業種別開業ガイド
定食店
トレンド
1.注目されている定食マーケット
一昔前、定食店と言えば個人店が小さな店舗で運営しているイメージであった。2000年以降、長く続いたデフレ傾向で外食単価が下がる中、安価で栄養バランスがよい定食チェーンが消費者の需要をうまくつかんだ。この時代の流れを読んだフランチャイズ本部がチェーン展開を進めたこともあり、「やよい軒」「大戸屋」「まいどおおきに食堂」などのフランチャイズチェーンが、全国展開を果たした。
牛丼、かつ丼などの専門店チェーンも、定食需要には早くから注目しており、近年、定食メニューを充実させてきている。定食店という業態は多くの外食企業が参入する、競合が激しいマーケットと言える。
2.定食店が注目される背景
日本の総人口は、2015年の国勢調査で1億2,709万人となっており、2010年の調査から96万人減少しているが、単身世帯数は、晩婚化や未婚化などを背景に、一貫して増加し続けている。
単身世帯者の中には、「1人分だけの食事を作るなら、外食した方が手間もかからずよい」と考える人は多い。また、夫婦二人(もしくは単身)の高齢者世帯も増え、少量の食事を作ることを敬遠して外食をする家庭も増えている。その際には、栄養バランスを気遣い「多種類の料理が提供される店の方が良い」と考え、定食店を選ぶ人がいる。フランチャイズチェーン各社の間では、価格帯やターゲットに応じて棲み分けがなされており、一般大衆向けに料理を低価格で提供するチェーン、健康に配慮したメニューで女性をターゲットとして人気を集めているチェーンなどがある。
定食店の特徴
定食店は、主食、副菜、主菜の一汁三菜のセットメニューを主に提供する飲食業態である。栄養バランスの取れた食事を提供できる点が他の飲食店との差別化要因となっている。
定食店は、家庭料理に近い幅広いメニューを安価に提供するタイプや、有機野菜など素材や調理法にこだわった高付加価値なタイプなどに分けられる。
定食店のマーケットは、コンビニの弁当類も競合となる。コンビニに対する定食店の優位性は「できたてが食べられる」「保存料などが使われていない」「メニューの豊富さ」などにある。
定食店業態 開業タイプ
あらかじめコンセプトを定め、それに沿って店舗タイプを選定することが重要となる。
(1)大衆店
従来の個人経営の店舗で行われてきた、比較的安価に料理を提供する定食店である。近隣サラリーマンや学生などを主なターゲットとしており、男性客を意識して、多めな盛付けを打ち出している店も多い。
(2)高付加価値型店
健康を気遣う女性や中高年齢層をターゲットとした定食店である。食材を厳選し、調理法やセット内容にもこだわった料理を提供する。また、女性を意識して、デザートメニューを充実させている店もある。客単価は大衆店よりもやや高めであるが、内装にこだわるとともに、清潔感をアピールしている。
(3)郊外型店
郊外のロードサイドに30~40坪の食堂を設置して定食を提供する業態である。車で来店する個人客やファミリー層をターゲットとしているため、広めの駐車場と飲食スペースを必要とする。バイキング形式で自由におかずを選んで取れる形態をとっている店もある。
開業ステップと手続き
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、主として以下の8段階に分かれる。
(2)必要な手続き
定食店の開業に際して必要な主な許可や届出は、以下の通りである。
メニューづくり
- 大衆店の場合、「焼き魚定食」や「野菜炒め定食」など家庭料理を再現した品揃えのメニューが一般的である。料理は、ご飯、味噌汁、主菜、小皿・小鉢で構成されるものが多い。しかし、これだけでは高い客単価を望めないので、夜は酒類の需要も取り込むべく、定食とは別に単品料理を用意する必要があるだろう。
- 高付加価値型店の場合は、手の込んだ料理や、良い食材を使っていることをPRし提供することで、客単価アップを図っている店が多い。また、飽きられないように、季節感のある限定メニューを開発している。
- 郊外型店の場合は、多品種、大量のメニューを取り揃える必要がある。おかずは、焼き物、煮物、炒め物、揚げ物、小鉢各種に加え、カレー・丼物、麺類に至るまで、幅広い顧客のニーズに応えられる品揃えが求められる。
- いずれのタイプの店舗にも共通することであるが、高齢者の増加を背景に、彼らに配慮したメニューづくりは重要になるだろう。1食分の量の調整や、塩分などの摂りすぎに配慮したり、食べやすさに配慮したメニュー開発が求められる。
- テイクアウト需要を取り込むことも重要である。持ち帰り用弁当を販売することで、売上アップが見込まれる。最近は、大衆店や郊外型店だけでなく、高付加価値型店でもテイクアウトを始めるところが出てきている。
必要なスキル
定食店業界は、大手チェーンがすでに全国展開をしている。このため、個人店として参入する場合は、独自性のあるメニュー開発や味の追求などで優位性を備えることが重要である。たとえば、健康を気遣う人向けに薬膳を取り入れたり、地元の新鮮な食材を取り入れたりするなど、特色を持たせる工夫が必要だろう。
フランチャイズチェーンの中には、未経験者を積極的に受け入れ、一定期間の後、独立開業することを推奨しているところもあるので、加盟を検討してもよい。
高付加価値型店の場合は、特別な食材を使ったメニューも提供しなければならない。そのため、食材調達ルートの確保と、バラエティに富んだメニュー開発のできる腕のよい調理師の確保が必要となる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
個人店として開業する場合は10坪~20坪程度の店が一般的であり、チェーンに加盟する場合は、20坪以上の店舗もありうる。
【参考】
店舗面積約15坪、席数24席の定食店(大衆店)を開業する場合の必要資金例
(2)損益モデル
■売上計画
店舗の立地や業態、規模などの特性を踏まえて、売上の見通しを立てる。平日、土曜、日曜で来客予想数を変えるなど、細かく作りこむことが重要である。
(参考例)定食店(大衆店)
■損益イメージ(参考例)定食店(大衆店)
- ※個人事業主を想定していますので、営業利益には個人事業主の所得が含まれます。
- ※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況などにより異なります。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)
掲載日:2018年12月