業種別開業ガイド

マイクロブルワリー

2022年 8月22日

トレンド

日本の第一次「地ビール」ブームは1994年の酒税法改正がきっかけ

ブルワリー(brewery)とはビール醸造所のこと。マイクロブルワリーは、1994年以降日本でも多くなった小規模なビール系飲料の醸造所を指す。同年の酒税法改正で、ビール醸造の免許に必要な年間最低製造量が200万ℓから6万ℓに引き下げられたことから、全国に多数の小規模なビール醸造所が誕生。そこで製造されたローカルブランドの「地ビール」ブームが起こり、99年末には全国の「地ビール製造免許場」の数は260を超えた※。

※国税庁の統計より。「地ビール製造免許場」とは、1994年以降にビールの製造免許を取得した製造場から、大手ビールメーカーの製造所などを除いたもの。

マイクロブルワリーイメージ01

「クラフトビール」人気と規制緩和により、近年ブームが再燃

しかしその後、ブームは沈静化。「地ビール製造免許場」の数は一時期180を切るまでに落ち込んでしまう。この危機を経て、日本で再びマイクロブルワリーが脚光を浴びるようになったのにはいくつかの理由があった。一つは2010年前後に起こった、世界的な「クラフトビール」ブームの波及だ。「小規模醸造者により、こだわりの原料・製法で製造された本格的ビール」という「クラフトビール」のイメージが日本にも広がると同時に、日本のマイクロブルワリーの醸造技術もいっそう向上。さらに2018年の酒税法改正により、麦芽、ホップ、水を主原料としながら風味付けの副原料として果実やスパイスを使ったものなども「ビール」と認められるようになり、より多彩な味わいの創出が可能となった。

マイクロブルワリーから全国区のビールも誕生

こうした状況のなか、「地ビール製造免許場」の数は大幅に増加し、2019年には400を超過。ビール醸造所とビール系飲料である「発泡酒」などの醸造所も加えたマイクロブルワリーの数は全国で500を超えると言われている。また、かつては専門店でなければ手に入りにくかったクラフトビールが一部のスーパーやコンビニエンスストアでも買えるようになり、自社製ビールを日本全国に展開したり、海外に輸出する醸造所も登場。近年、ビール自体の消費量は減少傾向にあるものの、ワインのような楽しみ方ができるクラフトビールの人気は確かで販売量も伸びており、今後も期待の持てる市場といえそうだ。

ビジネスの特徴とヒント

高品質と独自性による差別化がポイント

マイクロブルワリーは大量生産ではないため、どうしても単価が高くなる。そんな小規模醸造所のビールに欠かせないのが「品質」だ。これはかつての地ビールブームの際、品質が伴わないビールを製造していた醸造所が淘汰されていったことからも明らかだろう。全国区の名声を得たマイクロブルワリーは、本場のブルワリーから醸造家を招いて数年がかりで製品を洗練させたり、スタッフが海外で醸造の修行をするなど、品質向上に余念がない。また、他では味わえない「ユニークネス」も重要で、醸造に工夫を凝らす、独自の副原料で風味を追求する、地元の銘水を原料に使用する、土地の特産物を副原料に用いるといった工夫も必要になるだろう。

販路の開拓とプロモーションも必須

ビジネスとしては販路の開拓も欠かせない。小売店での販売はもちろん、飲食店への提供、さまざまなイベントへの出店、インターネットを活用した通信販売など方法はいろいろ考えられる。また、ブルワリーに「ブルーパブ」などを併設して飲食店を開業し、そこで自社製のビールを提供するスタイルも珍しくない。比較的味へのこだわりが強いクラフトビールファンを主な顧客層とするマイクロブルワリーは、ブランディングも重要であるため、自社製ビールの独自性などについて説明しながら直接ユーザーへ提供できる「ブルーパブ」は、ファンを拡大する上で有用なツールになるだろう。一方で、ウェブサイトやSNSを活用し、製品の魅力を広く発信するというプロモーションも大切だ。

