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米国PBT規制のPIP(3:1)の含有濃度は"0"にしなくてはならないのでしょうか。分母はEU RoHS指令と同じ均質物質でしょうか。
2021年10月27日
米国PBT規制のPIP(3:1)の含有濃度は"0"にしなくてはならないのでしょうか。分母はEU RoHS指令と同じ均質物質でしょうか。
回答
弊社は電気機器に組み込む電気ユニットを製造しています。お客様から米国PBT規制のPIP(3:1)の非含有保証が要求されました。最大許容濃度は記載されておらず、含有濃度は“0”にしなくてはならないのでしょうか。分母はEU RoHS指令と同じ均質物質でしょうか。
PIP(3:1)の最大許容濃度は規定されていません。
PIP(3:1)は、軍事目的、潤滑剤、グリースや自動車用などの特定用途は使用が認められ、それ以外は使用禁止となります。このため、PIP(3:1)の製造者及び混合物加工業者は、下流通知で特定用途以外は使用禁止を明示する義務が課されています。
特定用途以外は使用禁止ですから、言い換えれば特定用途以外は「意図的使用禁止」ということになります。
分母は、製品の構成部品などの成形品となりRoHS指令の均質物質ではありません。EU REACH規則と同じです。
ただ、PIP(3:1)の成形品への適用は、当初は2021年3月8日でしたが、180日間のノーアクション保証(No Action Assurance :NAA)が3月8日に出されて9月4日まで執行が中止されました。9月17日の官報で、さらに2022年3月8日まで延期され、この間にパブコメをとり再度遵法日を決定するとしています。
1. 最大許容濃度
TSCA(Toxic Substances Control Act:有害物質規制法)のPBT(難分解性、生物蓄積性、毒性) 物質のPIP(3:1)は、e-CFR §751.407 (PIP (3:1))で規制されます。(*1)
§751.407ではPIP(3:1)の最大許容濃度は規定されていません。規制目的は子ども、妊婦、労働者、職業非利用者、消費者(高齢者を含む)のばく露防止で、PIP(3:1)の製造、輸入を禁止するのが理想的な手段です。
一方で、軍事目的、潤滑剤、グリースや自動車用などは、使用の利便性がばく露リスクより高いと評価され、これまで多用されてきたプラスチックのリサイクル材などは規制除外となっています。
PIP(3:1)は、廃絶物質とされていないことになり、特定用途は使用が認められ、それ以外は使用禁止となります。このため、PIP(3:1)の製造者及び混合物加工業者は、下流通知で特定用途以外は使用禁止を明示する義務が課されています。
特定用途以外は使用禁止ですから、言い換えれば特定用途以外は「意図的使用禁止」ということになります。
chemSHERPAの情報伝達対象物質を特定しているIEC62474のDSL(Declarable substances List:報告対象物質リスト)のPIP(3:1)では、報告要件は以下のように“Intentionally added”としており、意図的に添加していなければ報告対象外としています。(*2)
TypicalApplications :Flame retardant and/or plasticizer in polymers such as flexible polyurethane foam and PVC, lubricant, hydraulic fluid, adhesives and sealants. Examples: gasket, wire sleeve, tape.
