。

(2)遠隔健康医療相談サービス

オンライン上での健康相談サービスを行う業態。必ずしもビデオ通話は必要なくテキストでも実施可能であり、かつ、医師でなくとも相談に答えることが許されている。そのため、オンライン診療よりも参入障壁が低い業態といえる。

業界大手にはエムスリー株式会社が運営する「アスクドクターズ」やLINEヘルスケア株式会社が運営する「LINEヘルスケア」などがある。

(3)オンライン診療、遠隔健康医療相談(医師として開業)

医師免許をもっていれば、オンライン診療や遠隔健康医療相談におけるシステム開発やサービス構築ではなく、医師として診療や相談を行うかたちで開業することも可能である。オンライン診療・遠隔健康医療相談において、診療や相談を行う場所はクリニックや病院に限定されていないため、在宅で医師として開業するような働き方も可能となる。

開業ステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

(1)開業のステップ

開業のステップの図

(2)必要な手続き

「オンライン診療」および「遠隔健康医療相談」において、サービスのシステムを開発することには資格等は必要ない。

ただし、次のようなサービスを行う場合は、医師免許が必要となる(参考「オンライン診療の適切な実施に関する指針」)。
①「オンライン診療」を行う場合
②「遠隔健康医療相談」において、「患者個人の心身の状態に応じた医学的助言」を行う場合

二次感染の防止というメリット

オンライン医療にはさまざまなメリットがあるが、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大後に注目されているのは、二次感染のリスクが少ないという点である。ほかの患者と接触することがないため、ウイルスや細菌に感染する機会が少なくなる。薬は自宅への郵送が可能なため、薬局に行く必要もない。

そのほかのメリットとしては、受付や会計での待ち時間の低下、移動の負担の低下などが挙げられる。

必要なスキル

医師免許

「オンライン診療」および「遠隔健康医療相談(医師対応)」においては診察や処方といった医療行為が伴うため、医師でなければ実施することができない。医師免許をもったスタッフが必須となる。

医療現場の知見

システム開発やサービス構築を行うにあたり、医療現場でどのような需要があるのかを熟知しておく必要がある。また、基本的には医師(クリニックや病院)に営業を行うことになるため、現場の状況を知っておくことが重要である。

営業力

「オンライン診療」のシステム開発業においては、営業力が重要となる。基本的にはシステム利用料×契約医院(医師)数が売上モデルとなるため、より多くの医院と契約することが売上の向上につながるのである。システムの使い勝手の良さなど技術的な面も重要だが、売上を立てるためには営業力が非常に重要となる業種である点には留意しておきたい。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

ここでは都内にてオフィスの賃貸利用を想定したモデルとした。

都内オフィス(社員3~4名ほど想定)開業の場合に必要な資金例

(2)損益モデル

a.売上計画

売上については、基本的にはシステム利用料×契約医院(医師)数となる。院内でのシステムを調整する必要があるほか、患者にアプリをダウンロードしてもらわなければならないため、サービスを乗り換えるには障壁がある。

そのため、他社サービスを導入していない医院が潜在顧客として確度が高くなると考えられる。

売上計画

b.損益イメージ

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は「ASP・ウェブコンテンツ提供業」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

(3)収益化の視点

「オンライン診療」においては、契約医院数が売上にかかわるため、営業力が大きなポイントとなる。「売上計画」の項でも触れたように、患者にもアプリのダウンロードを求めるため、一度契約をすればサービスを乗り換えるには障壁が大きい。料金やサービスに大きな差がなければ、競合に乗り換えられてしまう事態は起きづらいと考えられる。

また、ITを積極的に取り入れるのは、比較的若い世代に多いと予測される。若い世代の医師への営業ルートを発掘しておくことが有用になりうるだろう。

一方、「遠隔健康医療相談」は、多くの一般ユーザーに利用してもらうことが売上につながるため、サービスの利便性が重要となる。大手に資金力では勝てない可能性が高いため、一定の地域に特化するなど、差別化のための戦略も必要となる。 

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。 (本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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