開業のポイント

ビールか発泡酒の「酒類製造免許」を取得

酒類を製造するには酒税法に基づき、「清酒」「ウイスキー」「ビール」「発泡酒」といった品目別に、所轄の税務署長から製造免許を受ける必要がある。マイクロブルワリーの場合、ここで問題となるのが「ビール」と「発泡酒」どちらの免許を取るかだ。「ビール」も「発泡酒」も麦芽を原料としたビール系飲料だが、税法上では明確に区別され、製造免許も別々。「それなら、より高級イメージのあるビールを」と考える事業者は多いと思うが、免許の取得要件にある「1年間の製造見込数量」は、ビールの場合、年間6万ℓが最低限必要だ。これは、334mℓの小瓶にしておよそ18万本分となる。一方、発泡酒の免許取得に最低限必要な製造量は、その1/10の6000ℓ。この点を踏まえ、マイクロブルワリーの開業にあたっては、「発泡酒」の製造免許を取得する事業者も少なくない。その上で、優れた味わいのクラフトビールを生産している既存ブルワリーも多数ある。

「ビール」と「発泡酒」の製造免許による違い

※ 2026年にはビール・発泡酒の税率が一本化される予定

「製造技術能力」「設備」「資本金」「管理体制」も免許取得の条件

製造免許の申請にあたっては、上で挙げた「1年間の製造見込数量」に加え、当該酒類の製造技術能力、製造設備の有無、資本金や販売管理体制といった経営の状況などが問われ、全ての条件を満たした上で免許が与えられる。つまり、事前に経営と製造の基盤を整えることが求められるのだ。まず必要になるのが物件の取得で、賃貸で済ませる場合も最初に仲介手数料や数カ月分の保証金を支払うのが一般的。加えて内装の費用もかかる。また、麦芽粉砕ミル、発酵タンク、樽やビンの洗浄機といった製造設備の購入費は、中古にするとしても計200万円程度は見ておくべきだろう。併せて製品を保存するための冷蔵庫も必須。さらにランニングコストとして、麦芽、水、ホップなどの材料費、水道光熱費、家賃や人件費などがかかってくる。

「販売」には別の免許が必要な場合も

酒類製造業者が製造した酒を製造場内で販売する場合、酒類製造免許以外は不要だ。しかしそのほかの場合は、販売場ごとに所轄の税務署長より「一般酒類小売業免許」「通信販売酒類小売業免許」「酒類卸売業免許」などの免許を受ける必要がある。また、「ブルーパブ」などとして醸造所に飲食店を併設する場合は、保健所からの飲食店の「営業許可」も必須。さらにその営業が0時以降に及ぶ際は、警察署に「深夜における酒類提供飲食店営業営業開始届出書」を提出する必要もある。

必要スキル

ブルワリー開業に「醸造スキル」は必須

ビール系飲料の製造において醸造スキルは不可欠で、「酒類製造免許」の取得要件にもなっている。ただし日本では、酒税法により少量かつ自家用のものであってもアルコール度数1%以上の酒を免許のない者が醸造することは法律違反であるため、独学で実践スキルを磨くことはできない。そこで、一部のブルワリーや各種スクール・団体が実施している醸造研修を受ける、ブルワリーで働く、醸造科のある大学で学ぶといった形で醸造スキルを身に付けることになる。あるいは、醸造スキルを持っている人を雇い入れるといった方法もある。

「コンセプト設計力」で他社との差別化を

多数のマイクロブルワリーがしのぎを削る今日のクラフトビール業界において、「選ばれる製品」を生み出すには、差別化が大きなポイントになる。「どんな製品」だけでなく、「どう売るか」という全体のコンセプト設計力も重要。風味だけでなく、ネーミングやラベルデザイン、PRの方法などにもそのコンセプトが表れていることが望ましい。これら全てを一人で行う必要はないが、基本的な方向性を定め、完成品の善し悪しを判断する力は欠かせないといえそうだ。

 マイクロブルワリーイメージ02

事業を継続するビジネスのセンスも

ビールが好きでマイクロブルワリーの開業を目指す場合、つい忘れがちなのが醸造を事業として成り立たせていくという視点だ。しかし事業計画立案のスキルなどは「酒類製造免許」申請時点から求められるものであり、本サイトの「起業マニュアル」ページなども参照しながら、一通りの知識は持っておくようにしたい。特に酒類製造では製造免許を申請してからそれが通るまでの期間が数カ月と長く、また製品の製造開始から完成までの期間も1カ月程度はかかり、収益化までにはそれなりに時間を要する。しかし、物件は申請前に取得しておく必要があるため、マイクロブルワリーが収益化する前から家賃負担は発生することになる。そうした条件の下、例えば製造免許を得るまでは併設の飲食店で他社のクラフトビールなどを提供しながら収益を得るなど、さまざまな工夫をしながら事業を継続していくビジネスのセンスも問われることになるだろう。

関連記事