業種別開業ガイド
特殊清掃業
2022年 1月28日
トレンド
(1)高齢者人口・一人暮らし世帯の増加
令和2年9月に総務省が公表した「統計からみた我が国の高齢者」によると、65歳以上の高齢者数は3,617万人で過去最多となった。総人口に占める割合も28.7%と過去最高を更新し、増加の一途をたどっている。また、国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」によると、単独世帯(独居世帯)の数も増加傾向となっており、これらに伴う形で孤立死・孤独死(※)も年々増加傾向となっている。東京都が公表している「東京都監察医務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計(令和元年)」によると、東京都23区の単身世帯の異状死数は5,000人を超えている。なお、この異状死のうち、65歳以上の割合は約7割を占めている。
このような孤立死・孤独死の増加により、特殊清掃が必要となるケースが増えている。さらに失業による自殺や、持病の悪化により、減少傾向だった自殺者数は2020年に増加に転じて、2021年1~5月の累計でもすでに前年比で113%となっている。
このような背景から、今後も特殊清掃業の需要は増すものと考えられる。
※孤立死や孤独死には明確な定義がないため、ここでは「単身世帯の異状死」とする。
(2)新型コロナウイルス感染症による需要の高まり
新型コロナウイルス感染症の影響拡大・長期化も、特殊清掃業の需要を高めている。病院や公共施設、ホテルや飲食店など多くの人が集まる施設等で、感染症対策の目的で除菌消毒作業が増加している。個人で行う対策とは異なり、特殊な機材を用いて適切な薬剤を噴霧し、全面的に除菌消毒できるため今後も需要の増加が見込まれる。
(3)特殊清掃業の種類
特殊清掃とは、事件、事故、自殺、孤独死などの現場で遺体の痕跡を取り除き、除菌・消臭、害虫駆除、解体やリフォームなどにより室内の原状を回復するための清掃作業を指す。前述のとおり近年では、孤独死などの増加や新型コロナウイルス感染症の発生拡大長期化に伴い、特殊清掃業者は急増している。
主な事業と内容については以下のとおり。
【ハウスクリーニング】
血液、体液の清掃や、汚れ、悪臭を専門の薬剤と専門機材を用いて除去する。害虫駆除も行う。特殊清掃という特性からリフォームとなる事が多い。
【遺品整理】
必要な遺品と不要な遺品を分別する。不要な遺品は一般廃棄物として処分する。
【不用品処分】
異臭や汚れが付いていた場合は一般廃棄物として、適切に処分する。
【除菌消毒作業】
特殊な機材を用いて、適切な薬剤を噴霧する。
事業の特性
先述のとおり、高齢者人口や独居率は増加の一途をたどっているため、特殊清掃の需要は今後も必然的に増加すると見込まれる。特殊清掃業界は歴史も浅く、他業種からの新規参入企業も増加しており、薬品の知識や取扱手法による特殊清掃技術の向上や、各種許可登録をし、自社HPでアピールするなど、信頼獲得に向けた情報発信も必要となってくる。
また、緊急な依頼の対応が求められることもあり、肉体面、精神面でタフさが求められる。さらに、故人がB・C型肝炎や、HIV、結核、新型コロナウイルスなどの感染症を患っていた場合、作業員にも感染する恐れがあるため、防護服を着用するなど、十分な対策が必要となる。
開業タイプ
開業に際しては、必ずしも資格が必要となる訳ではない。しかし、一般社団法人事件現場特殊清掃センターが発効する「事件現場特殊清掃士」などの資格を取得すると、開業支援を受けられるなどのメリットがある。
開業タイプとしては、個人または法人として独立する形態と、フランチャイズに加盟する形態に大別される。
(1)独立型
個人または法人として独立する場合には、「事件現場特殊清掃士」などの資格を取得したうえで開業した方が、その後の事業展開に有利に働くものと考えられる。
(2)フランチャイズ
開業エリアを選定し、事業所所在地を決定。技術面や営業面、特殊な洗浄剤を入手できるなどのサポートがある。また、有名な屋号を使えることや、一人で対応できない場合のスタッフ手配もメリットとなる。
開業ステップ
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、概ね以下のとおりとなる。
(2)必要な手続き
税務署に開業届を提出する。そのほか、顧客の信頼を得るためには、都道府県に申請して取得できる各種許可などは手続きをしておくことが望ましい。
