業種別開業ガイド
Webデザイナー
2020年 6月 26日
トレンド
(1)需要堅調
Webデザイナーが関わるようなWebサイト構築の引合いは多く、コンテンツ制作のアウトソーシングの市場規模は2015年度で650億円、前年比159.3%(矢野経済研究所調べ)まで拡大。その後、市場規模は既に1,000億円台にのせていると計算されるなどIT技術の革新もあって需要は高まり続けており、それにつれWebデザイナーのニーズも増えている。
(2)小規模業者が中心
顧客企業に常駐しつつ作業を受託する「派遣型」、プロジェクトごとに契約を締結する「請負型」に大別されるが、ともに小規模から零細規模、フリーランスといった規模の業者が主力になる。また、業者が大都市圏に集中している点にも特徴を有する。
(3)スキル向上が不可欠
極めて技術進歩の速いIT業界において、たゆまない新知識、技術の習得が不可欠となる。総合的なスキルを有するWebディレクター、Webプロデューサーと評される上級クラスの技術者を育てることで将来的には事業領域の拡大も視野に入ってくる。
(4)モバイルの普及とCSSの進化によるWebデザインの変化
モバイル端末の普及により画面の大きさが制限され、さらにこれらのモバイル端末は通信速度の制約も受けやすい。そのためサイト画面の入口は大きさ、データ容量の両面から制限を受け、要素を削ぎ落すことが求められるようになった。しかし、同時にCSSが進化し、デザインの主流が「フラットデザイン」(iPhoneなどのタッチパネルのようなデザイン)へと移行した。その後も「フラットデザイン2.0」(タッチパネル上のアイコンに陰影を付けた立体感のある表示方法)と呼ばれるデザインが主流となってきた。現在もトレンドは移り変わっており、Webデザインの基本である「グリッドレイアウト」(綺麗に整えられたデザイン)をあえて崩す「ブロークングリッド」と呼ばれる手法が主流となっている。
ビジネスの特徴
Webデザイナーとは、Webサイトのデザインを担当するクリエイター及びその集団である。デザイン業務の範疇は、文章やグラフィック、ロゴ、アイコンなどの制作、配置などにとどまらない。Webサイト全体の構成、レイアウトの決定からコーディングまで全工程の管理も担う。よって、Webデザイン会社は、顧客企業より企業ホームページなどWebサイト構築のアウトソーシングを受ける業態の一つと捉えられよう。
契約形態によって「派遣型」、「請負型」に大別され、「派遣型」であれば毎月締め、「請負型」は場合によっては着手金、中間金なども得つつ、納品後に開発料を回収する仕組みとなる点が特徴である。
開業タイプ
(1)新規独立型
学校などにて専門知識を得たWebデザイナーがそのまま独立するケース。目立った開発実績がない上、簡易な案件が中心となる開業当初は、知人からの紹介やクラウドソーシングサービス経由の小案件をこなしていくことになる。
(2)同業者からの独立型
Web制作代行会社などにて業界で一定の経験を積んだWebデザイナーが、とりわけデザインを前面に打ち出して独立するケース。前職などでの開発実績、顧客、人的ネットワークなどを擁している点が強み。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
法的にはWebデザイン会社として資格、手続きなどは必要としない。
ちなみにWebデザイナー個人に関しては、厚生労働省のもと特定非営利活動法人インターネットスキル認定普及協会が実施する国家資格「ウェブデザイン技能士」がある。「ウェブデザイン技能士」は業界唯一の国家資格である。未経験者でも取得可能な3級から業界内での7年以上の実地経験も求められる1級まで3クラスあり、それぞれ筆記及び実技試験が課せられている。
差別化のポイントなど
スマートフォンや動画対応、SEO対策などといった技術面は当然対応すべきことである。フリーランスを含めた同業他社と差別化を図るため、法人としてはもちろん、クリエイターとしても専門領域、強みを明確にすることが重要となってくる。これまでどのような目的のデザインを、どのようなテイストで作成したかなどのポートフォリオを示すことが重要である。これによって、得意分野のアピールができれば、業界内での存在感が高まり、大型プロジェクトにクリエイターとして招聘されるようなケースも出てこよう
必要なスキル
経営者個人として資格はとくに必要ない。Webデザイナー個人として国家資格「ウェブデザイン技能士」1級ないし2級を保有していれば対外的に一定の知識、技術水準を有することの証左の一つとはなりえる。もっとも、IT業界の特徴として、資格保有が受注獲得に直結しない。過去の開発実績など「なにが出来るのか」がより重要視されることが挙げられるため、資格勉強とは別にたゆまない新技術、知識の吸収は不可欠といえよう。
また、人気プログラミング言語には、これまで大きな変動はなかったが、2019年になって、Pythonが1位になるなど新しいトレンドもある。ただし、Webデザイナーの場合は、こうしたトレンドの言語のマスターよりも、優れたUX(※)を提供できるかどうか、優れたUXを提供することで、どのようなユーザー体験を与えられるかが重要になってきている。このため、デザイナーというよりもマーケッターや経営者的な視点が今後はより必要とされてくる。
(※)ユーザーエクスペリエンス:ある製品やサービスとの関わりを通じて利用者が得る体験およびその印象の総体。使いやすさのような個別の性質や要素だけでなく、利用者と対象物の出会いから別れまでの間に生まれる経験の全体が含まれる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
【同業者からの独立型、郊外に33平米の事務所、経営者1名と顧客先常駐スタッフ1名で開業する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
経営者前職の人脈より一定顧客を備えて開業
b.損益イメージ
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は、インターネット利用サポート業に分類される企業の財務データの平均値を掲載(出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)。
c.収益化の視点
労働集約的なビジネスであり、売上原価に算入される外注費を除き、派遣する技術スタッフの給与、経営者の報酬といった人件費が支払いの主となる。デザイン用にややスペックの高いPCを要するとはいえ昔ほど高額ではなく、特に事務所を構える必要もないことなどから開業コストは抑えられる。よって、黒字を計上できれば早期の投資回収は可能となる。しかし、競争激化によって受注単価も低下気味の業界にあって開業当初の採算確保は容易ではない。それを可能にするには、前職などにて培った人脈やネットワークからいかに顧客を取り込むかにかかっており、前提となるデザイン力はもちろん、独立にあたっての周到な準備も求められる。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)