起業マニュアル
起業支援サービスの活用:社会保険労務士
社会保険労務士の業務と業務委託のメリット
1. 社会保険労務士の業務
社会保険労務士とは、社会保険労務士法に基づく国家資格者であり、2011年時点で全国に約3万5,000人の社会保険労務士が活躍しています。社会保険労務士の主な業務としては、人事労務管理のコンサルティング、年金相談、労働社会保険手続代行などを挙げることができます。
最近は、労働関係紛争の増加に伴い、裁判外紛争解決手続き(ADR:Alternative Dispute Resolution)で、従業員と会社間における紛争を未然に防止し解決をはかることも目的としています。なお、紛争解決手続代理業務は特定社会保険労務士の担当業務です。
以下に、社会保険労務士の業務を簡単にまとめておきます。
人事労務管理のコンサルティング
以下のような事項に対し、コンサルティング業務を行います。
- 就業規則の作成、変更
- 36協定など労使協定の手続き
- 労働時間、休日等の労働条件、雇用契約書の作成
- 人事制度や賃金制度の設計
- 個別労働関係紛争の未然防止と解決(紛争解決手続代理業務は特定社会保険労務士のみ)
- 安全衛生管理や福利厚生
年金相談(老齢・障害・遺族年金等)
以下のような年金相談・サポート業務を行います。
- 年金の加入期間、受給資格等の説明
- 年金の請求に関する書類を依頼人の方に代わって作成
- 行政機関への請求書提出
労働社会保険手続代行
以下のような労働社会保険手続きの代行を行います。
- 労働社会保険の手続き
- 労働保険の年度更新
- 社会保険の算定基礎届
- 各種助成金の申請
- 給与計算、賃金台帳等の調製
2.社会保険労務士に業務を委託するメリット
社会保険労務士に業務を委託すると以下のようなメリットがあります。
・企業経営に専念できる
人を雇用すると、保険手続きや届出、給与計算など、さまざまな事務処理が必要になります。手続きを社会保険労務士に委託することで、事業主の方は、労働・社会保険の複雑な手続きから解放され、本来の業務である企業経営に専念できます。
今まで抱えこんでいた業務を外部に委託することで、日々の業務にも余裕も出てきますし、昇給や人事制度の構築など、経営にかかわる分野で、気軽に専門家のアドバイスを受けることもできます。
・難解な労働諸法令から解放され、客観的な視点から適切なアドバイスが受けられる
労働・社会保険関係の法律は、頻繁に改正されます。専門家が身近にいることで、法令改正に関する情報や、その他労務管理全般に関する情報が入手しやすく、それぞれの会社に適したアドバイス、指導が受けられます。また、社内で発生したトラブルや課題について、同業他社ではどのように対処しているかなど、役所には聞けない様々な疑問・質問に対しても可能な範囲でお答えしています。
・助成金について相談できる
今、多くの中小企業が抱えている資金や人材の不足という課題に対して、助成金を活用するという解決策もあります。助成金は、主に従業員を雇用する際に生じた費用に対して国から支給されるもので、融資等と異なり返還の必要はありません。
例えば、従業員を雇い入れた場合、福利厚生など労働条件を改善した場合、能力開発のための研修を行った場合、育児や介護の支援をした場合などに、助成金を利用できることがあります。また、最近では「雇用調整助成金」など、不況時にも役立つ助成金を多くの企業が活用しています。
社会保険労務士は、きめ細やかなコンサルティングを通じて、各種助成金の利用を提案しています。
・事務手続きのアウトソーシングができる、人件費を削減できる
業務委託によって、労働・社会保険に関する行政機関などへの報告、届出、手続きがスピーディに処理され、帳簿書類も正確に作成されます。また、給与計算なども依頼できます。毎月の給与計算は、意外と手間のかかるものです。タイムカードを集計して入力したり、給与から控除する保険料の算出や、残業代の計算など、正確に処理するだけでも時間と労力がかかります。プロの知識を活かし適正に処理することで、「今まで保険料を多く支払っていた!」という事実が発覚し還付の手続きをしたところ、事業主の方に喜んで頂けたこともありました。また社内に、これらの業務を行う担当の事務員を配属する必要がなくなり、人件費の削減にもつながります。
・従業員とのコミュニケーションが改善される
事務手続きや給与計算が的確に処理され、雇用契約書や社内規定が整備されると、従業員から信頼される会社になっていきます。従業員の能力を最大限に発揮させ、効率よく生き生きと働いてもらうことで、組織風土の改善にもつながります。
また会社の実情を専門家の目で分析し、労務を中心としたきめ細かいコンサルティングを行います。労働条件の改善により企業の更なる活力を生み出します。
・労使間のトラブルに落ち着いて対応できる
労使間のトラブルは、経営にかかわる痛手をもたらす結果となる場合があります。最も大切なのは、未然にトラブルを防止することですが、労働基準監督署の調査が入ることになった時や、従業員が労務問題で役所に訴えた場面などでも慌てないよう、経営者とともに紛争解決のお手伝いをします。
3. 社会保険労務士との上手な付き合い方
社会保険労務士も人によって得意な分野とそうでないものもあります。「フットワークが軽く気軽に相談できるタイプ」もいれば、「知識と経験が豊富な学者タイプ」の人もいます。「今、自社に必要なのは、どの分野に強い、どんなタイプの社会保険労務士か」ということをよく考えて、自社に合った社会保険労務士を見つけてみてはいかがでしょうか。
よく「こんなことを聞いて馬鹿にされないか」とか「社会保険労務士は、結局は労働者の味方なのでしょうか」といった不安を吐露する事業主の方もいます。複雑な労働関係の法律や労務管理についてわかりやすく説明することは、社会保険労務士の大切な業務の一つです。また、労働関係紛争で企業から依頼を受けたのであれば、まずは依頼者=企業の利益を考えた上で、公明正大な立場で、会社と従業員にとって一番良い結果を導き出したいと考えます。安心して社会保険労務士にご相談ください
(執筆・監修:特定社会保険労務士 岩野 麻子)
最終内容確認 2018年3月
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