必要なスキル
先述したとおり、開業に際しては、必ずしも資格等は必要ない。ただし、特殊清掃の現場は人が亡くなった現場であるため決してクリーンではなく、強い精神力が求められる。また、腐敗物のついた家具や家電を運ぶ際には体力も必要となるため、精神・体力ともに自己管理能力が必要となる。そのほか、遺品整理時などでご遺族の方と対面した際には、ご遺族の心境に寄り添い、ケアができるよう、心構えと気遣いが必要となる。遺族の心の回復をサポートする資格に「グリーフケア・アドバイザー」がある。
また、特殊清掃業の業務内容によっては、個別の資格や許認可が必要となる場合もある。
例えば、壁紙や畳、床材の張替えを行うことを想定している場合、請負代金が消費税込500万円以上になるケースなどでは、内装仕上工事業の許可が必要となる
このように業務内容によっては、取得が必要となる資格や許認可があるため、自身が開業時に考える業務内容に応じて、資格取得や身に付けるべきスキルについて考える必要がある。
先述した「事件現場特殊清掃士」については、年齢制限などなく、誰でも受けることができ、開業のうえでも有利に働くことから、取得することが望ましい。
「事件現場特殊清掃士」の資格取得には、通信講座の受講が必要である。
その他、特殊清掃業を起業するにあたり役立つ資格・許可証として、以下がある。
- 清掃作業監督者
【公益財団法人日本建築衛生管理教育センター】
- 防除作業監督者
【公益財団法人日本建築衛生管理教育センター】 - 脱臭マイスター資格
【一般社団法人日本除菌脱臭サービス協会、日本除菌脱臭サービス協会】 - ハウスクリーニングアドバイザー
【日本生活環境支援協会】 - 遺品整理士
【一般社団法人 遺品整理士認定協会】 - 古物商許可:遺品などを売買する場合に必要
【警察署に申請して許可を取得】 - 産業廃棄物収集運搬業許可:買い取った物が不要になった時に産業廃棄物として破棄する場合に必要
【都道府県知事に申請して許可を取得】 - 内装仕上工事業許可:リフォームの請負代金が税込500万円以上になる場合に必要
【必要な条件を満たし、都道府県の担当窓口に申請して許可を取得】 - 建築物清掃業登録:都道府県に認められた業者となる
【必要な条件を満たし、都道府県の担当窓口に申請】
開業資金と損益モデル
概ね1,000~2,000万円程度の開業資金が必要となるケースが多く、小資本での開業は難しいのが現状である。また、消臭機械などの機材は高額に及ぶ可能性もあることから、清掃道具費は下記のとおりとした。
なお、遺品整理を中心とした特殊清掃業では、遺品の処分費用などが更にかさむ可能性もある。
(1)開業資金
(2)損益モデル
a.売上(事業活動収益)計画
現在では、特殊清掃業者は大幅に増え単価は下落、単なる特殊清掃業では5~10万円程度が相場となっている。また、現場作業であるため人手がかかり、開業者のみで開業するのは、ほぼ不可能である。
したがって、最低でも3~4人のスタッフを確保し、孤独死の室内の原状回復など、少しでも単価の高い仕事を受注することが望ましい。また、遺品整理業なども兼業し収入を増やす取組が有効である。
下記は、経営者を含め3人での開業を想定した売上モデルである。
b.損益イメージ
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は、その他の建物サービス業に分類される企業の財務データの平均値を掲載(出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)。
c.収益化の視点
顧客からの支払いは基本的に現金回収でありリスクは少ないものの、近年は事業者の増加から単価は下落、また作業内容は手間や時間がかかり人手のいる作業であることから、効率よく業務を廻すのは難しい業態である。
したがって、相応の人員を確保する必要があり、固定費の負担は決して軽くはない。それだけに、最低限固定費を賄えるだけの受注を確保できるような体制を整える必要がある。まずは、人員を確保し、一定の受注を確保できる体制をと整えることが需要となる。
ただし、安易に拡大路線をとって人員を増やすと固定費の上昇を招くので注意が必要である。内装仕上工事業や遺品整理業などの業務も手掛け収入源の多角化を図るなどの工夫が必要である。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)