業種別開業ガイド

人材紹介業

トレンド

職業安定法でいう「職業紹介」には、地域の公共職業安定所(ハローワーク)や学校などが行う「無料職業紹介」と、民間企業が行なう「有料職業紹介」があり、このうち有料職業紹介業が人材紹介業と呼ばれている。

(1)慢性的な人材不足により人材紹介事業所数は増加

労働力人口の減少に伴い人材不足が慢性化しつつある中、有料職業紹介事業所(人材紹介会社)への求人数は増加傾向が続いている。この状況をビジネスチャンスとして捉え、有料職業紹介事業所の登録数も増加を続けている。

表、有料職業紹介事業所への常用求人数
表、有料職業紹介事業者数

(2)主たるマーケットは一般事務、営業、看護師、IT技術者

厚生労働省資料によると、平成29年度の民営職業紹介事業(有料)における「常用就職件数実績」で多かった職種は、一般事務、営業、看護師、情報処理・通信技術者などだった。これらの職種は、手数料収入の大きな職種でもある。

一方、「臨時日雇就職(延べ)件数実績」で多かった職種は、配膳、服装モデル、包装、運搬、家事代行、接客・給仕、生産関連などであった。これらの職種の手数料収入は多くない。

人材紹介業の特徴

人材紹介会社は大きく分けて次の3つのタイプに分類される。

(1)一般紹介・登録型

企業からは求人の依頼、求職者からは企業紹介の依頼を受け、条件にあった企業と求職者をマッチングするタイプである。求職者は本サービスを無料で利用することができ、マッチングが成立した時点で求人企業側から紹介手数料を受け取る。
料金体系に関しては、求人・一部の職業の求職において、受付手数料として1件当たり690円を限度として徴収することができるが、受付手数料は無料のところがほとんどである。求人側が支払う成功報酬の紹介手数料は、人材の年収に比例して決められるのが一般的であるが、定額制としている企業も多い。

(2)サーチ型

企業から求人依頼を受け、ニーズに合った人材を探し出して、企業に紹介するタイプである。ヘッドハンティングやエグゼクティブサーチとも呼ばれる。
料金体系に関しては、紹介手数料のほか、着手金を設定する場合もある。紹介手数料の相場は、年収の30~50%程度と言われている。着手金の金額は、採用難易度や採用成功を保証するかなどによっても異なる。

(3)再就職支援型

企業からの依頼により、従業員の再就職を支援するタイプであり、アウトプレースメント型とも呼ばれる。
料金体系は、着手金、相談料、成功報酬からなる場合が多いが、金額は支援やコンサルティングの内容によってさまざまである。また、報酬は依頼元企業から受け、紹介先企業からは受けない場合が多い。

人材紹介業の市場はすでに大手企業が確固たる地位を築いている。そのため、新規参入事業者は、さまざまな分野に特化した、ニッチ市場を狙い差別化を図るケースも多い。
職業安定法(昭和22年法律第141号)では、職業紹介事業者に対し、年度ごとの運営状況についての報告書を厚生労働大臣に提出するよう定められている。各事業所の運営状況は、厚生労働省の「人材サービス総合サイト」でも公表されている。

人材紹介業業態 開業タイプ

あらかじめコンセプトを定め、それに沿って開業タイプを選定することが重要となる。

開業タイプとしては、前述の3タイプに加え、(a)ターゲットを広く全般的な業種・職種にとり、応募者の属性も制限を緩くするタイプ(一般型)、(b)ターゲットを特定の業種や職種に絞り込み、応募者の属性も特化したタイプ(特化型)の2タイプを掛け合わせたパターンが考えられる。

(1)一般紹介・登録型・(a)一般型
(1)一般紹介・登録型・(b)特化型
(2)サーチ型・(a)一般型
(2)サーチ型・(b)特化型
(3)再就職支援型・(a)一般型
(3)再就職支援型・(b)特化型