ReportableApplications :All
ReportingThreshold :Intentionally added
しかし、結果として製品にPIP(3:1)が含有していた場合は、「意図的」と「非意図的」の区別はつきません。「意図的」であれば“0”が基準となり「非意図的」の場合は“基準値はない”ことになります。
因みに、EU RoHS指令の特定有害物質の最大許容濃度は、「意図的」「非意図的」を問わず、例えばカドミウムは0.01重量%などになっています。
RoHS指令の先行規制法のELV指令(EC)2000/53の初期には、以下のように附属書の脚注として非意図的の場合においてとされていました。
鉛、六価クロム、水銀の場合、均質材料あたり最大0.1重量%、カドミウムの均質材料あたり最大0.01重量%の最大濃度値が許容される。ただし、これらの物質が意図的に導入されていない場合に限る。
「意図的に導入された」とは、「特定の特性、外観、または品質を提供するために、最終製品に継続的に存在することが望まれる材料またはコンポーネントの配合に意図的に使用される」ことを意味する。
新製品の製造のための原料としてのリサイクル材料の使用は、リサイクル材料の一部に規制された金属が含まれている可能性があるため、意図的に導入されたものとは見なさない。
「意図的」と「非意図的」判断が、当局によって判定されるのは企業にとって大きなリスクになるとして、ロビー活動を展開し、「意図的」と「非意図的」の用語は記載されなくなりました。
これと同じ考え方が、IEC62474のDSLに記述に繋がっています。
コンタミやリサイクル材中の残渣も想定できますので、貴社は「意図的にPIP(3:1)含有部材を購入していない」「工程で意図的にPIP(3:1)を含有していない」ことを手順書や基準で示せるようにしておくことが必要となります。
製造業では仕組みで品質保証すると言いますが、これと同じことです。ISO9001などのマネジメントシステムの手順書などを整備することになります。
2. 分母の解釈
貴社製品は成形品になります。
40 CFR §751.403(定義)で、成形品は以下のようにEU REACH規則と同じとなっています。
- 製造中に特定の形状またはデザインに成形されたもの かつ、
- 最終使用時に、その形状またはデザインに機能の全部あるいは一部が依存する最終使用時の機能(end use function(s))を有するものであって、かつ、
- 最終使用中に化学的組成の変化がないか、あるいは成形品とは別の商業的目的を持たない組成の変化のみで、他の化学物質、混合物または成形品の最終使用時に生じる化学反応に起因するもの。ただし、流体(fluids) や粒子は、形状やデザインに関係なく成形品とはみなされない。
成形品は部品などの多く成形品を組み合わせてユニットという成形品になっています。この構成成形品の個々を分母として、濃度計算をします。RoHS指令の均質物質まで細分化することは要求されていません。
3. 成形品に対するPIP(3:1)の執行延期
TSCAは、PIP(3:1)を含むPBT 5物質の規制法は、2021年1月6日の官報で告示し、3月8日に発効しました。
PIP(3:1)の制限は以下です。
(a)禁止事項
(1)総則
本条の(a)(2)および(b)に規定されている場合を除き、すべての者は、2021年3月8日以降、PIP(3:1) 含有製品または成形品を含め、PIP(3:1)のすべての加工および商業的流通が禁止される。
(2) PIP(3:1)およびPIP(3:1)含有製品あるいは成形品の特定用途に関する段階的禁止事項
(i) 2025年1月6日以降、接着剤および封止剤用途の PIP(3:1)、接着剤および封止剤用途のPIP(3:1)含有製品、および PIP(3:1)を含む接着剤および封止剤の加工ならびに商業的流通が、全ての者について禁止される。
(ii) 2022年1月1日以降、すべての者が、写真印刷用成形品(photographic printing articles)に使用する PIP(3:1)およびPIP(3:1)を含む写真印刷用成形品を加工して商業的に流通させることを禁止される。
しかし、利害関係者から規制の延期が要望されたことを請けて、3月8日に成形品に関し9月4日までの180日間のノーアクション保証(No Action Assurance :NAA)を告示しました。
NAAは成形品が対象で、それ以外は下流通知などの義務はあります。
NAAの期限の9月3日に、PIP(3:1)が添加された成形品に関する規制遵守開始時期を2022年3月8日まで延期する“PRE-PUBLICATION NOTICE”(公開前通知)を公表しました。
正式には9月17日の官報で延長を告示しました。(*3)
同時に、告示では、近い将来、NPRM(Notice of Proposed Rulemaking)を発行し、再延長の必要性のコメントを求めるとしています。
利害関係者の意見は、数年から長いものでは10年を超えるものもあり、これらを考慮して2022年3月8日までに遵守開始日を決定すると思われます。
貴社製品の電気ユニットは、早くても2022年3月8日までは、NAAの対象となります。
4. NAAの根拠
正式に告示した規則を次々と執行を延期しており、日本の感覚からすると奇異に思えます。
PBT物質は、第6条(h)によりEPAが特定します。特定されたPBT物質は、第6条(a)の次のリスク措置をEPAが決定します。
(A)物質・混合物の製造、加工、商業的流通の禁止または制限 及び/又は
(B)物質・混合物の製造、加工、商業的流通の量の制限
この決定では、第6条(h)(5)で「実行可能」という条件が規定されています。ただ、「実行可能」の要件は示されていなく、利害関係者の要求が考慮されることになります。
最終確定まで、紆余曲折があると思われます。
引用情報等:
- 回答者
-
中小企業診断士 松浦 徹也
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