特化型の場合は、ターゲットを、マーケットの大きな一般事務、営業、看護師、IT技術者などに絞り込むのもよいだろう。

開業ステップと手続き

(1)開業ステップ

開業に向けてのステップは、主として以下の7段階に分かれる。

開業ステップのフロー図

(2)必要な手続き

人材紹介業を行う場合、職業安定法の規定に基づいて許可要件を満たし、管轄労働局を経て厚生労働大臣の許可を受けなければならない。なお、開業場所を決めなければ許可申請はできない。事業所には、求人者・求職者などの個人的な秘密を保持できる構造が必要であり、申請書類を提出する際に、事務所の見取り図などを記載したものが求められる。

サービス構成、顧客づくり

  • マッチングの領域を特化することは、他社との差別化を図るために有効な施策である。たとえば、外国人、新卒・第二新卒、女性、体育会といった「被紹介者の属性」に特化するタイプ。また、IT・通信、医療、コンサルティングなど「紹介先企業の業種」に特化したタイプ。そして、経理、エンジニア、プログラマー、クリエイター、コンサルタントなど「紹介先企業が求める職種」に特化するタイプである。
    ニッチな領域で業務内容を特化することができれば、手数料率を高めに設定することも可能となる。
  • 顧客開拓に関しては、自社ホームページを作成し、求人、求職ともにサイト上から登録を行えるようにする。また、人材紹介会社を集めたポータルサイト(比較サイト)を利用する企業も多い。人材紹介会社ポータルサイトはアクセス数も多いため、中小規模の人材紹介会社にとっては利用する価値が高いだろう。
    このほか、Web広告やメールなどでの営業活動、DM(ダイレクトメール)郵送、電話営業などで登録者を増やすのが一般的である。
    中には、中小企業経営者や人事担当者などをターゲットにした人材採用セミナーを開催し、さらなる顧客開拓につなげている会社もある。
  • 人材紹介業には小規模な企業も多いため、業務領域拡大のために同業他社や人材コンサルティング会社などとの提携も有効である。自社で抱えていながら成約につなげることができていない求人案件をエージェント同士でシェアし合うことでマッチングの確率を上げることができる。

必要なスキル

  • 人材紹介業を営むに際しては、職業安定法や個人情報保護法をはじめとし、厚生労働省からの指針やガイドラインを遵守しなければならず、高度な知識やノウハウを必要とする。そのため、独立開業するに際しては、数年の実務経験が求められる。
  • 紹介する人材は職種への適性が求められるため、人材の資質を見極める能力も担当者には必要である。
  • 個人情報を取り扱う仕事なので、プライバシーの保護や希望連絡方法などは厳守しなければならない。個人情報保護に関する社内ルール(什器の施錠、データベースへのアクセス管理など)を策定し、運用を徹底する。
  • キャリアアップを求めている求職者が多いことから、企業の人事評価基準や仕事の任せ方などに対する見識も必要である。社員に対しては、キャリア・コンサルタントの資格取得を推奨したい。
  • 異業種への転職を希望する求職者も多い。業種特化型や職種特化型の人材紹介会社の場合は、各業界や職種を取り巻く環境など、最新情報は常にチェックしておき、利用者にアドバイスができる見識をもつ必要がある。
  • 人材紹介会社は、1事業所に1名(職業紹介従事者50名あたり1名以上)の職業紹介責任者を置かなければならない。職業紹介責任者の資格を得るには、厚生労働省が指定する機関での講習を受け、試験に合格する必要がある。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

以下は、15坪の事務所で、サーチ型の人材紹介業を開業する場合の例である

【参考】:人材紹介業を開業する場合の必要資金例

人材紹介業開業資金例の表

※このほか、財産基準を満たすため、以下の資金が必要となります。
基準資産:500万円 =事業所数1×500万円
現預金額:150万円 =(事業所数1-1)×60万円+150万円

(1)損益モデル

■売上計画
自社の規模やターゲット層の見込み年収を踏まえて、売上の見通しを立てる。

(参考例)人材紹介業(サーチ型)

人材紹介業(サーチ型)売上例の表

■損益イメージ

(参考例)人材紹介業(サーチ型)

人材紹介業(サーチ型)損益例の表

※人件費は社員2名を想定

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、事業所の状況などにより異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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